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ああ、私はただのモブ。  作者: かりんとう
そして今………
203/229

甘い時間?

甘い話を書こうとして失敗したようです。

穏やかな生活が始まって2週間ほどが経って、彼は新聞をたたんで乱暴に机に置いた。


「どうかした?」


「ごめんなさい、少し苛立ってしまいました。

今度は、アベルみたいですね……彼は大丈夫でしょうか。」


私は彼が見ていた新聞を見てみるとこう書かれていた。


《6月5日付・レミゼ新聞

彼はやっぱり“悪”なのだろうか?宰相アベルが王の婚約者候補選考に妨害工作!?

宰相アベル=ライオンハート侯爵に王の婚約者選びを妨害しているのではとの疑惑が起こっている、この疑惑に対して内務大臣ユーロ=バードミル元公爵・外務大臣ヘンリー=ベアドブーク公爵は官報『中央公報』内で『そのような事実は無く、婚約者問題は全て王と王太后様に一任しています』と述べている。

___(略)

その他にも黒い噂が多い彼は“正義”と“悪”一体どちらなのだろうか?》


「呆れたわ……まだ、善悪に囚われているの?でも、内務大臣が庇うとは思わなかったわ。」


「アベル達は下野しましたからね……彼の本心がどうであれ、仲間は俺が守るという事のアピールでしょうね。心配ですねぇ……アベルが。」


「ショーン、貴方は自分の立場が分かってそう言っているの?アベルはまだ未遂だけど、貴方は“悪人第1号”にもうなっちゃってるのよ!

アベルを心配するのもいいけど、自分の状況をなんとかしてから言うべきじゃない?」


「私はもう“過去の人”ですよ。

でも、少し気になるのは誰が疑惑の情報を流したのでしょう?内務大臣はアピールの為にここまで変な真似はしないと思いますし、少なくとも私には心当たりがありません……。」


“過去の人”自らをそう揶揄した彼の顔は穏やかなモノで、あの裁判の時に比べると顔にも艶が出てきて元気そうな様子である。

ある新聞はまだ冷静にあの裁判のその後をこう報じていた、『次期宰相候補と名高かった彼も今やすっかり過去の人である、幸福な人々の冷血な気持ちが今回の異例な裁判で露見した形だ。』


「私にも心当たりは無いわね……」


花瓶の白薔薇を見つめながら私達は考えたが、結局これといった結論は出てこなかった。


______


私、アベル=ライオンハートはこの国で宰相の役職を戴いております。周囲からは、“悪徳宰相”または“亡霊宰相アベル”と呼ばれているそうです。

ですが、その内情はただの“胃痛男”という表現が正しいと自分自身を客観的に見たときに私は思います。

そんな私は現在、王宮を離れた盟友の元を訪れています。


(しかし、これは………)


一瞬、別人かと思うくらいに彼は変わっていた……。つい数が月ほど前とは違って、いつも険しい面持ちだった顔はほんのりと赤みがさして健康そのもの。そして、親子くらいこの目の前に居る元王女と彼の歳は離れているのに、醸し出している雰囲気は恋人のそれである。むしろそちらの方に衝撃を受けた、正直に言うとこの2人が想い合っていると知ったとき以上の衝撃を今間近で喰らった。

顔には出していないが、かなり甘えきっている……“16の小娘に甘えきる50近くの中年男”か……。


(字面的にかなり気持ち悪い!)


今までの反動がここにきて一気に溢れだしたと楽観的に見るのか、完全に骨抜きにされたと悲観的に見るのか………私は複雑な気持ちになった。

そして、私には分からない。エリザベス王女の何処に彼が惹かれる良さがあるのか……決して王女がブサイクだとか性格に難有りという訳ではないが、愛らしい王女とあまりにも歳が離れすぎた侯爵というアンバランスな組み合わせに納得がいかない。


(彼女が初めてという訳でもないだろうに………)


