表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
その後、残された者達は………
224/229

もしもの話(世界線C):気づいた時には。


何故か乾いた笑いを浮かべる前宰相アベルの顔が思い浮かんだのは自分だけではない、ジューンは横にいる面々の顔を見てそう思った。

目の前の光景を見て、私の脳は処理能力を遥かに超えて爆発寸前だ。

607年4月の甘くて爽やかな春の風も私達の間を寒々しく吹き抜けた。


「……………あの、コノユライン子爵にフェルナンド君、私が見てるのは幻なのでしょうか……?」


「いや、多分幻ではないと思う。それにしても、マブーク伯爵の家庭も夫婦円満と聞いているが、それを遥かに凌ぐアツアツぶりだな……。」


呆然と口にした言葉に答えたフェルナンド君も呆然としていた。とにかく、3人は目を見開いてこの光景を凝視する他なかった。


「ねえ……うう、皆見てて恥ずかしいから、そろそろ離れて。」


「……分かりました。」


犬のようにシュンとして、具合が悪そうな彼女から離れる彼、彼はこんな人間だっただろうか。なんか私が知っている彼とは違います。

そもそもジューン達が事実を知ったのはこういう訳である。先日、前宰相と隠居した前外務大臣がヒソヒソと密談していたのをパレスは見てしまった、聞き耳を立てているとどうやら誰かに会いに行くと言う、そして好奇心からその後をつけたら死んだ筈のこの2人の所だったと言うわけだ。帰路につくアベルらを問い詰めた結果、渋々2人は事実を話した。だが、バレたのがこのパレス=コノユラインだったのが運のツキ『絶対に喋るな』と言われたにも関わらず、口の軽い噂好きな彼はペラペラと内輪で話してしまった……という訳だ。


「2人が結婚したのにも驚きですが、まさか妊娠中とは………。」


「なんかごめんなさい……」


その秘密を知った反応は様々であった。『ああ、やっぱり』みたいな反応をした年長者のカール様、『宰相!どうしてそんな……』呆れるあまり物が言えないガブリエール伯爵、フェルナンド達は後者の反応であった。

『死んだ筈の王女と同じく病死した筈の侯爵が結婚しててしかも妊娠中』この事実を知ってむしろこの程度の反応しか出来ない私達の感覚は魑魅魍魎渦巻く王宮の中にどっぷり浸かっていたんだと思い知らされる事ともなった。


「それで、なんで八百屋のアルバイトなんてしてるんですか!」


「マブーク伯爵、もっと他にも突っ込む所はあるでしょ!2人がいつから出来てたのかとか他に言いたいことあるだろ!」


フェルナンド君が何か言っているが、何故八百屋なのか……人材の無駄遣いも甚だしい所だ、仮にも元司法大臣を八百屋で扱き使うなんて彼の華々しい人生を知るこちらからすれば、涙が出るモノだ。


「それはヘンリーに聞いてください、彼には説明しましたから。……それにしても、皆を欺き迷惑かけて申し訳ありません。」


「本当ですよ、そっちは血色よくて長生き出来そうですけど、こっちは10年寿命が縮まりましたよ。」


「それはいけませんね、フェルナンド君はまだまだ若くてこれからなのに。」


「誰のせいだと思ってるんだ!

とにかく、僕は大学に戻りますからエリザベス王女は元気な子供を産んでください!」


フェルナンド君はプリプリと怒りながら出ていった。さりげなく気遣う言葉を言う所が彼らしい。


「ふう……確かに私もこれ以上長居するのは不味いかな。じゃあ侯爵、僕も帰りますんで何かあったときはかつての上司と部下、貴方の危機にはすっ飛んで来てこのジューン=マブークが助けますからいつでもお声をかけてくださいよ。」


「仕事サボって来たんですか……別に仕事の後でも良かったのに。私が偉そうに言えるセリフじゃありませんけど仕事優先でお願いします。」


「分かってますよ、普段はちゃんと真面目にやってます。」


気だるげな彼の顔はかつての上司と部下の頃と同じだった、まだ王宮の荒波に呑まれていた記憶は消えていないらしい。かつてのピリピリした重圧に耐えていた彼の顔も良かったと思うが、今の穏やかな顔も良いと思う。


(産まれる子の性別関わりなく、親バカ属性まで加わるのか……そうなれば王女も大変だろうな。)


