もう1人の転生王女
転生王女の視点です。
シス=ナクガアは、転生者であった。
その事に気がついたのは、4、5歳の時、遠い昔の話だった。
父親の国王には3人の側室がいた。その2番目の妃を母に持った私はよくある側室の子だから疎まれた、女だから邪魔者扱い等と言ったこともなくのびのびと育っていた。
___幸福の国、私はその言葉でここがあの恋の学園シリーズの世界だと言うことに気がついた。
「__私は、悪役王女……」
思い出したのは、自らの立ち位置。
私は悪役王女だった、弟のイチヤ王子が攻略対象、正確には隠れキャラで彼のルートでの悪役であった。
“恋する幸福な国で”と言う人気ゲームの外伝的なゲームがあった。
攻略対象は5人+隠れキャラ1人でそれぞれのキャラによって悪役は異なり、隠れキャラのイチヤ王子ルートの悪役がこの私なのだ。
「それにしてもなんて物好きが多い世界なのよ、ここは。」
教会から出てからポツリと言う。
6人と最初に会うきっかけをつくり、その後ヒロインとキャラとの恋のサポートをする人物がフェルナンドである。
転生者とは思っていたがまさかフェルナンド狙いだとは思わなかった。
「確か、攻略対象は………」
攻略対象はアルベルト=ド=レミゼ、シャルル=ダルテン、レオン=バルベシュタイン、ジスト=メルサイユ、トール=ドレリアンだった気がする。
いずれもエリザベスと関係のある人物である。
アルベルトは兄、シャルルは護衛の騎士、レオンは再従兄弟、ジストは同級生、トールは兄の友人。
「それに………エリザベス王女は、それぞれのルートで散々な目に遭うのよね」
アルベルトルートでは悪役のマリア=ローザンヌと共に断罪され(エリザベスは登場もしていなければヒロインと関わってすらない)、シャルルルートでは謎の病死(何故死ぬ必要があったのか本当に謎)、ジストルートでも謎の病死、トールルートでは幽閉、レオンルートでは唯一普通にナクガア王国へ嫁いでいった。
「………思い出したくもないし、これをどう話そうかな」
そう、本人にこんな残酷な事実をどう切り出そうか……
前世でこのゲームをしていたとき、どうしてセリフにしか登場しないエリザベスがとばっちりを受けなければならないのか本当に困惑した覚えがある。
「そして、イチヤとのルートでは、ね、」
私の弟で隠れキャラのイチヤ王子ルートでは、確かヒロインは誰からも認められないと荒んで暴君寸前だった弟を明るい性格で癒す。
そこに登場するのが私だ、義理の妹となるエリザベス王女を何故か妄信的に崇拝する私がヒロインにいろいろとやらかすのだ。
そして、エリザベス王女は過去に弟のオーラを視る力を拒絶したことや少々ワガママな性格、そして私の様子から私を操ったのではないかと嫌われ正妃とはなるが愛のない結婚生活を送ることとなる。
「話せない、いや言うべきなのかな……」
言うべきなのだろう、だけれども言う気になれない。
「ふう、私もね弟と同じでショーン=オンリバーンとかいう人と幸せになってほしいんだけど……」
エリザベス王女には幸せになってほしい、出来ることなら弟ではなく好きな人と結ばれてほしい。ゲームでもここでも不幸になるなんてそんなことあってなるものか、私は静かに憤った。
「いいえ、そんなことあってはならない!」
眼を閉じて、そっと胸に手を当てた。