結婚をしてないというだけで、今まで恋愛の1つや2つは謳歌してきただろうに……。

複雑な心境が顔に出てしまったのだろうか、心配そうに私の顔を覗きこんできて、彼は首をかしげながら言った。


「アベル、貴方は何か大変な事に巻き込まれているのでは?私が動くことは出来ませんが、愚痴くらいなら聞きましょうか?」


「貴方に心配されるほどではありません。今回は少し不意打ちを喰らった程度、恐れるモノでは無いと思います。

それにしても、そろそろ色んな意味で潮時なのかもしれません。」


「世代交代の時が来ているという事ですか?」


ションちゃんに心配されるなんて私もまだまだだと思う。彼が言う世代交代……それも確かに来ているのかもしれない。

あの裁判を私達と内務大臣の対立の延長線上と正しく見ることの出来たのは上の方の一握りの貴族達だけだ、“前王の信頼が厚く悪しき評判ある者の元に集まる百戦練磨の老兵達”と“新王の信任を得ている狡猾な大臣の元に集まる正義の兵士達”という対極な存在と別れていた事を人々のほとんどは理解していない……だから故に今回の身に覚えの無い疑念を抱かれる事となったのだろう。


「ええ、まぁそれもあるでしょう。

ですが、今回の件………あれは内務大臣でもなければ、貴族が仕掛けたモノでもない。」


「貴族ではない……?

つまりは誤報だったという事でしょうか?それとも………」


彼は何かを言いかけて口ごもった。

彼もこの件を仕掛けた御方に心当たりが出来たのだろう。だが、その名前をここで出すことは気が引けて出来なかった。


「ねえ、アベル……貴方までこうならないでよ?私は貴方にはこの国で長生きをしてもらいたいの。」


「そうですね、失脚しようとも私はしぶとく生き残ってみせます。王女……今は、エリーゼでしたっけ?エリーゼさん、私は早死しそうに見えます?私よりもションちゃんの方“が神に愛される方”ですから早死しないように気をつけてくださいよ。」


「神に愛されるならこんな事にならないと思いますがね。」


全然嬉しくもない心配をされた……内心は複雑だ。彼には家族は居ないし望んでそうしたが、私は望んでもいなければフェルナンドが居る、息子にひもじい思いをさせるのは親として避けたい。


「それは、貴方が自ら飛び込んでいったのでしょう?ほら、初めて会った時に『崖に飛び込む気持ちで頑張ります!』とか生意気に言ってましたが、本当に飛び込む勢いでこうなるとは思いませんでしたよ……。

ああ、言い忘れてました……貴方達の結婚は9月辺りに決まりましたよ、後3ヶ月くらいでやっと何のしがらみも無い第2の人生を送る事が出来るんですよ、おめでとうございます。

はぁ、そろそろ私は行きますから2人だけの時間を楽しんでください。」


私は彼らを祝福するようにそっぽ向いて言って、屋敷を出た。


______


「アベル……大丈夫かしらね、なんだか危なっかしいというか嫌な予感がする」


アベルには、死亡フラグは立っていないがゲームでの失脚フラグが絶賛直立中である。


「内務大臣様の元に下ったアベルを攻撃することは、彼を敵に回すも同然です……そんな大胆な貴族はいないでしょう……あそこには。」


「うう、まぁそうだけど………。」


何か釈然としない胸のつっかえを感じていると、ショーンは私の腰に腕を回して抱き寄せた。


「さぁ、アベルの事は頭の片隅にいったん置いておいて……貴女には、色々と教えないといけない事も多いんですから。」


「そんなぁ私、お料理は前世からの苦手なのよ!これでもまだマシな方よ……逆に貴方がどうしてそこまで料理が出来るのかの方が気になるのだけれど!」


王宮を出て、気詰まりなマナーやその他もろもろのお稽古が終わったと思えば、今度は炊事洗濯等々……日常の家事に追われる事となった、洗濯はまだしも料理が苦手でみそ汁しか作れないレベルだった私にはとても苦痛__というではない、彼といられる時間が増えてとても嬉しく思う。


「私の場合は家庭事情がちょっと特殊でしたから。」


「家庭事情と料理の因果関係が、ちょっと私には分かんない……。」


「私にも分かりませんでしたよ、『貴方がひもじくなっても大丈夫なように!』って謎理論を展開されて料理を叩き込まれた私の身にもなってください……。」


本当に不思議な家庭だったのね……。


「そういえば、アベルが“不意打ちを喰らった”なんて言っていたけど、誰だったの?」


「それは………知らない方が良いと思います。

さあ、早く行きましょう。」


気になった事を聞いてみたのだが、視線を逸らして教えてもらえなかった。


「ショーンのイジワル!」


私が口を尖らせて言ったが、


「そんな顔して言われてもかわいいだけですよ。さてと今日は何を作ります?」


彼は私の頭を撫でてから鼻歌を歌いながら、キッチンの方へと私を押していった。



___とても、穏やかな2人だけの時間。だが、2人が幸せになること、それを天は許しはしないらしい……。







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