無口な男の辞職
ヘンリー達がくたくたになって帰って来ると、パレス達がなにやら盛り上がっている様子であった。
何をそんなにも盛り上がっているのかと聞くと王女が来ていたと答えた。
「へぇー、ベスが来てたんだ。で、何をそんなに興奮してるんだ?」
最近はマリア=ローザンヌ公爵令嬢という友人も出来たこともあるのか以前よりは少々少なくなったが、エリザベスがここに入り浸っているのは普通のことだった。
「いやぁ、イチヤ王子とのことですよぉ!王女は絶対に王子に恋をしていますってぇ」
「………………本当にそうなのか?」
恋ばな大好きで幼い王女の恋愛話に興奮するパレスに対して、ヘンリーにはそうは思えなかった。
(ベスは絶対にションちゃんにぞっこんだと思ったんだがな。俺の勘も外れたか)
「ヘンリー、何か失礼なことを考えていませんか?」
「いや?別に、ションちゃんがどうとか考えてないよ」
相変わらず察するのが早いと、ヘンリーはこの生真面目な男に感心した。
「とにかく、王女とイチヤ王子の仲が良好だということは喜ばしいことですね。皆もそう思うでしょ!」
「そうですよぅ!室長。」
そうだ、そうだと皆の空気も喜びになっていった。
その中で1人だけ浮かない顔をした男がいた、ソルティー=メイデン子爵である。
彼は無口で暗い性格の人物ではあったのだが今日のこの様子はどこかおかしく感じられた。
「どうしたんです?なんか雰囲気暗いですよ、メイデン子爵………」
マブーク伯爵が問うと
「実は、私今年度でここを辞めることにしたんです。」
そう言った。
「「「「「えええええ!」」」」」
爆弾発言である。
「ちょっと待ってください!どうしてそんなに重要な情報が室長の私に伝わってないんですか!」
「そうですよ!後1ヶ月じゃないですか!」
「冷てぇじゃねぇか!俺らになにも言わねぇでよ!」
「もしかして、このまま何も言わずにぃ辞めようとしてたんじゃないんでしょうね!」
さっきの和やかなムードはどこへ行ったのやら、混乱状態である。
「実は宰相閣下に今日辞職願を提出しました。お昼に言おうと思っていたのですがタイミングがなかなか掴めずこのような形になってしまったんです。すみません。」
「それにしても、どうしてですか?もしかして私達が何か失礼なことをしてたんじゃ」
「いいえ、私も65になっていろいろと考えて決めたことです。それに昔の無理が祟ったのか、医者にゆっくりと養生しなさいと言われまして。」
「そうか……寂しくなるな。そういやあんたのとこ子供いなかったよな?後継ぎどうするんだ?」
「ああ、私の弟の次男を養子にするので問題ありませんよ……」
じゃあ今日は失礼します、そう言った背中にはどこか哀しさがあった




