年寄る哀しさ
無口な男ソルティー=メイデン子爵の視点です。
特別監査室から出た私は王宮をゆっくりと歩きながら
「…………いい職場に出会えたな。」
そう呟いた。
私、ソルティー=メイデンは元は25年前に滅んだサルディン王国の軍人であった。
サルディン王国の商人の息子として生まれた私は兵士となり、才能が認められた私は若くして兵隊長となった。
ある年、西の国との間に戦争が起こった。その戦争で私は忘れられない出会いをした。それは敵の将軍であった、彼は大切そうに薔薇のペンダントを握りしめたまま死んでしまった。
(今でも忘れられない、あの男には大切な人でもいたのだろうか)
幾多の戦争を経験した私だったが、この時始めて人を殺すことに罪悪感を覚えた。
その後、戦争は終わった。その後も国は他の国と戦争続けた、そしてその戦費を捻出するために増税を続けた国はその後内乱が起きて滅んだ。
住む国が滅んだ私たち家族はこの幸福な国に逃げてきたのだ。
昔話を思い出しているうちに、馬車が到着してきたので馬車に乗り込む。
「さあ、出してくれ。」
私は馬車に揺られる。
元軍人の経歴が買われた私は、なんとかこの国でも兵士になることができた。
そして、15年前に辺境に侵攻してきた賊を撃退した功績で私は子爵に取り立てられた。
(あの時は大変だった、今考えても幸運だった。)
特別監査室設立、中立派ばかりを集めたその集団に何故か私は選ばれた。
私は派閥と言うものに興味がなかったからなんとなく中立派に居た、ただそれだけだった。他のメンバーは名も実力もある人々、私は正直彼らに敵うほどの実力もなにも無いと自分でも思っている。
「本当にどうして私だったんだ?」
私は、特別監査室を辞める。なんとなく体にダルさがあり、診てもらうと医者にゆっくりと養生しなさいと言われたからだ。
体の衰えが急速に進んだように私は最近よく感じることがあった。
「旦那様、着きましたよ」
「ああ、分かった。」
王都内の屋敷に着いた。
屋敷に入ると、養子となった甥と甥の子供達が私を迎えてくれた。
「おかえりなさい、おじいさま!」
私に抱きついてきたのは、甥の娘のジョアンナである。
私は正直彼女のことが苦手であった。まだ幼い子にそのようなことを感じるのは間違いであるのかもしれないが彼女に得体の知れないちぐはぐさがあったからだ。
(気のせいだろうな、きっと。そう思っておこう。)
彼女はたまに変なところがある。
時たま、ヒロインがどうとかフェルナンド様がどうとか………
(確かフェルナンド様って室長のご子息と同じ名前だよな?それにしてもヒロインって何だ?)
一段落したところで私は庭に出て花を眺める。
花は私の心を癒してくれる、大好きな紫のヒヤシンスが私を。