ジューンは心の中でため息をつきながら王宮の方へ戻っていった。



「パレス君は戻らないのですか?」


「僕は今日休みなので大丈夫です。まさか2人が愛を育んでいたなんて驚きですよぉ…。」


ジューンとフェルナンドが帰ったのに1人残っていたパレスにショーンは声をかけた。


「僕からは少し早いけどこれ、お祝いにどうぞ。」


「ありがとう、パレス君。」


何かに怯えるような顔をしたパレス君は猫の置き物をくれた。

彼の説明によると家内安全の効果がある、とってもありがたい置き物らしい。彼の猫好きにも困ったものだが、ありがたく庭先に置いてインテリアにしようかと思った。


「長く居るのは失礼だし、僕も帰りますぅ。2人の時間を楽しんでくださいよ。」


パレス君にしては珍しくとても気を使って帰っていった。彼が帰った後、エリーゼは平然を装っているが猛烈に不機嫌そうにしている彼に言った。


「ちょっとショーン、貴方パレス君に牽制めいた視線送ってたけどそれで怯えて、彼が帰ったんじゃないの?」


「いいえ?そんなつもりはありませんでしたよ。」


咎めるような視線を向けて言うとすっとぼけられた、これは絶対にそういうつもりだったなと思いながらも口にしないでおく。

それにしても、今まで我慢していたが気持ち悪い……困った事は、胸がムカムカして食べ物が喉を通らない事だ。


「き、気持ち悪い……。」


「大丈夫ですか……?」


「大丈夫よ!いいからそっとしててよ!」


彼はシュンとなって抜き足差し足忍び足で行動するようになった、そういう意味じゃないんだけど……情緒不安定だ、落ち着かない。怒りたくないのに感情があっちこっち行って心と体がついてこない。


「もうイヤ……つらい、私を裏切らないのはもはやこのクッションちゃんだけよ。」


「私も裏切ってはいませんけどね……。

聞きますけどエリーゼは男の子と女の子どっちが良いですか?」


「そうね、貴族と違って世継ぎとかそういう問題が無いし…どっちでも良いわ、どっちでも可愛いのに変わりはないもの。けど私に似たら男でも女でも地味だからイヤね。……うう、気持ち悪い。」


「つわりって大変なんですね……少しでも何か体の中に入れておいた方がいいでしょう、ヘンリーから貰ったメロンとジューンが置いていったバナナ、どっちから食べます?」


「バナナから。

それとその何か言いたげな顔は何?」


バナナを頬張りながら、引きつった顔の彼に聞く。もしかして情緒不安定な私に辟易してる?でも、1回考えたらキリがないくらいに感情が溢れ出すのよ。


「いやぁ、もしも子供が何かの間違いで隔世遺伝なんてしてしまって父に似ていたらイヤだと思いまして。そりゃあ父は尊敬してますし私以上に人に好かれていましたから、そういう気質は良いんですけど、あの顔になられたら複雑な気持ちになります、特に女の子だったらちょっと………」


「確かにそれは複雑ね……それにしても、子供が産まれたら、貴方が子どもの事ばっかり見て私の事なんて放ってしまいそう。……だって、こんなにおもちゃとか必要かしら。とやかく言いたくないけど、もう侯爵じゃないんだから無駄遣いは程々にね。」


「すみません……。でも、貴女の方こそ私よりもべったりしそうですけどね。」


私達は笑い合った。

こんな幸せがいつまでも続きますように、そう願いながら。



…………………それから約半年後の10月23日の昼頃、


「おぎゃあー!」


高らかに産声が響き渡った。

近所の評判の産婆さんが『おめでとう、女の子だよ』と言う声を聞いて、安心したのか私の目の前は真っ暗になった。

どれ程か経って目が覚めると、既に産婆さん達の姿はなく近所の主婦の方々が野菜片手に見舞いに来てくれていました。


「ご苦労様です……女の子でしたよ。名前はどうします?私もいくつか考えましたが、貴女がつけてくださいよ。」


紙に名前が書かれている。マリエ、ナミ、ソフィア……等など何処かのプリンセスみたいな名前もちらほら混ざっている気もしますが、マリエ……何故だか地味なのに私、この名前気に入りました。


「マリエ、マリエにします。」


「分かりました。

はじめましてマリエ、お父さんですよ。」


小さな赤ん坊マリエが加わった2人の生活、賑やかになりそうだ。


_______


『マリエちゃんか……良い名前じゃないの。』


『マリエ………か。』


『そうかな、なんかぱっとしないと思うけど?それとヘンドリックもなんか悩んでるような顔だけどどうした?もしかして本編でマリエちゃんが見たかった?』


きょとんとした顔でオティアスは言う。

そう言われると欲が出てしまいそうなので、それを無視してあの場面を見た感想を言う。


『いや、マリエってかつて私が女の子が産まれたらそうしようって言っていた名前なので……。

それにしてもアイツ……俺の顔だったらいやとは、よくもそんな事を!』


『う~ん、そればかりは君の息子に賛成かな?だって男ならともかくも女で君みたいな牛みたいな体型とイモっぽい顔になるのは僕もイヤかな。』


『死んでもオティアスにだけ賛成したくないが、そればかりはさすがのこの僕も賛成だな。』


2人はヒドイ事をズバズバと私の目の前で言う。湖の水面に自分の顔が映った。………確かに女の子でこの顔もイヤだと言った息子の気持ちが分かってげんなりした。


『ふう……この世界線Cでも革命は起こるのか、マリエちゃんがどうなったのか見てみようか。君に似てないとは思うけど、誰に似たのかも気になるしそれ以外にも見ておきたい事があるから。』


ミラーナは渋っていたくせに意外とノリノリである。……そういえば、早くシステムメンテナンスしないで大丈夫なのかな?なんか創造主に怒られるとか言ってなかったっけ?とヘンドリックは首を傾げながら思った。

……………まあいっか。俺も孫娘がどうなったのか気になるしちょうど良い、ここは何も余計な事は言わずにおとなしくしていよう。



___次は17年後、革命が起こった時から始まる。水面には隔世遺伝もせずに両親の良き所を受け継いだ美しい少女の姿があった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