プロローグ:幸福じゃない少女
ここは、大陸の東端にあるレミゼ王国…。他国からは『幸福な国』と呼ばれていた。それが言葉の意味そのままでそうだと言われる時代もあれば皮肉をこめてそう言われている今の時代もあるのだが……。
そんなこの国で、幸福とは言い難い少女がいる。彼女がいるのは王宮の片隅の部屋、片隅とはいえ王宮は王宮であり部屋の調度品も豪華絢爛とまでは言えないが、部屋の主の体面を保つためにある程度高価なモノである。
「ここの何処が幸福なの?幸福とは一体何?」
少女の悲痛な顔が歪む。
ある時は無垢な微笑みを魅せ、またある時はいたずらな笑みを浮かべたり……。
時には泣き、時には悲しんだ。
その姿は今は怒りとひどい悲しみに襲われている。今の少女の中にあるのは、理不尽なこの世界に対する溢れんばかりの怒りと未だに酔いから醒めきっていない人々に対する失望だった。
少女はこの国が幸福ではないことを知っている側の人間である、けれどもこの国にそういう人間は、良識のあるまともな人間はまだ少ないのだ………奴らは、破滅を歩む。いいや歩まなければ滅びに向かっている良識のある彼らがあまりにも浮かばれないのだと少女は憤っている。
「思えば生まれてから本当にいろいろとあったわ」
前世の記憶、日本と言う国で女子高生をしていたもう一人の自分を思い出した時からもう何年も経っている。
その間、もっともっと自分には何か出来なかったのだろうか、今のこの状況を招いたのは本当に彼らだけのせいだったのだろうか。
私達にとって彼らは“悪しき者”だった、だが彼らから見たら私達は“善きモノを破壊する破壊者”だったのかもしれない。だが、彼らが全て悪いわけではない、何も知らないくせに彼らの話術に騙されて酔わされている大多数の人間が少女は1番憎い。
「……………」
私は……私達は元から変わることなど無く、こうなってしまう運命だったのかもしれない…だけれどももし、私が何か強い行動をしていたなら何かが変わっていたのかもしれない。それとも気づいていないだけで私は、事態を本来よりはマシにしたのかもしれないし、深刻なモノにしただけかもしれない。でも、たとえ今までの歩みが無意味な延命行為であったというだけだったとしても少なくとも私達は何かを成したのだ。
「それは、もう誰にも分からない」
彼女の名は、エリザベス=ド=レミゼ。この国の第5王女である。