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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
その後、残された者達は………
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もしもの話(世界線C):謎だらけなパパの正体


あの浮気騒動の数週間後、7月に入ってからパパは何やらイキイキしながら話をする。


「いやぁ……ついにアベルから証拠が届きました。どれにしましょうか悩みますねぇ……。」


まるでデザートのお菓子はどれにしようかと言うように品定めをしているのは、お菓子ではなくドクトリーネ男爵家の弱点を集めた証拠の数々達らしい。


「あら……ちょっとショーン!こんなに散らかさないでよ、お掃除大変なんだから。」


「んーごめん、すぐに片づけるから。」


なんだかここ数日ほどであんなにしょぼくれて見えたパパがかっこよく見えてくるので不思議なモノである。


「それで、かの家をぶっ壊せそうな材料は見つかった?」


「たくさんあるね、というかこの分ならマリエの事が無くても崩壊まで後10年って所が妥当かな。まぁそんなの関係なくぶち壊すけど。」


中央組……つまり、領地が無く官職のみを持つ貴族は領地からの副収入を望めないので色々と大変なのだと言う、コズガミネ伯爵家もドクトリーネ男爵家もそのケースに当てはまるらしい。彼ら2人が貴族子女にも拘らず学園ではなく、裕福な商家の子や地主の子が多い王都にある学校に通っているのは、そういうお金持ちの子供の持参金目的である。2人ともそういう家の期待を無視して今回の騒動は起こってしまった訳なのだが………。


「まだこの事態に怒っているという噂(アベル談)が聞こえてくるまともそうなコズガミネ伯爵が益々可哀想になってきたわ……。」


ママは伯爵様に同情するような素振りを見せるが、それはきっと演技だ……眼は笑っていないし言葉とは裏腹に声は冷ややかで聞く者の背筋を凍らせる。


「さてとマリエ、慰謝料の請求がまだでしたが、多分あちら側(クソ共)が納得するとは思えないのでまずは当事者達に説明に参りましょう。」


「そんないつもの格好で行くつもり?こういう時こそモーニングの出番じゃなくて?」


ママに言われたパパは何か考えるような仕草をしてから『そうだね、エリーゼの言う通りにしようか』と気難しい顔をしてクローゼットの奥に眠っていたモーニングコートを取り出してそれに着替えだした。……私の眼は曇っていたのでしょうか、やっぱりパパが(当社比:従来の5倍ほど)かっこよく見えてきます。

おぉまさにこれこそ、セクシーとキュートを枯れかけた男らしさで包み込んだセクシーとキュートの大福もち……歳とか関係ない、大人な__。


「姉ちゃん……大丈夫か、なんか顔赤いけど。」


クラウンの声にハッとする。何か開けてはいけない扉を開きかけていたような………!!アブナイ……さっきのあれは開いてはいけない、底無し沼に落ちかけた。


「だ、大丈夫よ……」



学校に行くと、シーザーは我が物顔で教室に君臨していた。パパは眉をひそめて『うわぁ……滑稽に見えて仕方がない』とボソリと言った。

今は始業時間が始まる前の休み時間、生徒の数もそれほど多い訳ではない。


「お久しぶり、シーザー=ドクトリーネ男爵子息。そして、はじめましてナナリア=コズガミネ伯爵令嬢。時に男爵子息よ、この間私は男爵に慰謝料を請求すると言ったと思うのだが、少し君に取引を持ちかけようかと思ってね。」


「なんだよ、ジジイ!そんな格好してめかしこんだ所でジジイはジジイなんだよ!」


パパは眉間に皺を寄せてからうんざりするような顔をして


「いや、これはモーニングと言って正装だよ。私は少なくとも君に礼節を持っているつもりだ、それにヘンリー……いや某友人のように似合うならともかく似合わないのに年甲斐もなくめかし込む事はしないよ。

さてと、取引なのですが……ここでマリエに謝ってくれると言うのなら、慰謝料請求は検討し直そうかと思いまして。だって、ねぇ。」


こう言ってから私の方をチラリと見てから、またシーザーの方を向いて悲しげな顔で言う。


「何なんだ、何がだってだよ!」


「はい、これ。ドクトリーネ男爵家のここ数年の歳出入の報告書、君に分かるように説明すると毎年歳入よりも歳出の方が物凄く多い……。男爵が汗水垂らして働いた金額よりも家から出ていく金の方が多いんだ………私はそんな困っている人から金をむしり取る悪人ではありません。」


