自覚
夏休みが終わり、学校が始まった。ションちゃんはまだ帰ってこない。
「はぁ、まだ帰ってこないなぁ」
話し相手となってくれたヘンリーやアベルとも会えなくなったせいか寂しさは余計に積もるばかりであった。
「あの!貴方、さっきからため息ばかりつかないでください。これで41回目ですよ、こっちまでいやになります。」
こう言うのはマリア=ローザンヌ公爵令嬢。私に嫌がらせをしてきた人達のリーダーであり、兄の婚約者でもある。
「……じゃあ聞かなければいいじゃありませんか。」
「一体どうなさったのですか?貴女らしくないわ、悩みくらいなら聞いてもいいですよ」
私はションちゃんだと言うことは隠して、ある人に会えないことが寂しい、その人のことを考えると胸が苦しくなってツラいと言った。
「……それ、恋わずらいというものでは?ロマンチックですわ!まだ見ぬ婚約者候補に恋をするなんて、貴女にもそんな所が有ったのね」
ローザンヌ公爵令嬢は関心したように言う。内定の知らせのせいかそれがイチヤ王子のことだと勘違いしているようだ。いや、私は別にイチヤ王子に恋心を抱いている訳ではないのだけれど
……待って!ということは私がションちゃんに恋をしてるってこと?
「そ、そんな……」
私の頭の中に、母の言葉がガツンと響いた。
“それは持ってはいけない想いよ、王女として、女として”
「私にアドバイス出来ることはほとんどありませんが、これを差し上げますわ。持っている小説を間違えて買ってしまったの」
黙りこんだ私を見て、ローザンヌ公爵令嬢が差し出したのは巷で流行っている恋愛小説だった。
「こういう本は苦手なんだけどなぁ」
恋愛という類いの話題や本は苦手でまさか自分がその人物の様になるとは思っても見なかった。
「これが恋?」
胸に手を当てる、本当に恋なのか、まだそれは分からなかった。




