無実の悪徳宰相は諦める
__何故私はこんな目に遭っているのだろうか?
アベルはもう疲れ果てて何も語る気にはならない、それにも関わらず人々は私を、いいや彼が守ろうとした者達を完膚なきまでに潰すまで納得はしないのだろう。
私達の敗北が決まった時に彼はすべてを背負った、そのまま悪名を晴らす事なく幸せを目の前に死んだ。次は私の番という事なのだろうが、とてもじゃないが承服できない。
「はぁ………もう嫌だ。」
「アベル、しなびたレタスみたいな顔するなよ……俺だって納得はしてないが、国王陛下の権力に逆らえるほど力がある訳ではない。
あのボンクラに直談判するしか残された方法はない!」
ヘンリー達が色々と手を尽くしてくれたのは私も知っている。(一握りにグッシャグシャにされたが)嘆願書を出したり、(かなり際どい手(中身は教えてもらえなかった)で)脅しをかけたりと奔走してくれたのは、鼻水だらけになってなんとも言えない表情の猫を肩に乗せて涙と鼻水だらけの顔のパレス君から聞いた。その奔走があったにも関わらず、結果は公開処刑から国外追放に変わった程度にしかならなかった。
ええ?何の話かって?結論から言いますと私は濡れ衣を着せられたという訳であります、誰にだって?内務大臣とお思いですか?彼ではありませんよ、その上の御方です。…………国王陛下が私を虐めてきているわけです。
「ヘンリー、これ以上騒いでも無駄です。
ションちゃんがここまで守ってきたモノを私が失わせる訳にはいかないでしょう、まったく……こうなったら下手に騒ぐよりもおとなしく現状を受け入れるしかない。」
「宰相、本当にそれで良いのですか……?」
「…………」
私はジューンの言葉には答えないで本の方に眼を移した。
9月にションちゃんは死んだ。
10月にまぁ宰相の任期も後少しで終わりだしと荷造りを始めた。
11月に荷造りが終わらない内に濡れ衣を着せられ、そこから約三ヶ月間家に幽閉状態という訳で、私としては怒るという感情すら消え失せてしまいました。
__つい先日まで国の心配をしていたのに今は荷造りした荷物が荒らされていないかどうかの方が私には心配です。
「荷物の心配も良いけど、フェルナンドの心配もしてやれよ。放っておくとエドワードみたく親の言うこと聞かなくなるぞ」
「外務大臣、心配はそれだけじゃないと思うんですけど。宰相が居なくなった後の大穴は誰が埋めるんですか!?」
「俺とユーロ=バードミルとお前らが居れば最低限はなんとかなるだろう。その代わり、かなーりの低空飛行を強いられてしまうと思うが、そこは俺らの腕の見せどころだろう。
ほら、アイツだって後始末はちゃーんとするって代替案は用意してくれたし、これとか良いと思うんだけど?どうかな?」
ヘンリーの笑顔が黒い、それにその手に持っている紙束には『コクオーアンサツ』とか『宰相をぶっ殺す』とか『なんなら革命でも1発起こして王国をリニューアルさせちゃお!』とか色々と見てはいけない言葉の羅列が並んでいたような………。
「……多分その時には私は居ないと思うんで、貴方達に任せます。」
「そうか、それは残念だ………。」
その紙束は見なかった事にして私はそう答えた。自分の国(もうすぐ追放される身だけれど)の事とはいえ革命に参加するなんてどう考えても面倒な事はしたくないし、答えはどうでも良い。国王が暗殺されようとこちらを一方的にライバル視してくる次期宰相が死のうとどうでも良い!と言いたい。
「宰相……レミゼを見捨てるんですか?」
「ジューン、見捨てるだなんて酷い言い方だな。私が見捨てたんじゃない、この国が私を不要だと判断しただけの話だ。それに、私=悪という公式はあながち間違ったモノでもありません、使えない者が間引かれるのはよくある事でしょう?」
「おいおい……本当にもう終わりだな、外にいる衛兵どもよ、宰相はもうこの国に尽くす気はないようだ。彼はお怒りのようだ、ハハハ!当たり前だ、だってどうしようもない奴らしか残ってないもんな。最後の良心はお前らの手で散らされたも同然なんだから、アベルが怒る気持ちは俺にだってよーく分かる。」
悪徳宰相の気が狂ったのかと外で見張りをしていた衛兵達数人が部屋に入って見た光景は、笑い狂う外務大臣と静観した宰相の姿だった。
「ヘンリー、その顔で笑うのは止めてやってください、彼らが怯えています。」
「フン……。じゃあ話の続きをするけど、アベルだってアホらしくなったんだろ?ショーちゃんみたいにこんなところでポックリ逝っちゃうのが。そりゃそうだよ、あんなアホみたいに何も知らない若造どもと俺みたいな隠居する機会を逃した年寄りしか居らん国に何の希望があるっていうんだろうな?
衛兵諸君よ、無実なのに罪を着せられた国に尽くすアホが何処にいる、居ないだろ?」
「それは、宰相閣下の事を言っているのですか?閣下につきましては、王直々が証人の現行犯ですから無実ではありません。」
確かに状況証拠は私が犯人であるかのようだ。
11月の中旬頃のいやに清々しい朝、私がいつものように鍵を開けて宰相執務室に入るとそこには……私の椅子に座った死体が……!そしてそこに何故か都合よく王が部屋に入ってきて、私は弁解する機会も与えられずにそのまま幽閉コースへ直行しました。
「あれがか?あんな分かりやすい手段を取るほどアベルはアホじゃないよ、アベルまで居なくなってこっちはオーバーワークで死にそうなんだよ!」
「外務大臣、彼らに直接的な罪はないでしょう……。管轄違いの彼らを責めても私達の仕事量が減るわけではありません。」
「うっさい、それぐらい俺にも分かっとる!働き者のショーちゃんを失ったのだけでもかなりの痛手……まぁあれは彼の望みだったから、ある程度割り切れたが何の前触れもなく優秀な人材を潰そうだなんて流石の温厚な俺もキレるぞ!!」
どの口が温厚ですか……。
だが彼にしてはかなり耐えた方だと思う。
「ヘンリー、部屋の空気をこれ以上お通夜のようにしないでください。私はもう受け入れていますから、あのカインがちゃんと聞くかは分かりませんが引き継ぎくらいはちゃんとしますから。」
「………お前がそう言うなら。」
アベルはまた本の方に眼を移した。
______
『やっぱりこうなっちゃったか~!まるでサスペンスの疑われ要員じゃないの、宰相様。サスペンスだとこの後犯人だと思わせといて殺されるんだけどまぁ、死ぬことはないよ、だってアベルが国外追放にならないと次のゲームに繋がらないもんね。』
湖を見つめながらオティアスは呟く、ミラーナは申し訳なさそうに画面を見ていた。
『君の言い草だと犯人は王か……。なんだい侯爵、その目は。僕は国外追放になるように仕組んだけど、王様がこんな事するように筋書きを書いた覚えはない。』
『アベル………』
私は盟友の名前を呟く。
親父はまだ戻ってこない、何処に行っているのだろうか?
『彼はもう抗う気は無いみたいだね、じゃあ次はやかましい彼、外務大臣様だね。』
画面には、ヘンリーの姿が映っていた。




