おいてけぼりのエデュ神
事件は、誕生日を間近にした5月のある日に起こった。
あれから私はマリア=ローザンヌ公爵令嬢の取り巻き……と言ってもいいのだろうか?まぁとにかく、彼女達を刺激しないようにクラスメイトにはなるべく関わらないように内密にお願いした……。
(何か効果的な方法は無いかしら?)
しかし思うような効果は上がらず、彼女達の横暴さは増すばかりで遂にはマリア様が先輩に呼び出されるような事態にまで発展することとなった。
「ごきげんよう、貴女がマリア=ローザンヌ公爵令嬢ですね!この貴女の友人の方々をなんとかしていただけませんか?」
その日も昼休みに、先輩がマリア様に文句をつけにきた。だが、いつもと違うのはその先輩が最高学年の6年生ということと生真面目で滅多に怒らないことで有名なお方だったことだ。
(あの人達一体何やらかしたの………?あの方は学園のエデュ神と呼ばれているカサンドラ伯爵令嬢よ………)
レミゼ王国は多神教の国である。
エデュ神は太陽神と月の女神の次いで偉い神で、学問と調和の神である。
つまり、彼女は初等科6年の首席という優秀な頭脳と的確な仲裁で“彼女のいるところに争いなし”と言われてエデュ神に例えられるくらいの有名なお方である。
「え、えと、カサンドラ伯爵令嬢申し訳ありません……」
当たり前だろうがマリア様は涙目になっている。
流石に小心者の私でもこの状況を野次馬に紛れて傍観しているわけにはいかなかった。
「ごきげんよう、カサンドラ伯爵令嬢。少しよろしいかしら。」
私は勇気を振り絞り声を出した。
「貴女は……エリザベス王女殿下?」
「ええ、そうよ。カサンドラ伯爵令嬢、貴女は誤解をしているわ…あの方々はマリア様に付きまとっていて友人の私も迷惑をしているのよ」
「ええ?友人ですか?ローザンヌ公爵令嬢と、」
カサンドラ伯爵令嬢は呆然とした顔をしていた。私だって口を突いて出た自分の言葉に驚いた。だが、ここまで言ってしまった以上戻れはしない。
「そうよ、それなのにあの方々はマリア様と私が仲良くしようとしたら私達の仲を引き裂こうとしたのよ!
マリア様とあの方々は友人などではありませんわ、マリア様が何も言い返さないことをいいことに好き勝手しまくった人達ですもの」
「エリザベス様……私は、その」
野次馬達の間でも私とマリア様が被害者なのでは無いかという空気が流れ始めたその時、
「嘘よ!何嘘ついているのあんた。」
そう私に向かって暴言を言ったのは、取り巻き達のリーダーのヤヌス子爵令嬢だった。
彼女の家は、財力があり彼女も幼い頃からワガママ放題に育てられたのだろう。自分より高位の貴族令嬢にも偉そうな態度を取っていた。
「公爵令嬢だかなんだか知らないけどあんたみたいな身分しか取り柄の無い女なんかと一緒にいただけでもありがたいと思ってほしいんだけど!」
いやいや、身分以外にもマリア様の方が優しいし成績もあなたよりいいでしょう……
「アベルが前にヤヌス子爵家とは関わらない方がいいって言ってた理由が分かったわ……」
いつだっただろうか、特別監査室に顔を出した時にこのようなことを言っていたことを思い出した。
《あそこの家はなんと言うかあの反国王派すら近寄らないくらいの“レミゼの膿”って言われてるんだよ》
「さすが、“レミゼの膿”…どんな教育したらこうなるのかしら」
「どこの派閥も近寄らないって言われてる理由も分かるわ」
野次馬達からもこういった声が聞こえてきた。
というのも彼女はすでにアウトラインを越えていた、五番目とはいえこの国の王女である私をあんた呼ばわりしたこととマリア様への暴言……今までしてきた悪行の数々
「なによ、あんたなんて」
そう言って、マリア様へ殴りかかろうとした。
「あ!UFOだ!」
明後日の指を指して叫ぶ
皆がそちらに目をやった隙に私はマリア様の手を引いてその場から走って離れた。




