6.俺、どや顔に失敗する
俺はハーピーを連れて洞窟を出ることにした。
人間同士なら手をつないで歩くとこだけど、俺はスライムで相手はハーピー。
どちらも手がないのでそれは無理…。
うん、今のはお約束なんだ。すまない。
というわけで、ハーピーは俺の後をトコトコとついてくる。
ハーピーは大人でも歩くのは苦手。子どもの足だから、さらに遅い。
広間の出口まで来るのにも時間がかかる。
ポヨーン。ポヨーン。ポヨーン。ベシャッ。
「!?」
広間の出口で何かにぶつかった。
目の前には何もない。
見えない壁ってやつだな。
しかし、いつの間に…。
やっぱ俺の危険感知能力、全然あてにならねー!
うーむ。ここを出るのが第一関門か。
それじゃ、俺の小説知識を試してみるか。
一応確認。
俺は手近にあった骨を掴み、見えない壁を叩いてみた。
コンコン。ココン。コン。
実体がある。音からして硬質材だね。
これなら、定番のあれが使えるかな?
次はこれ。ファイヤーボールができたから、たぶんできるはず。
「ファイヤーブレス」
よし、できた。
灼熱の炎が見えない壁を焼く。
ゴオオォォォォォッッ!
見えない壁に止められた。でも、それでいい。
当然、次はこれだ。
「アイスブレス」
俺は推定水系だから、できて当然。
極寒の吹雪が見えない壁を凍らせる。
ビュオオォォォォォッッ!
ありゃりゃ!?
見えない壁は、あっさり崩れた。
全体に細かい網目が出たと思ったら、そのままボロボロと…。
この後、衝撃を与えてどや顔で解説する予定だったのに…。
…あ、今の俺、顔が無いんだった。
まあいいか。とりあえず、広間から出よう。
『ちょっと待ちなさいよ!』
広間を出ようとした俺の頭に、洞窟の入り口で聞いた声が届く。
ハーピーも同じだったようで、あちこちをキョロキョロと見ている。
「お前、何者だ?」
謎の声は、呆れた口調で返す
『何? あんた、スライムのくせして、あたしを知らないの?』
そう言われてもなぁ…。俺、今日の昼頃にこの世界に来たばかりだし。
「(なあ、お前、声の主が誰だか知ってるか?)」
俺は小声でハーピーに聞いてみた。
「(キ、キィ)」
ハーピーは小声で頷く。しかも、この世の終わりみたいな顔して怖がってる。
声の主は、子どもが知ってるぐらい有名で怖い奴のようだ。
おそらくだが、こいつは洞窟のボス的な存在だな。
とすると、選択肢は無し。自分の強さを信じて、一戦交えるか…。
「ああ、知らないね。姿も見せずにコソコソ嫌がらせをするようなセコい奴は、俺の知り合いにはいない」
『お、おのれぇーーー!! ひとが一番気にしていることをーーーー!!!』
ボンッ!
広間の中央から気の抜けるような音。
立ち込めるスモーク。
その中に浮かぶ影は……でっかいタコさんウインナー!?