よく分からないよ。
イチヤ王子が言っていたオーラについて、あれからも私は考えていたが、やはり心当たりは見当たらない。
(きっと、彼が見間違えたのよ。)
私はだんだんそう思うようになった。
今のところ、貴族内は国王派が主流を占めており反国王派には反乱を起こせるような力がある人はいない。
民衆による革命のようなものかと思ったのだが、王政への不満や啓蒙思想のような考えはこの国にもおそらく周辺国にもないので革命を起こすような要素も見当たらない。
思考の中に沈んでいると声をかけられた、そうだ今は特別監査室にいたんだ。
「エリザベス王女?どうされたのですか。」
私にそう声をかけるのはヘンリーの親戚のジューン=マブーク伯爵。
オジサマの部類の中では癒し系なオジサマという部類に入るのだろう。彼にはほんわかとした雰囲気があり、彼の前ではイライラとした気持ちも収まってしまいそうである。
「いや、ヘンリーに聞きたいことがあってね。それよりもどうしてこんなに人がいないの!」
そう、特別監査室には今ジューン=マブーク伯爵、パレス=コノユライン子爵そして、ソルティー=メイデン子爵の3人と私のみで他には誰もいない。
「室長は所用ではずしてて、ベアドブーク公爵やオンリバーン侯爵などは各王政府から呼び出されていて…この通りです。話なら代わりに私が聞きましょう」
「う~ん、ナクガア王国の公妾制度がどんなものか聞きたかったんだよ。」
「「公妾制……」」
ジューン=マブーク伯爵とパレス=コノユライン子爵はほぼ同時に呟き、ソルティー=メイデン子爵はだんまりとしたままだった。
「えっと、なんでそんなに引いてるの?」
「公妾、う~ん簡単に言えば側室のことでしょうか……
レミゼ王国は側室を持つことが禁止されていますが、ナクガア王国は側室を持つことが自由ですから。」
レミゼ王国は、側室禁止令というものがあり側室を持つことが禁止されている。ただ、愛人を持つことは黙認されている。
側室=公式に認められた愛人(?)内縁の妻のような存在だろうか?
愛人=当人達以外には認識されていない、肉体関係で繋がっている関係(?)
だろうか……どちらも愛人ということには間違いはないのだが、線引きが難しくどこからが公妾なのかとかそういうことは曖昧なモノらしい
「なるほど……そういえば、側室の子でも継承権が認められるらしいわ」
「よく分からない制度ですね、私たちには」
この国では非嫡出子の継承権は認められていない。建前上は非嫡出子は存在しないからだ。
それにしても、ナクガア王国の公妾制は平等で優秀な王を生み出しやすい反面王位継承権を巡った争いが起こりやすそうだ。
それならばまだ、嫡子相続の方がよいのではないかとも思う。
「ああ、そういえばイチヤ王子も庶出の王子らしいですね。」
「そうだったんだ……」
イチヤ王子はいろいろと苦労した人なのかもしれない、庶出である上に人のオーラが見える力を持ってしまったために。
「王女、それにしてもどうしてイチヤ王子と公妾制について話してたんですかぁ?」
独特な語尾を伸ばす癖のあるコノユライン子爵は不思議そうに聞く。
「私にもし、子供が出来なかったらって不安をこぼしたときにちょっと……」
嘘をついた、ただこれなら怪しまれはしないだろう。
「もうそんなことまで二人で話し合っているとは!噂は本当だったんですねぇ、王女とイチヤ王子が相思相愛だというのはぁ。」
いや、いつの間にそんな噂が?
その噂の出どころも気になるが、もっと気になるのはさっきからソルティー=メイデン子爵全然しゃべってないことだった……
「そろそろ行くわ」
それから数時間、ヘンリー達が戻ることもメイデン子爵が口を開くことも一切なく私は特別監査室から出た。