しんみりと胸に手を当ててパパは憐れむ視線を向ける、シーザーは怒り出して言った。


「ふん、嘘だ!ウチは金に困ってなんていない!だいたい、どうしてウチの歳出入の報告書なんてお前ごときが持っているんだ!」


「ん~?そんなの教える訳ないじゃないですか。1つ言っておきますが、これが偽物だとか言っても無駄ですよ?一応正規ルートで手に入れましたから。はぁ……私が言えたセリフではありませんけど、貴方のような方は貴族社会には無用の長物かと。あそこで必要とされているのは、したたかに生きていける人間ですから。どうして自分が学園ではなく王都にある学校に通っているのかも分かっていない人間は必要とすらされていないでしょう。」


「なんだと……!」


「貴方がこの学校に入学させられたのは口減らしみたいなモノですよ、だって貴方は男爵の8男……お兄様2人が夭折、1番上のお兄様は駆け落ちされたそうですから実質的には5男……女なら有効手段もあるが男、しかも跡取りとそのスペアの次男以外の男、つまりは3男以下はクズ扱いされる世界において無価値も同然です。ですが、そんな無価値な貴方にも与えられた使命はこの学校にいる有力豪族の子女をgetする事……持参金目当ての結婚相手探しなのですが、そこのアバズr……失礼、見た目だけは立派なコズガミネ伯爵家の令嬢共々それすらも出来ない貴方を必要とする貴族なんてこの世にはいませんよ。」


__キーンコンカーンコーン。


予鈴が鳴る、多分シーザー達にとったらいつも以上に救いの音に感じられるでしょうね。


「ああ、予鈴が鳴ってしまいました。取引は交渉失敗という結果に終わって残念ですが、またの機会に。では、ごきげんよう。」


また来るつもりなのか……。きっと教室中の皆がそう思っただろう、マリエは『君のお父さん、敵に回すと怖いよ?子供でも容赦しないから尚更に怖いよ。』学校には一部しか持ってきてないけど家で山積みになってる分厚い報告書を持ってきたアベルおじさんが死んだ魚の眼をして言っていたのを思い出した。


______


「で、予想通り取引は成立ならずって感じだったの?侯爵、煽りすぎじゃない?

だって…始めから交渉が成立していようとなかろうと、相手がぶっ潰れる事は確定なのに取引を持ちかけるなんてちょっと鬼畜すぎない?」


紫の瞳の男イシスがそう言う、彼は今回は王宮に眠っていない分の証拠収集やその他の収集(男娼の店の調査とか色んな意味で精神的にやられそうな内容のものばかり)を担当してもらっている。ちなみに王宮での悪事収集はフェルナンドが、悪事を元に騎士団の配備をジューンが、アベルは茶会でその2家の悪い噂を積極的に流すという役割です。ガブリエール公爵もそこに1枚咬んでいるらしい。


「イシス、私は善意からそうしたのになんて言い草ですか……交渉不成立の方が都合がいいのは確かですけど。」


「絶対悪意しかない……アベル様以下全て協力するそうですよ。特に新たに宰相に就任したガブリエール公爵は『良い口実が出来て良かった!ありがとうございます、侯爵』……とのことだよ。」


うんうん、これであの小僧もウチのマリエを泣かせたらどんな目に遭うのか分かってくれる筈だ。


「では、この調子で次は1週間と3日後にある終業式に乗り込んで、慰謝料請求といきましょう!」


「うわぁ…そのサラダ君だっけ?マリエちゃん泣かせたくらいで人生ボロボロっていうのも可哀相だなぁ。だって貴族社会には居られないだろうし人生ハードモードか、御愁傷。しかも、よくジューン様達も公私混同する気になったね、特に学校の終業式に乗り込んで良いの!?許可ちゃんと取ってる?」


「ジューンが取ってくれたので心配要りません。」


(校長はどんな気持ちで許可したんだろう………)


イシスはただただそう思うのみであった。


______


来る7月中旬頃、その茶番はやって来た。

さてさて終業式も終わりだという頃になり後は退場のみという所になった時に、学校の校長ロベリア=カサンドラ様は壇上からこう声をあげた。


「申し訳ありませんが、今から名前を呼ぶ者達はこの場に残ってください。2年2組マリエ=カナシトさんとその保護者、同じく2年2組のナナリア=コズガミネさんとその保護者とシーザー=ドクトリーネ君とその保護者の皆さんはこの場に残ってください。」


