誰にも邪魔されない逢瀬
R-18もどきです。
見たくない方は回れ右をお願いします。
夜も深まり、人々が寝静まった真夜中に、王都に小さく響き渡った鐘の音。3回の鐘の音は王族の死を意味する……王女エリザベスがひっそりと歴史の闇に消えた事を祝福する音であった。
ああ、一体どなたが逝去したのだろう……きっと翌日にはそんな話が持ち上がり、2日後には“翌年に結婚を控えた王女が哀れにも不幸な火事で命を落とした”と一斉に報じるのだろう。
(まぁ、私はこうして生きているけどね………。)
真夜中の王都を走り抜けるのは、王女にとてもよく似た少女……名をエリーゼ=ベルディスと言う。結論から言えば彼女こそが死んだはずのエリザベス王女であった、何故王女が平民になっているのか、これはややこしいのでかいつまんで言うと彼女は長年の想いを遂げようとしている。
彼女が向かうその先には、こじんまりとした屋敷がある。そこは、外務大臣が所有している屋敷の1つで王都からは少し離れた所に存在している。
(ここに、彼が………?
長かったわ……やっと、やっと会える!)
あらかじめ鍵を渡されていた屋敷に私は足を踏み入れる。
屋敷内には、白薔薇が咲き乱れる品のあるあずま屋や王都の貴族達の邸宅の豪華さとは違った良さを感じさせる三階建ての母屋などがあるのに、人気を感じさせず寂しい……。
だだっ広い庭をランタン片手にさ迷い歩いて、愛しい人を探すが見つからなくて心細く感じていると人影があずま屋の方にあるのが見えた。
そちらの方に駆け寄っていくと、月明かりがキラキラと降り注ぎ、お互いの姿がハッキリとよく見えた。
その顔は、約3ヶ月前と比べると穏やかになって余裕もあるように感じる、まだ少し元気がないような気もする。
「エリザベスさん………?」
「貴方に、やっと会えた!」
だが、会えた事が嬉しかった私は、目を見開いてこちらを凝視している彼の返事も聞かずに抱きついた。
戸惑っているように見えた彼の反応も存外素早いものだった、何度も角度を変えて、頬に、首筋に下りて、鎖骨をなぞって口づけをした。
2人はもつれ合うように重なってからあずま屋の床に倒れ込む。
「ちょっと……私、寒いのはイヤよ。」
誰に見られているのかも分からない、高い塀に囲まれて居るとはいえ、庭でこんな……。
これから起こるであろう展開に期待と不安を胸に私が強がるように抗議の声を上げると、彼は
「ごめんなさい、でも貴女の事が欲しいんです……」
「……ションちゃんの馬鹿!」
珍しく、切羽詰まった余裕の無い声で、まるで子供のように言う。それが愛しく思われて私は子を抱くように彼を抱きしめた。
「そろそろ、私の事は名前で呼んでくれませんか?」
「えー?じゃあ、私の事だって呼び捨てにしてよ!」
「貴女が呼ばないと、私は言いません。」
先程までの甘ったるい大人な空気はどこに行ったのだろう?いつものくすぐったい幼い空気に変わった。
「ショーン……」
「エリザベス……」
お互いに名前を呼び合った。
それが合図だった、私は彼の事を受け入れた。
小さく声がこぼれてしまう、そしてふわふわと意識がぼんやりとしてフッと体の力が抜けていく。
「もっと、私の事を__」
2人は王女と侯爵ではない、ただの男と女として私達は__。
その後に何があったのか記憶は定かではない、私はされるがまま彼に身を任せた。とろけるように甘く、熱い時間だった。
__松明の炎のように燃え上がる私達を見守っていたのは、転がったランタンと月明かりのみだった。
______
チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえてくる。朝が来たと身体を起こして、目を擦りながらゆっくりとまぶたを開けると、窓から朝陽が射し込んできて眩しさに目を細める。
ベッドと棚、そして活けられたみずみずしい白薔薇がある少し寂しい部屋で私は目が覚めた。
(ん、なんだか体がダルい……というか痛い。)
下腹部に痛みがあるのと、全体的に体がダルい……。王都から全力疾走した事、だけでは無いだろう……その他にもきっと__。
昨夜、私は何をした?……そこまで考えて、私は羞恥心から顔を赤くした。
枕に顔を埋めて、そして布団をかぶって夢の世界にレッツゴーとはいかなかった。
(あれ?そういえば、私はいつ着替えたっけ?)
その疑問が出てきたからだ。
今私が着ているのは、寝間着だった、王女としてのモノよりもフリルやレースは少なかったが。あんな着ているこっちが子供なのか大人なのか分からなくなりそうなフリルとレースの塊よりもこの方が私は好きだ。
「目が覚めましたか、エ、エリザベス……。」
「うん、覚めたよ……。」
私は、控えめにノックして済まなそうにこちらを見る彼の顔を、あまりにも恥ずかしくてまともに見ることが出来なかったし、名前を呼び捨てで呼んでくれた彼に応える事が出来なかった。
「昨夜は、本当にごめんなさい。」
「ううん、別に……。」
彼が気を使ってくれているのに、素っ気ない対応しかとれない自分の事が嫌になった。
「でも、体が痛くて起きられないわ。申し訳ないけど、起こして。皆、最初はこういう感じなの?それとも、貴方が急ぎすぎただけ?」
「さぁ、分かりません……ヘンリーなら私よりは知ってそうですけど。」
耳まで赤くして、彼はばつが悪そう頭を掻きながら私に小さな声で言った。
「じゃあ、今度会った時に聞いてみようかしら?」
「それは止めてください!
ちょ、朝食用意しましたからね、ほら行きますよ!」
口を尖らせて、子供のようにはにかんだ表情の彼はそう言って、私を抱き抱えてお姫様抱っこをした。
「きゃっ!
ショーン……冗談よ、冗談。」
いきなりの事に、私はびっくりすると同時に、とてもドキドキしながら、私を抱き抱える彼の胸に顔を埋めた。
甘い話が続きそうです。




