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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
その後、残された者達は………
221/229

湖に別れを告げて


さざ波のエフェクトが消えて、そこは下界を映し出す鏡からただの湖に戻った。


「お前があの子に惚れた理由は、ちょっとだけだけど分かった気がするよ。それと、お前は自分の事など忘れて生きてほしいと言っていたが、あの言葉はお前の本心ではないと俺は思うぞ。ならなんで死んだ後も彼女の元に現れて、紅薔薇なんて贈った。照れちゃって、そういう所が可愛いなぁ。流石俺の息子!」


「………からかわないでください。」


親父は優しい顔するくせにやっぱりからかってくる。どうして自分の周りにはヘンリーのようなこういう豪快な人間が多いのか死して尚甚だ疑問である。


「お前の場合、もっと押しが強くないとダメな気もするから俺的にはグイグイ行ってほしかったな。」


「さてと、お2人さん……そろそろ転生の準備も出来たようだ。少し移動する事となるからさっさと立って水面の方まで歩いて!」


「はぁい。」


ふわりと風が吹いて、麦畑の黄金の麦達がサワサワと揺れる。その麦畑の先に“アカシックレコード”は存在する、その中に搭載されているのは“転生システム”だけではない。様々なシステムが装備されている。例えば、平行世界を覗き込む機能やこの世界のすべての記録を管理する機能もオティアスのような他の管理者を呼び出す事も出来る。この湖の箱庭を“家”と仮定すれば、“アカシックレコード”は“家電品”のような物でそれをコントロールする“リモコン”としてミラーナ達が着けている腕輪が必要なのだ。

腕輪を撫でて“アカシックレコード”を湖の上にまで移動させる。そして、侯爵の手を取って“アカシックレコード”の内部に招くと、椅子に彼を座らせて、パネルのアイコンを押す。


「さてと、もう親子の別れだ。最後に何か言い残すことは無いか?全くの別人に生まれ変わるから、親子の縁も切れる。言っておきたい言葉は今のうちに頼む。」


「親父……なんて言ったら良いんだろうなあ。ごめんなさい、俺が裁判なんてやっちゃったから侯爵家の、親父や御先祖様の名前に傷をつけてしまった。それは反省している、それと……」


「御先祖様はともかくも、俺自身は全く気にしていないから大丈夫だ。むしろ、お前にあんな粋なことが出来る度胸があったことを誇らしく思うよ。まぁ、気にするな。お前も死んじゃったし、やった事を悔いても遅い。

お前、次の人生はくれぐれもこの2つを守れ。『うじうじするな、自分の信じた道を迷わずに行け!』『他人には常に警戒、裏切られた時の為にある程度の覚悟は決めておくこと』……お前は人を信じすぎたり、甘いから気をつけとけよ。ここだけはアイツに似たら良かったのになぁ……俺みたいな繊細でガラスのようなハートを持った俺に似ちゃったのが運のツキだった訳だ。」


ショーンは父親の物言いに首をかしげて言う。


「それ、さりげなく母さんの事悪く言ってない?前から思ってたんだけどなんで2人はそんなに仲悪かったの?」


「初対面でこっちを田舎者扱いしてきた女と上手くやれると思うか?結婚前からブリザードビュービュー吹いてて近寄る事も出来なかった……美人なのに気位が高くてそこが玉にキズだったな。今思えばもうちょっと仲良くしておけば良かったと思ってる。」


「本当に?」


ヘンリーみたいに相手してくれないからと浮気に走ってもおかしくなさそうだと思ったが本人曰く違うらしい。


「本当だよ。お前、俺が昔のギラギラしてた頃のヘンリーみたいに女にフラフラして浮気してたと思ってるだろ!1つ言っておくがそれは違う、女が俺の方に蝿みたいに寄ってくるだけだ。断じて浮気などしていない。」


「はぁ………」


そんな曇りきった眼で言われても説得力は無いのですが、これ以上この話をするのは無駄なのでもうやめます。とにかく、私は新たな人生を生きる為にここと別れを告げて親父とも他人になるのです。


