婚約者と想いと
時間というものは緩やかに流れる。しかし、無情にも早く流れる時もある。あっという間の新年の昼下がり……
ションちゃんに恋なんてしていない、私たちはただの友人だと心に言い聞かせながら私はイチヤ王子との顔合わせに応じる。
「エリザベス王女、はじめまして。ナクガア王国のイチヤと言います。」
イチヤ王子は、確かに噂に聞いていたように容姿端麗で私への態度にもなにも問題はない。すべてにおいて完璧な王子だった。特に彼の美貌はこの国には誰も敵うものはいないと思うほどであった。
(運がなさそうというよりは…なんなのだろうこの感じ)
美人であることには間違いないのだが、ただそう評するには何かが足りない。まるで人形の様だと言えば良いのか、生気が感じられない。
言い方を変えれば、ヘンリーが言うように“運の無さそうな顔”なのだろう。
「イチヤ王子……私は、レミゼ王国第5王女エリザベス=ド=レミゼです。」
たどたどしく、私は教えられたように自己紹介をする。
「可愛らしい僕のお姫さま、これからよろしくね」
その頼りない自己紹介に対してイチヤ王子はニコリと笑う。
その微笑みのあまりの美しさに近くにいた貴族夫人がほうっとうっとりとしていたが、私はなにも感じられなかった。
ただただ、この時間が早く終わってほしいとそう思うのみであった。
「王女様、お疲れ様です。それにしてもお美しい方ですね、イチヤ王子は。」
「そうね…」
あれから数時間は経っただろうか、ようやく宴は終わった。私は自室に帰り、重苦しいドレスを脱がせてもらう。
「ふう、マリッサ!この机の上のお菓子をションちゃん達に持っていってちょうだい。お仕事大変だっただろうから」
「王女様……あの、これからは特にオンリバーン侯爵とは会うことはお控えください。婚約もお済みになったのでもしも誰かに見られたらあらぬ噂が立ちます。」
マリッサはらしくない苦言を呈した。
「……貴女は私が親子ほど年の離れた人を好きになると思っているの!」
「あの特別監査室にイチヤ王子と並ぶほどのお方がいらっしゃるとは思いません。ですが王女様のオンリバーン侯爵に対する態度は周りからみればいささか友人の域を超えているかと思います。」
………そうなのだろうか?そんなにも分かりやすい態度をとっていたのか私は。
「分かった、これからは気を付ける。お菓子はまた今度にしようか」
ただの友達、それで私は満足。だからナクガア王国に、イチヤ王子の元へ嫁ぐまではせめて友人でありたい。
数日後、私は特別監査室を訪れたがそこにはションちゃんの姿はなかった。
「宰相閣下の代理で隣国へ行ったんですよ……」
アベルはそう答えるのみであった。
それからも、私が来たときに限ってションちゃんの姿はやはり無かった。会えてもまともに話すこともできないまま、寒い冬は過ぎ私は2年生へと昇級した。




