季節外れの不死鳥の死
「何をしているんですか!」
声の主は、“友人”のショーン=オンリバーン侯爵だった。
「……何もしてない、ただ逃げてるだけ」
「はぁ、よく分かりませんが…。すいません、エリザベス王女、ミリアン=ヤヌス子爵令嬢はこの人ですか?」
ヤヌス子爵令嬢の方を向いて、ションちゃんはそう言う。
「そうよ!あんた誰?」
そういえばおかしい、特別監査室がたかが子爵令嬢に一体何の用なのだろう
「ええと、貴女のお父上のヤヌス子爵が横領罪で貴族籍から除名されたのでその事で…」
マジかよ……“レミゼの膿”ことヤヌス子爵家はここ100年ほど摘発されそうでされずしぶといということで“1月の不死鳥”とも呼ばれていた。
「嘘でしょ………お父様が」
うん、私達も驚いている。
「本題はここからなんですが、本来なら平民への降格だけで済みそうだったのですが」
「どうしたの?横領の額が国家予算並だったとか?」
その苦虫を噛み潰したような顔を見る限りそれを遥かに超える金額なのだろうか?
「……横領の額自体はそんなに多いわけではないんです、問題はヤヌス子爵令嬢がローザンヌ公爵令嬢の友人を騙って破壊行為をしていたことです。」
「これは…もしかしてこの人がやらかした事の尻拭いまでローザンヌ公爵家がやってたとか?」
「ええ、そうです。そうなんですよ、はい。」
滅多なことでは動じない彼には珍しく遠い眼をしている。
「何勝手に話を進めてんのよ!」
話についていけていない人が約1名ワーワーと喚いているが、貴女のことですよ。
「というわけで、ローザンヌ公爵家が立て替えた分だけでも払ってくれと公爵が激怒してます。こちらが請求書です。」
《請求書
出前代 35万レミゼ
お花1年分 178万レミゼ
窓ガラス代 250万レミゼ
銅像修復費5000万レミゼ
(略)》
「……ん?お花?」
おいおい、私への嫌がらせも含まれてない?これ……お花って
「こぉんのバカ娘がぁ!お前何やらかしてくれたんだぁ!」
突然、脂ぎった不健康そうな男性がヤヌス子爵令嬢、いやヤヌス元子爵令嬢に掴みかかる。バカ娘と言っているところから見てヤヌス元子爵だろう。
「お前のせいで子爵家がぁ!うっ……」
そのまま気絶してしまった。
__あの後、ヤヌス子爵家は本来なら平民への降格だったのだが請求書内に私への嫌がらせの証拠があったことも取り沙汰され、奴隷への降格が決まった。
まさに“季節外れの不死鳥の死”である。こうして“1月の不死鳥”は5月に貴族として終わったのだった
「それにしてもエリザベスは、オンリバーン侯爵と親しいのね。」
「ええ、まぁ彼とは友人よ」
「そういえば、来週末はお茶会があるらしいわよ」
「私は行かないでおくわ」
少し、気になることもあるし……




