はじめてのナクガア王国
7月、テストも終わり遂に夏休みとなった。
そして、今年は婚約者イチヤ王子がいるナクガア王国へ数日間滞在することとなった。
今はその道中である、馬車でユラリユラリとゆられている。
あの転生ヒロインの動向も気にはなるが久しぶりにイチヤ王子と会えることは少し嬉しく思う。
「やっぱり北国だから涼しいところなのね。」
レミゼ王国は夏真っ盛りで暑い、だがここは爽やかな涼しさがある。
「エリザベス王女、あちらが王城でございます。」
護衛の声が聞こえてきたので外を覗きこむと、
「うわぁ………!」
遠くの小高い丘の上に雪のように真っ白な王城がそびえ立っていた。
「もしかしたらウチよりも幸福なのかもね、ナクガア王国は。」
私はナクガア王国はもしかするとレミゼ王国よりも“幸福の国”なのではないかと思った。
それは、人々は皆誰一人として悲しそうな顔をしている者はなく街はいきいきと活気があったからだ。
王城の壮麗な門をくぐり馬車から降りると、そこにはイチヤ王子がいた。
彼は、今までとは違いナクガア王国の優美な礼服に身を包んでいた。
「エリザベス王女、ようこそ。」
私はイチヤ王子に連れられて王城内に入る。そしてその後、国王夫妻への謁見を済ませてイチヤ王子の部屋にて2人で話すこととなった。
「で、あのあと“彼”とはどうなの?」
“彼”とはションちゃんの事である。
………私は別に彼とそういう関係になろうとは思っていないんだけど。
私の視線から何を言わんとするのか察したイチヤ王子は冗談、冗談と笑いながら言った。
「………それにしても君の周りになんか変なオーラを感じるなぁ、何だろうか」
「え、そうですか?」
「いや、気のせいかな?それにしても君、寒そうだねそのドレスじゃあ。」
そう、先程から私は肌寒く感じていた。
昔から夏は暑いレミゼ王国は細かな装飾や色などは流行によって変わるが、薄い生地でふんわりと膨らませたドレスが好まれている。
今の私もそのようなドレスを着ていた。
「レミゼはもう何百年もこういうのなんです……」
「それくらい、私が贈ろう……」
「いや、ですが……私は別に大丈夫です。」
イチヤ王子が私のドレスを?
彼とドレスというなんとも言えない組み合わせに私は吹き出してしまった。
「何がおかしいんだい?今のどこに笑う要素が……君は面白い人だね」
呆れたようにイチヤ王子も微笑した。
「はぁい!ここにエリザベス王女がいるんでしょ?」
いきなり、バンと扉が開かれて女の人が私に向かってそう言う。
誰だろう?もちろん私はイチヤ王子以外にナクガア王国に知り合いはいない。
「あ、姉上!どうしてここに!」
イチヤ王子が女性に向かってそう叫ぶ。イチヤ王子がこんなにもうろたえた姿は初めてだった。
姉上ということは彼女はイチヤ王子の姉、この国の王女であるのだろう……。
「まぁまぁ来てよ、ちょっと話したいこともあるし。貴方のかわいい婚約者を少し借りるわよ!」
私はそのまま女性に引っ張られていってしまった。