「とにかく、生まれ変わっても頑張れよ。後、今言った2つを必ず守れよ。健闘を祈る!」


「はい!」


私は精一杯の満面の笑みを浮かべて親父に別れを告げた。


「じゃあ、転生……開始。」


ミラーナがアイコンを押すとピピピッと電子音がした後、電子音声が滝のように流れ込んでくる。


《コード入力完了__転生システム、作動開始。被験者確認、ショーン=オンリバーンの『転生』を開始します。目標は、レミゼ暦967年メドベージャ大陸レミゼ王国ショーベス_被験者転送中__転送完了___転生システムを終了します。__管理者ミラーナ=ルチアメロウ(コードナンバー:25254803)》


そして、吸い込まれるようにして、彼は姿を消した。


______


「………それで、君は本当に僕の眷属として働く事となるけど良いの?あの侯爵の為にそこまで犠牲にする必要は無いと思うが。」


「ミラーナ様、良いじゃないですか。息子の為に何かしてやりたいという親心ですよ。」


『息子を転生させる為に自分が眷属となって働くからどうかお願い致します!』このヘンドリック=オンリバーンから土下座して、そう告げられた時は正直驚いた。(転生させた決定打はオティアスに脅された事なのだが、彼は眷属になりたいと引き下がらなかった)人間の絆や縁など死んでしまえばほとんどが切れる、死して尚息子を思える(本当に息子の為だけなのかは不明だが)心意気は立派だと思う。


「まぁいいか……。うっわ、背中が痒い。オティアスが来る気配がする!」


「来ちゃった!来ちゃったよ、僕。ミラーナ君、愛しのハニーが来たよー!」


「ここはそんなノリで来るところじゃない。それと、何の用だよ!」


本当にこのオティアスとも長い付き合いだが、時々他人の振りをしたくなる事をコイツは平気でしでかす。


「え~?やっと侯爵を転生させたみたいだったからちょっと寄っただけ。それにしても眷属?良いんじゃない、だって君1人でここ全部の管理は大変だろうし、僕だって眷属に押し付けてるもん。君も休みがいるんだよ、先代侯爵様は仕事もしてくれそうだし良いんじゃないと僕は思うよ。」


「お前の所はブラック過ぎると思うがな。

それで、本当の用はなんだい?」


僕が知る限りこの男が仕事をしているのを見たことはない。


「あれ?届いてないかな、メンテナンスのお知らせ。今日は半年に1度のメンテのカーニバルの日だろ?」


「ん……本当だ。」


腕輪がほんのりと発光していて『システムメンテナンスしろ』と創造主からお知らせが届いていた。


「じゃあ、いきなりだが眷属として仕事をしてもらおうかな。ここにサインして、これで主従契約が結ばれた。」


「それで何をすればいいんです?」


僕がヘンドリックを“アカシックレコード”の内部に案内して説明をしようとすると、オティアスは勝手に内部に侵入して大笑いし始めた。………もうコイツと居るのいやだ。


「なんだい、そんなに笑いだしたりして!」


「えー、だってこれ見てみろよ。」


オティアスに言われた所を渋々ながらも覗き込むと、ホログラムにはこう記されていた。

《平行世界リスト

__(略)

・ヘンリーと侯爵のBL展開

・王女と侯爵がちゃんと結ばれていたら……

__(略)》


「……ふーん。じゃあヘンドリック、まずはここの配線をここに繋げて__」


「え~!?ミラーナ君、無視しないでよぉ!他は見なくていいからこの2つの世界線だけ見せてよぉ!」


駄々をこねるオティアスは面倒だ、へたに対応すると弱みをバラされる可能性が高い!僕は何故コイツに弱みを握られてしまったんだ?過去僕は一体何をしていた。


「えっとヘンドリック、エリザベス王女と結ばれるストーリーはともかく、君は息子と他の男が絡み合ってるの見たい?」


「……………………………いえ。」


「だよね。オティアス、諦めろ。」


彼以外の満場一致で見ない方向に傾きかけていたのだが、奴は(僕にとって最悪の)切り札を出してきた。


「これを見てもそんな事が言えるのか!」


…………数分後、僕は折れた。

あの画像を暴露されると色々とマズイ。


「ごめん、ヘンドリック。メンテナンスはこの2つの話見た後で頼む。」


「………はい。」



あんまり、そういう展開は見たくないのだが……。これを見るのに付き合うだけで、暴露されないと考えるとそんなの軽いものだ。

ため息を吐きながら、システムを起動して座標を世界線跳躍をさせて移動させる。






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