張りのある若い女校長の声が会場に響く。

呼ばれた面々の名前から、シーザーの二股騒動だと想像ついたがその会場で何が話されたのか知る者は居ない。

校長と男爵家の親子、ナナリア伯爵家の親子、そしてショーンとエリーゼとマリエが残されてダンマリを決め込んでいた。最初に口を開いたのは、驚いた事にロベリア校長だった。


「あの……何故貴方達2人がこんな汚ない所に居るのですか!?私の記憶に間違いが無ければ貴方達は__!」


「校長、貴女は気づいたのですか……でも、それ以上は言ってはいけない。私はただのショーン=カナシトなのですから。」


パパは悲しそうに眼を伏せてから話を始める。

まずは元カレとその浮気相手、双方の親への慰謝料請求。


「双方の経済状況も考慮してこのくらいでよろしいでしょうか?」


「ああ、分かった。」


伯爵は意外とあっさり認めた。だが男爵は往生際が悪かった、まだ黒ではないが赤でもないほどにしか金に困っていない伯爵家とは違って年中マイナスの男爵家は金を払いたくないというのがパパ曰く本音だろうとのこと。


「認めんぞ!こんな金、払えるか!」


「別に払ってもらわなくてもいいけど、それならこの間の交渉受けてたらよかったのにねぇ。伯爵はともかく男爵、君はもう終わりだよ。

まずは貴族社会からそっぽ向かれて、馴染みの商家に勧められて事業を始めるが、2年程で倒産……君に残されたのはそのまま赤字を増やし続けて10年以内に破産か博打打って2年程で倒産かのどちらかだから。」


可哀想に…と心にもない事をパパは言う。

その時、何か思い付いたかのように最近見慣れた黒い笑みを浮かべてから


「あ、袖の下で小遣い稼ぎをちょこまかしてたらしいので今すぐ王宮騎士団に捕らわれるという道もありますよ?更に今なら“出来たばかり新王朝のガッチガチのプロパガンダ方策に生贄にされて酷ければ打ち首コース”もあるけど、そっちの方がよろしいでしょうか?」


と付け加えた。

どれもイヤだ……どのみち滅ぶことに変わりはない。


「だいたいお前、何の権利があって男爵の私に楯突く!」


「娘を傷つけられた父親の正当な権利が私にもありますから。さあ、3つの中でどれが良いのか選んでくださいよ。どれか選びさえすれば袖の下程度、告げ口なんて私は(・・)しませんから。」


ニッコリとまさに天使のような温和な顔をして非情な選択肢を男爵に与えるパパは悪魔だ。


「ひ……お前、私を脅迫するとは、司法局に訴えてやる!」


司法府と教育府は数年前内務府に吸収合併されて今は内務府司法整備局と内務府教育振興局として新設された、その司法整備局に訴えると男爵は強気だ。パパ、大丈夫かな……。


「ほう……望むところだ。そうなった所で古巣だし、困りはしない。」


「古巣……まさかお前、き、北の……北の」


側で傍観していた伯爵が急に顔色を悪くして震えだした。


「伯爵、余計な事は言わないほうが身のためだ。それに、貴方の頭の中によぎった北の誰かさんはもうとっくに死んでいるだろ?」


「あ……あ、男爵よ悪いことは言わない。彼に逆らうな、その方が長生き出来るぞ!」


「何を言うのか伯爵!」


私は思うのだけれど、伯爵にその態度って良いのかな?でも、伯爵はそれどころじゃないらしく震えて男爵を揺さぶっている。


「伯爵、貴方の物分りの良さがこの親子揃ってクズのこの蛆虫に少しでもあればいいと思うのは私だけなのだろうか………?それにしても、あのマトモな先代からどうしてこのようなバカな息子とアホな孫が生まれるのか、私は残念でならない。」


「……そのユーロ=バードミル様のモノマネ止めてください。似すぎてトラウマを抉られる気分になるので。」


「あ、あ、ああああああ!!」


男爵は孤立無援を察したのか発狂してその場にうずくまった。

彼はその後、袖の下の件で外に(ジューンが)待機させておいた騎士団に連れていかれた。その後打ち首を免れて戻ってきた彼ら一家を待ち受けていたのは、周囲からの白い目と大赤字の借金のみだった。伯爵の方はというと早めに慰謝料を認めたのが功を奏したのか『ちょっと、私の正体を知られましたから口止め料としてほんのちょっとだけ手加減してやりますよ』とのことで首は皮一枚の所でくっついた状態なのだとか……。


______


「何故、司法大臣まで上り詰めたが20年前に死んだ筈の侯爵と婚礼を控えていたにも拘わらず不幸な火事で死んだ王女が結婚して、しかも子供までもうけているのか教えてくれませんか!?」


ロベリア校長がパパとママを問い詰めてくる。

……王女と侯爵!?このしょぼくれていたパパが侯爵!?侯爵って言えばシーザーなんか敵いもしない程上の身分じゃない、王女ってその更に更に上よ!?


