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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
初等科3年生
52/229

無口な男の葬儀

エリザベスは出てきません。

特別監査室のアベルの視点です。

新年も明け、春の兆しが見え始めていた特別監査室に突如としてその知らせは舞い込んできた。


「え………ソルティーさんが!?」


そう、ここに昨年度まで勤めていたソルティー=メイデン子爵の死去と言う知らせであった。


「前に会ったとき具合が悪そうでしたがまさか……」


アベルはそう言う。

彼が最後にメイデン子爵に会ったのは6月のこと……もう7ヶ月と少したっていた。


「私達も、葬儀参列の準備をしましょう。」


そう言うアベルの声が静まり返った特別監査室内に響いた。


レミゼ王国の葬儀は貴賎問わず控えめに行われるのが慣例である。

葬儀は控えめ、結婚などの祝い事は盛大にというのがこの国では当たり前のことである。


「これは…………」


ボロボロの棺、しなびた献花用の花………。

いくら控えめに行われるのが慣例とはいえ見ただけでけちったのがよく分かる葬儀であった。


「……室長、これはいくらなんでも_」


「ダメだ、あの人達は遺族です。それに私達が口出しした所でどうもしない……」


アベルの側に控えていたショーンは珍しく感情を露にして怒っている。

アベルもショーンの気持ちは痛いほどよく分かった、これは死者を冒涜する行為だ。


棺の最も近くに座っているのは、あのジョアンナの父親のブライアン=メイデン、その横にはブライアンの妻、そしてジョアンナと彼女の弟と妹という順番であった。


(ひどい、ひどすぎる……)


わざとらしく泣くメイデン夫妻やジョアンナ達を見ているとひどく冷めた気持ちになる。

彼女の弟は泣いていなかった、幼いながらもしっかりと背筋を伸ばして何かを堪えているような様子でこの中では1番彼の死を悼んでいるように思えた。

妹の方は立つのがやっとといった様子で、義理の祖父の死を理解しているとは思えない。


「この度は__」


心にもないことを言い、悲しむ様子を彼らが見せることは一切なく葬儀は終わった。


「あれは、ひどいな……。」


自分達を含めてそんなにいない参列客の誰かの声が聞こえてきた、まったくだとアベルは思った。


「あいつらが悪い方向に利用されそうで、それが怖くなってきた……。」


「ヘンリー、どういう意味ですか?」


ヘンリーも変な事を言っている。


「世間では、あいつらの事を“第2のレミゼの膿”なんて言っているがそれは違う。

あの“レミゼの膿”と呼ばれたヤヌス家に誰も近寄らなくなった理由知っているか?」


「どうしてですか?」


「それはな、あいつらを利用しようとしたら利用する側も何らかのダメージを食らうからだよ。

あいつらはただバカやってたから誰も近寄らなくなった訳ではない。」


なるほど……。ヤヌス家が長く続いた秘訣はそれだったのかとなんとなく納得した。


「つまりは“レミゼの膿”は娘の教育に失敗したということか……。」


「そう言うことだ。

だけどね、メイデン子爵家は違う。あいつらは贅沢するしか能がない、金がつきるのが先か悪いやつらに利用されて滅ぶのが先か……。

死んだソルティーさんには申し訳ないけど金が尽きて早くくたばってほしいな、俺は。」


「ヘンリー、そんなこと……」


アベルはそんなこと考えてはいけませんよと言おうとしたが、果たして自分がそれを言ってもいいのかと思うと口に出すことは出来なかった。


「流石に言い過ぎたか、まぁ俺は先に戻るよ。まだ仕事あるし」


「分かった、私もすぐに戻る。」


ヘンリーは私が黙っていることを、自分の発言を咎めているのだととらえたようできまりが悪そうな顔をして去っていった。


「ションちゃん、貴方も戻らないのですか?」


「いいえ、少し落ち着いてから戻ろうかと……」


さっきから何もしゃべらず黙っているションちゃんに声をかける。


「ションちゃん、何か心配事でも?」


いつもより沈んでいるようだったので心配になり声をかけたが、


「いいえ、何も。では私も行きます。」


ションちゃんはこう返してスタスタと歩いていった。彼が何を考えているのかはアベルにはよく分からなかった。


「春も近いというのにまだまだ寒いな。私も戻るか……」


身震いをしながらアベルは特別監査室の方へ戻っていった。



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