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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
その後、残された者達は………
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外務大臣の心変わり


こんな理不尽な事があってたまるか……!!

外務大臣ヘンリー=ベアドブーク公爵はツカツカと歩きながらそう考えた。

栄枯盛衰という言葉が世間に存在している意味をこれほどに理解した、理解させられたのは人生60年の中で初めてだろう。それもただ教えられた訳ではない、周りが居なくなって自分だけが助かってまだかろうじて息をしている……仲間が居なくなるのを自分だけが見ている、これがどんなに残酷な事が分かったのはこの1年だ。


「頭が痛い……」


外交の一線で活躍して、国外との人脈は深いと思っていた自分だが、どうやら国内では居場所が無いようだ。国際フォーラムから帰ってきたヘンリーがぶち当たったのは、アベル幽閉の情報と奸臣達が妙な事を吹き込んだのか王から疎まれたという現実だった。王が俺を嫌おうがそれはどうでも良い、尻ぬぐいをするのは後を継ぐエドワードなのだから。だが、アベルの件は大問題だ。奔走の結果、本当ならそのまま幽閉→斬首になっていた所をなんとか斬首だけは回避出来たが、アベルは気力を失って何もやる気が起こらないようだった。アベルの周りだけ色を失ったかのように真っ白な世界が広がっていた、ショーちゃんほどではないがアベルも物理的には遠い存在になってしまったという訳だ。


(この状況どうしたものか………)


勝利の美酒に酔いしれる下々の皆様は気づいていないようですが、レミゼは今かつて無いほどに危機的状況におかれている。そもそもアベルの下についていた仲間達が去って、残った俺達も王宮自体も基盤が揺れている所に内務府には地方貴族からは『一体どうなってるんだ!』と問い合わせが、外務府には近隣諸国から同じような問い合わせが殺到してるので書類を処理しても処理しても、むしろ量が増えている気しかしない事態に陥っているのだ。


「親父、これから宰相代理の所ですか?その前にちょっとは休んだら、隈酷いよ。」


「お前には、関係ない……まだ書類が溜まっているから俺は行くぞ。」


「ねえ、いつになったらこの国を出るの?親父だってこんな馬鹿げた茶番にずっと付き合うつもりは無いよね、だから声がかかるのずっと待ってるんだけど?」


昔のショーちゃんに何処か似た生意気な声がすると思って顔を上げると息子エドワードだった。

国を出るか……以前衛兵のジョン=クックにそんな事を言った、腐りきったことにほとんどの連中が気づいていないというあの時言った、国を捨てる条件に当てはまっている……だが、それは出来ない。ショーちゃんはベスという大切な人を何故か俺のようなろくでなしに託した、俺に最後を見届けろと言わんばかりに。


「俺はこの国を捨てられない、出ていくのならお前が家族を連れて出ていけ。俺は最期までここに残るよ。」


「と、父さん!?………まさかここで死ぬ気ですか!」


信じられないという眼をして俺を見ている、確かに信じられないだろうな。俺達顔どころか中身もまったく違うのに『何かあったらとんずらする』という点のみは一致していたのに、俺達を繋いでいた最後の糸が切れた瞬間みたいに感じられた。


「ああ、そうだ。お前が国を出る時は、それ相応の金は渡す。だが、後5年……次の宰相が任期を終えるまでは出奔するのは待ってくれ。」


「……何があったのか聞かないでおくけど、それを決めるのはこの国次第かな。」


「ああ……」


ショーちゃんとの日々は少しずつ遠い記憶になっている、それなのにどうして忘れられないのだろう。ショーちゃんの事は忘れたい、お前を救えなかったのは俺の汚点だから、そんなお前の痕跡がまだ残っているこの国から出ていきたい。だが彼は逃げるなと俺に言っている。


「父さん、それで良いの?」


「お前に心配されるなんて、明日は雪でも降りそうだ。」


「今は1月ですから、雪ぐらい降りますよ!」


俺は笑って心配そうにこっちを見てくる息子を置いて先に進んだ。行く先は、宰相執務室だ。



ショーちゃんとアベルが王宮から追われてすっかり周りは変わった。

カール様は彼は苦渋の決断をした。内務大臣の派閥に正式に仲間入りしたのだ、下野した俺らは子分みたいな扱いだったが、彼は構成員扱いとなって俺らの中では宰相代理となって、比較的影響力は残っている方だった。ほとんどの人間はこれを裏切りと見た、だが俺はそうは思わない。彼は彼なりに守ろうと動いた結果ではないのかと思う、それを直接聞こうとは思わないが。


