21.俺、ノスタルジーに浸る
空の色がスッと変わる。漆黒から濃紺へ。まもなく夜が明ける。
もう見慣れた光景だけど、初めて見たときは感動した。
俺、いわゆる夜型人間だったから、朝は明るいのが当たり前だったんだ。
当然、夜明けなんて見たことない。初日の出? 全然興味ありませんでした。
だから、枕草子の有名な件、『春はあけぼの~』も「フーン、で?」だったわけ。昔の人って、娯楽が無かったからそんなんで感動してたのかって、そう思ってた。
でも、この世界に来て実際に見て、清少納言の思いがわかった気がした。京都より稜線がシャープだけど山があるし、周りは手つかずの自然だもん。
おそらくだけど、前世で夜明けを見ても、そこまで感動できなかったと思う。そして、学生時代を京都で過ごした親父を少しだけうらやましく思ったな。
「それではダール様、私たちは休ませていただきますが、本当におひとりでよろしいのですか?」
「ああ、大丈夫だ」
ハーピーたちが眠りにつく。
ふと気づくと、空は白み、朝焼けをむかえていた。
「さて、狩場を見てみるか」
俺は探知を使う。変わったところは何もない。
やがて日が昇り、外はすっかり明るくなった。
鳥たちが活動を開始したらしい。鳴き声がここまで聞こえてくる…。
ん!?
このあたり、こんなにうるさかったっけ?
強化された聴覚が拾ったのは、前世でもおなじみだった鳥の声。そう、あの黒い鳥だ。
意識を集中してみたら、すごい数が群れてた。前世紀の名作ホラー映画を連想しちゃうよ。
家、親父もおふくろもその手の映画が好きで、DVDが揃ってた。うん、レンタルじゃなく、買ってたんだ。
で、小学校に入った頃だったかな、見たかったら観ていいよって許可が出て、俺も見るようになったんだ。
子ども心に思ったね、数の力ってすごいなぁって。鳥とかネズミとか蟻とか、たかられたら終わりですぜ。いやいやマジで。
で、子どもの頭で考えたわけよ。どんなヒーローなら切り抜けられるかなって。
その時の結論は、ロボットじゃないと無理じゃね? だった。
根拠は単純だったね。人間じゃ、鳥の爪やクチバシ、ネズミの歯、蟻の大あごで怪我しちゃうから。
生身の人間は全部脱落。だって、トンデモなスーパーブローに耐えるボクサーも、一子相伝の暗殺拳の使い手も、Zな戦士たちも、全身をずっと固くし続けるのは無理だもん。
今の知識だとさ、自然系の悪魔の実の能力者も何とかなるんじゃね? って思うな。
ついでに言うと、今の俺は大丈夫。たかられても悪食で全部食えるし、能力者の真似もできるから。
おっと、アホなこと考えてるうちに、カラスがとんでもないことしてやがった。
集団で手当たり次第に生き物を襲ってるよ。
あんなことされたら、このあたりの生態系が根本から変わっちゃうぞ!




