７５．俺、ガチでバトる
こうなったら、自分の能力に賭けるしかないな。ベタすぎる展開だけど…。
俺の悪食vsアラクレの暴食。
どっちが残るか勝負だ。
…そういえば、大先輩も、似たようなことやってたな。
勝算はある。
俺の悪食は、竜王を唸らせた実績があるからね。
その後で進化したから、悪食もパワーアップしてるはずだ。
アラクレが竜王以上に強いとは思えない。
だから絶対に勝てる。
…いや、勝てないって思ったら、その時点で負けだからね。
試合じゃなくて死合なんだから、勝つことだけ考えなきゃ。
俺は覚悟を決め、SDGから降りた。
ここから先は、小細工抜き。
全力でぶつかるだけだ。
俺は全力で悪食を発動する。
蒼いオーラが全身を覆った。
…全力の悪食って、思ってた以上にエグイな。
周囲のマナを、とんでもない勢いで吸い込んでる。
吸い込むといえばピンクの悪魔だけど、あれは正面だけだよね？
全方向から吸い込んでるぶん、俺の方が凶悪だと思う。
マナを際限なく吸い込むブラックホール、そんな表現がピッタリだ。
吸い込んだマナは、そのまま蒼いオーラに変わる。
蒼いオーラはどんどん広がる。
表面積が増えたぶん、吸い込むマナの量が増える。
うん。敵に使われたら泣きたくなるループだ…。
蒼いオーラは周囲のマナを食い尽くし、獲物を求めて動き出した。
それは、例えるなら無数の触手、あるいはヘビ。
今の俺、遠目に見たらメデューサなボールっぽいんじゃないかな？
俺の思考を反映しているのだろう。
すべての触手がアラクレに狙いを定めた。
「ヌゥ…。何だ、その力は…？」
「見てればわかるさ」
俺はゆっくりとアラクレに向かって進む。
触手は一本一本が意志を持っているかのようにうごめき、アラクレの糸に向かって一斉に襲い掛かった！
「グッ…、馬鹿ナ…。ワタシの糸ガ…」
最初の接触でハッキリした。
悪食vs暴食。
対象を吸収する能力は、悪食の圧勝だった。
例えるなら、俺の悪食はハイパワーな業務用掃除機だ。
対するアラクレの暴食は、静電気でホコリを吸着するハンディモップってところだな。
そんな二つが互いを食い合えばどうなるか？
答えは一方的な蹂躙劇だ。
触手は周囲のマナごと糸を食らう。
地面ごとクモの巣を消していく。
ローリングディフェンス的に使われてる岩も、次々と消していく。
アラクレも懸命に応戦してくる。
巣を張り直し、岩と糸を補充する。
しかし、全然追いつかない。
触手は縦横無尽に暴れまわり、ことごとく食い尽くしていった。
そして現在、触手は全身鎧と食い合ってる。
傍目には、一進一退の攻防中に見えるかもしれない。
でも、マナの流れを見ればわかる。
すでに勝負はついてるんだ。
「オノれ！」
アラクレが食われた鎧を修復する。
ダークネスムーン・クリスタルの能力だ。
この能力がなければ、アラクレは楽に逝けただろう。
恐ろしい石だよ…。
