男達の恋ばな~inベアドブーク別邸~
エリザベスは出てきません。
エリザベスがちょうどマリッサを問い詰めていたその頃、特別監査室ではショーンといつも仲良しアベル&ヘンリーがいた。
「なぁ、ションちゃん今日俺んちで飲まない?」
この一言がそもそもの発端だった。
「え?ですが明日は仕事もありますし……」
「ションちゃん、私も一緒ですし問題はありませんよ!“ヤヌス子爵家の事件”も解決しましたし遅くなったけどその祝いをしましょうよ」
ショーンは結局、押しきられるような形で渋々飲み会に参加することとなった。
ベアドブーク家はこの国で5つしかない公爵家の1つで本邸の他に王都内にも別邸をいくつかもっている。その中で一番こじんまりとした小さな屋敷で飲み会が開かれることとなった。
「で、私は3人だと聞いていたのですがどうして彼がいるんですか?」
屋敷に着いてみるとそこには背の高い男が1人いた。
彼は特別監査室の同僚のジューン=マブーク伯爵であった、ヘンリーの親戚で人当たりのよくアベル不在時は室長代理を務めている。監査室の中で能力的にはやや劣るが、伸びしろのある男であった。
「俺が誘ったんだよ、この3人じゃ話すこともそんなに無いしな。パレスは口軽そうだからジューンにしたんだよ」
「一体何のつもりなんですか?」
「オンリバーン侯爵の言う通りですよ。本当になんのつもりなんですか?せっかく寝ようとしたところをたたき起こされたこっちの身にもなってください。」
どうやら、ジューン=マブーク伯爵も無理矢理連れてこられたらしい。御愁傷様なことだ。
「俺だって~たまには皆と話したいの!」
「何を話す気なんです?」
「恋ばなに決まってるだろ!ションちゃんとベスの」
本当のとこどうなの~とまるで近所の噂好きなおばさんのように聞いてきた。
「「「は?」」」
それを聞いて、3人は目が点になった。
「え?オンリバーン侯爵、王女殿下とそんな仲に……年の差31ですよ!」
「ええ、それは問題ですね。ションちゃんが60のときエリザベス王女は29……1番女性として美しい時期をションちゃんに振り回されるとは、」
「だろ!本当に罪な男だよな、ションちゃん。」
「あの、私は王女にそのような感情は抱いていませんが」
……真に受けたマブーク伯爵、ふざける二人。
ショーンにしてみればそのような話になるとは思ってもみなかった。
「けどよ、少なくとも俺や王妃様はそうは思っていないんだよ。
お前がベスを好きじゃなくてもベスはお前のことが好きなんだよ。別に俺はお前がベスを振ろうとも関係ないけど、王妃様は違う」
「?話についていけていないのですが…」
マブーク伯爵とアベルはハラハラしながらこちらを心配そうに見ている。
「あの方は、王妃様もいろいろと苦労した人なんだよ。
だから、お前とベスを逢わせないようにしたんだよ。それにあの方は痛みを知っている、ベスがやがて受けるだろう痛みを。あの方は、王妃として母としてベスを守ろうとしている。」
「………なるほど、やたらとエリザベスさんに会うことが少なくなったと思ったら王妃様の命だったのですね。でも、私はどうすればよろしいのでしょうか?」
「ちょっとお前のスケジュールをいじらせてもらってな。まぁ、お前は友達として接すればいいんだよ。年の離れた友達としてな。」
場の空気がしんみりとしている。
「それにしてもどうしてオンリバーン侯爵なんでしょうか?私が王女様ならば侯爵よりもイチヤ王子の方を選ぶものですが……」
「う~ん、ションちゃんは確かに熟女の方々から黄色い歓声を受けてるけど……どう見てもイチヤ王子の方が条件はいいはずですがね」
「だよな、ベスもこんな頑固なやつのどこがいいんだろうな」
「あの!目の前で人の悪口を言うのはやめてください」
北の国の王太子筆頭候補で聡明と名高く性格に難があるわけでもなく、それでいてあの美貌である。
それに対して、ただの侯爵で仕事はできるが融通が聞かず顔は整っている方ではあるもののイチヤ王子には到底及ばない。
確かに条件的にはイチヤ王子の方が絶対に良いだろう。
「とにかくベスに諦めてもらうには結婚しかねぇだろ!ションちゃんはどんな女が好みなんだ?俺が紹介するぜ」
「結婚ですか……そういうものはちょっと。それよりも貴方の方が再婚したらよろしいのでは?」
「俺は子供もいるしまだいいの、お前はひとりっ子だし世継ぎを残さねえとお家断絶なんてことになるぜ?」
「やはり、癒し系の女性ですか?オンリバーン侯爵は…妻の知り合いを紹介しましょうか?」
「ジューン、それは貴方の好みでしょう。ションちゃんはなんというか尽くしてくれる女性の方が好きそうな気がします。」
「こら、アベル!」
「あのなションちゃん、いい加減結婚してくれないと俺らが相方にされちまうぞ」
ヘンリーは呆れ顔でポンと肩をたたく。
「もうされてますよ、きっと。まぁ私には妻が1番の癒しですがね」
「いやいや、マブーク伯爵。まさかそんなことありませんよ」
「だよな、ハハハハハハ」
乾いた笑いが空しく部屋に響いた。
そして翌日、酒を飲みすぎて全員が二日酔いに苦しむ姿が目撃されたそうな。