「ロベリア校長、私は過去を捨てました。もしも人々が真実を知れば身勝手に聞こえるかもしれませんが、私は“かの北の侯爵にそっくりなショーン=カナシト”でこっちは“王女にそっくりなショーンの妻のエリーゼ=カナシト”なんです。」


「………そうですよ、鉄仮面のロベリア様。ショーンの言う通り、私はそっくりさんです。」


「そうですか……分かりました。ご安心を、私の胸のうちにこの事は秘めておきます。」


「まぁばらした所でとぼければ済む話なのですがね。」


ロベリア校長と別れて学校を出てから歩き出す。

パパが侯爵だったなんて……全然そうは見えない。けどモーニングを来ていたら、確かに平民にはない洗練された雰囲気を持つロマンスグレーだけど普段を見てたら分からないわ………。


「クラウン達にはナイショだよ?今更20年も前に死んだ人間が生きてるなんてほじくりかえした所でなんにもならないから。」


「そうよね。とにかくマリエ……これで貴女も平穏な学校生活を送れるから安心して暮らしなさい、今日あった事は全て忘れてパーッと奮発しましょう。」


パパとママの正体は家族の中では私だけの秘密、ロベルトにも誰にも教えないんだから。


_____


数日後……。


「ちょっとママ!パパと私の洗濯物は分けてっていったでしょ!」


「良いじゃないの………この間まで仲良かったのにどうしてこうなるのよ。」


エリーゼは呆れながらやれやれという顔をした。でも、少し前と違って反抗期とかそういうのではなくってなんだろうツンデレ感があることから父娘仲は何か前進したってことなのだろうと嬉しく思った。


「クラウン、ロベルト、ひどくないか!?」


「んー、俺知らない………もうちょっと寝かせてよ。」


「お菓子あげるから泣かないで……」


ロベルトからもらったお菓子をモソモソと食べながら落ち込むショーン、そこに空気を読まずにやって来たのはガブリエール公爵。


「侯爵、今回の事で協力したんですから政界復帰してくださいよぉ~!」


「誰がするか、俺の仕事は八百屋で間に合ってるんだよ!」


家の中がワイワイと騒がしい。

うるさいと怒るクラウン、眠そうなロベルト、ロベルトを幸せそうに見つめるママ、ガブリエール公爵を家の外に閉め出してママに抱きつくパパ、皆私の大切な家族です!



______


《__強制シャットダウンを開始します。》


『なんだ……急にコードが入力された。』


ミラーナが不思議に思って顔をあげると、


『おいミラーナ君、何を見ているんだ?システムメンテナンスの報告はまだかね。』


『げっ……ハイハイ、今から始めます。』


謎の男性に促されたミラーナは慌ててシステムメンテナンスを始めた。オティアスはいつの間にか逃げて姿を消していた。そして、少ししてメンテナンスは終了したのだが、ミラーナが怖がるなんてあの人が管理者を統べる創造主という存在なのかもしれない。


『管理者に干渉できるのはあの方だけだから怖いんだよね、正直言って。それにしても君の息子、とても幸せそうにしていたね……僕が干渉しなかったらああなってたんだろう、本当にごめん。』


『いえミラーナ様、過ぎた事を悔やんでもダメです。』


終わった事を悔やんでも遅いのは、ヘンドリックはイヤというほど学んだ。


『ふう……そうだな。ほら、見てみろ!君の息子は無事に転生出来たようだ。じきにエリザベス王女も転生出来るだろう、彼らが再び結ばれるかは2人次第だな。』



___座標を戻された世界線、水面には生まれ変わった“彼女”の姿を映していた。彼女が同じく生まれ変わった息子と再会出来るのか、それは2人次第である。




実を言うとロベリア校長は、本編にチラリと登場した事があります。

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