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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
初等科3年生
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どんよりとしていた部屋

エリザベスが休みの日に特別監査室へ行くと、建物内の空気はどことなくどんよりとしていた。

いつもはせわしなく動いているパレスくん、来れば陽気に声をかけるヘンリーも曇った顔をしているので余計にどんよりとしていた空気が漂っていた。


「どうしたの?もしかして都合が悪かった?」


私は気持ちを落ち着かせてから恐る恐る聞いた。


「いいや、そんなことはない。メイデン子爵家、噂に聞いてたよりもヒドイものだったからな。」


ヘンリーにしては元気のない声で答えた。

その答えで私は彼らがどうしてこんな状態なのかをなんとなく察した。


(メイデン子爵のことね………)


ソルティー=メイデン子爵が少し前に亡くなったという知らせを聞いた。噂によれば、メイデン子爵の葬儀はひどいものだったらしい。


「あの方々の非常識なんて今更じゃない?」


口に出してからハッとした。

特別監査室の面々は死者に酷いことをしたことについてこんなにも静かに怒っているのだろうということに気づき、しまったと思った。


「……ベスの言う通りだよ。式典にあんな格好して来るぐらいだからな、ある程度は予想してたよ………だけど、情けねぇよ。」


「情けない?」


「あいつらはソルティーさんが死んだことなんてどうでもいいんだ。それも分かってる、けどなそれじゃあまりにもソルティーさんが浮かばれねぇじゃないか」


ソルティー=メイデン子爵は苦労人だと聞いたことがある。

元は亡国の軍人だったらしい、それがこの国に来て兵士から子爵にまで成り上がった。


(確かに………)


本人はその気はなかったのかもしれないが、せっかく築き上げたメイデン子爵家があのような一族によって汚される。

私はかの無口な男の無念を心の中でソッと考えた。


落ち込んでいる私の足元にふんわりとした毛の感触があった。


「ニャーゴ……」


あの中庭の猫がまたエサをねだりにやって来ていた。


「今日はエサはお休みよ、さあ学園におかえり。」


「ニャーン?」


私は優しく猫に言うが猫は分からないといった風な顔をしている。


「君は……クロ、ごめんねエサはないよぉ。」


パレスくんは寂しげな顔をしながら猫に言う。猫はパレスくんの言うことを理解したのかトボトボと帰っていった。


(本当……そんなにヒドイ葬儀だったの?)


アベルの様子はこの前猫のたまり場になったことでキレていた時とは別人のように感じる。

この事をなんとも捉えていないように見えるが必死に自分の感情を悟られないように隠している。


この部屋の空気のようにどんよりとしていた気持ちを抱えながら私はションちゃんがいる奥の部屋の方へ行く。


「…………」


木のドアのキィーという音が静かな部屋の中に反響する。

ションちゃんは机に向かって何かをしているようだった。


「ショ、」


呼び掛けようとしたが、そんなことをしてはいけないような雰囲気だった。

私は静かにドアを閉めてヘンリー達と少し話した後特別監査室を出た。



「メイデン子爵、可哀想に……本当なら後もう少し生きられていたのに」


メイデン子爵が亡くなったのと同時期、シス王女から手紙が届いた。

“そういえばいってなかったけど物語開始は中等科2年の時、ヒロインの祖父の死亡で隣国に住んでいた彼女の父親が貴族になったからよ。

イチヤも貴女に会いたがっているわ……。そういえば彼と上手くやってる?”


「シス王女、私は………」


私の言葉は風にかき消されて誰の耳にも届かなかった。

春も近いというのに、私の心は冷たく寒い冬のようであった。


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