57.俺、寝る
住処に戻った俺は、分身を回収した。
「融合」
例の漫画のノリで、頭頂部をU字型にして分身の方に伸ばす。そう、両手のつもりだ。
分身の方も、同じように頭頂部を伸ばしてくる。
触れたら魔法でスモークを出して、それから合体するんだ。
この世界じゃ、誰にもわかってもらえないとわかってる。
それでも俺はやりたいんだよ。
だって、誰にも何も言われないんだもん。
これ、前世じゃカッコ悪くてできなかったからね。
ああ、やりたいことをやれる世界っていいなぁ…。
しばらくしたら、ハーピーたちが起きてきた。
そうか、もうそんな時間か…。
…あれ?
何か、眠い…ぞ…?
スライムになって、初めての眠気だ。しかも、メチャメチャ強烈。
徹夜明けってレベルじゃない。
うん、ちょっと我慢できないな…。
「マリュー、俺、ちょっと寝るから」
「は、はい。お休みなさいませ、ダール様」
ハーピーたちが驚いてるけど、応えることができない。
俺はそのまま眠りに落ちた…。
☆
ふむ、これは夢だな。
何故わかるのかって?
俺の前に、人間だった時の俺が寝てるからだよ。
自分の部屋でもない、彼女の部屋でもない、どちらの実家にもない部屋で、俺が寝てるんだ。
…ん?
んんんんっ!?
俺が寝てるベッドがゆったりダブルサイズなのはいいとして、隣にベビーベッドがあるんですけど?
……。
…性別はわかんないけど、赤ちゃんが寝てました。
どう見ても俺の子ども…だね。
部屋の中は二人だけ。
カーテン越しに、外が明るいのがわかる。
枕がひとつ余ってるから、嫁は起きてるんだろう。
そうだな。
スライムになってなきゃ、何年か後にはこうなってたんだろうなぁ…。
あ、誰かの足音。
あ、ドアが静かに開いた。
あ、あれっ!?
…。
いや、それはないんじゃね?
入ってきた人――おそらく嫁――を見ようとしたら、場面が変わっちゃましたよっと。
俺は今、THE玉座の間にいる。
神々しいオーラが凄すぎて、玉座を見ることができない。
これは…、神様の御前にいるとしか思えない。
気配から察するに、玉座には主が座してて、両隣に側近が控えてる模様。
そして俺は、スライムの身体が固まりそうなぐらいに緊張してる。
「…よ」
「は、はい」
呼びかけられたのに気づき、かろうじて応えた。
相手は主の右側の側近。鈴を鳴らしたような女性の声だ。
「あなたの活躍は、皆が興味深く見ていました。臣下の条件を満たしたのは、私にとって意外という他にありませんでした…」
おおふ。
これは、神様の家臣にスカウトされる流れですかね?
普通に考えればこの上なく光栄なんだろうけど、今はちょっとなぁ…。