「外務大臣……私に何か用ですか?」


「カール様、関係ない書類が何故外務府に回ってくる。『来年の歳出』これは宰相代理兼財務大臣、あんたの所のだろ!」


「ああ、本当だ。で、用はそれだけじゃないでしょう?もしかして、ついに出奔される気か?」


ヘンリーは首をかしげる、そんなに俺は逃げたがっているように見えるのか?と。


「いや、そんな気は無い。まったく俺はそんなに国を出たがっているように見えるのか?カール様にはいっておく、俺はもう逃げないよ。俺は生き続けて、酔いしれている連中が彼らを忘れないように存在し続けるのが俺のせめてもの復讐だ。」


「存在し続ける事が復讐……ですか。」


カール=ペンヨークは戦慄した。彼は突拍子もない方法を取る事に定評のある人物だ、腹の底はどうなっているのか想像すらしたくない、常々気紛れでこういう時に真っ先に国を見捨てそうな不忠者をここまで変える事が出来る人物……それは__。


「それは、亡きオンリバーン侯爵の為ですか……?もしもそうなのだとしたら、彼の何が貴方をそこまで突き動かしたのでしょうか?」


「ショーちゃんの事が好きだったんだ、好きって言っても友達としてだぜ?……まぁ俺は彼の事を忘れたかったし彼を殺した国に居座るつもりなんてなかった。だが彼は俺に大切なモノを残した、俺はそれを受け取ってしまった……本当にアイツにはしてやられたよ。」


「そうですか、とにかく書類をわざわざ届けてくださりありがとうございます。」


本当は、彼はかの侯爵の事を友人以上に愛していたのではないか、そう思った。あの侯爵は咲き誇る薔薇のように誰もが自然に近寄ってくるほどに皆に好かれていた、兄弟でいう所の末っ子のポジションが彼にはピッタリだった、そんな彼にこの気紛れだがお節介で世話焼きなお兄ちゃん気質のある外務大臣が惚れても不自然ではない。


「おう……それと、ちゃんと書類は見ておいた方が良い。」


「はぁ……?」


彼は意味深な言葉を残して、鼻歌を唄いながら出ていった。何なんだと思いながら書類を確認していると、1枚の小さな紙が折り畳まれて挟まっていた。開いてみるとそこには……。


「ローザンヌ公爵に手出しをするな……?」


何の事なのかこの時のカールには分かっていなかった。


_______


『ヘンリーはまた何かしようとしているようですね……。』


『それにしてもお熱いことで、好きだなんて熱烈ラブコールされちゃったよ?』


『それは、いつものおふざけでしょうからノーコメントで。』


オティアスの茶化しを誤魔化して、湖の方にまた目線を移したのだが、そこにヘンリーの姿はなかった。


『ミラーナ君、これは一体どういう事!?』


『何故動いたんだろう……座標がカオレエア王国の方にずれてる。ん?あれはヒロインじゃないか!』


慌てるオティアスとミラーナが悩んだ表情で座標と呼ばれるモノを腕にはめた腕輪の力で戻そうとしていると私もよく見知った少女の姿が映し出された。


『ジョアンナ=バードミル公爵令嬢……?』


彼女は何故かこちらの方を見上げて驚いている。その隣にはルミナス=アレン(本物)の姿。そして、眩い光があってからジョアンナの方だけが何処かに消えていった。


『俗に言う神隠しってこういうしょうもない理由で生まれるんだよぁ……侯爵、ごめんだけどちょっと彼女の方を見てもいいかな?

ヘンリーの企み解答編の方は彼女の次に見せるからさ。』


『ちょっとミラーナ君、口調が昔に戻りかけてる!』


『今のは忘れてくれ。』


ミラーナの口調は昔はずいぶんとため口だったようだ、神さまって人間臭い所があるんだなぁと思いながらショーンは黙って頷いた。


『あの子は余計なことを何もしてなかったらいいけど……。』


オティアスが無関心に言ってからカオレエア王国の風景が映し出された。





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