133.俺、単細胞と言われたら否定できないかも
「おっ。元の大きさに戻ったな」
シルフの声が耳に届き、俺は冷静さを取り戻した。
そうか、俺、元通りになれた…のか…?
おお! 不調だった身体がウソみたいに治ってる!
てことは、分裂した片割れ――俺より明らかにデカいはずだけど――が、頭痛やダルさの原因だったわけか。
しかし、シルフって、マナイーターには驚いたのに、俺の変化にはほとんど動じないんだな。
精霊の価値判断基準って、いったいどうなってるんだろう?
俺にはちょっと想像がつかないよ。
さて、俺の片割れはどうなってる?
そうそう、スライムの片割れと言えば、こことは別の世界じゃ、超おマヌケな展開に陥ってたな。
いや、俺がこの世界に来て間もない頃の話なんだが、創造主が突発的に世界を一つ創ったんだよ。
そこでは、俺とは別種のスライムに転生した男性が、分裂した片割れと不毛な無限ループを繰り返してるんだ。
俺的には「バカじゃねーの」としか思えないんだが、創造主は結構気に入ってるらしい。
それじゃ、改めて、片割れの様子を見てみよう。
「あ゛」
「ほう」
俺は言葉にならない声を発し、シルフは少しワクワクしてる感じの声を出す。
目の前で繰り広げられてるのは、理科の教科書でよく見るアレ。
受精卵の分裂っぽい光景です。
縦に二分割。次は四分割。
そんな感じで細胞分裂が進んでます。
これが何かのタマゴだったら、俺、変な声は出しませんよ?
問題は、これが元は俺の身体の一部だったということです。
はい。俺の理解をはるかに超えちゃってます。
まず、アメーバーが増えるみたいに片割れが俺と分裂したんなら、俺は単細胞生物ってことになる。
でも、こう考えるのは、かなり無理がある
なぜなら、俺はユニークモンスター。当然、繁殖はしないはずだ。
さらに、大きさが違いすぎる。俺は3倍ほどデカくなってたから、体積は27倍。つまり、片割れの体積は俺の26倍あるんだ。
したがって、この線は薄いと言えるだろう。
じゃあ俺が産卵したのかと言われると、これも同じ理由で可能性は低い。
あ…、でも、俺が別種のモンスターのタマゴを産んだと考えれば、一応の筋は通るのか…。
いや、殻がないのに陸上で分裂するタマゴなんて、生物としておかしすぎる。
それに、細胞分裂のペースも異常すぎる。
あ……、見てる間に自立できるようになるなら、これもアリか…。
ん? 待てよ。
よく考えたら、細胞分裂を繰り返してるアレは、俺の体調を崩してたモノだよな。片割れかもしれないけど、病因でもある。
自然治癒力だか恒常性だか免疫だかが働いて、それを排出したとも考えられるな。
細胞分裂はどんどん進む。
全体の大きさは変わらないから、細胞は人間の目じゃ見えないレベルになってる。
おかしい。
俺が知ってる限りじゃ、ここまで分裂が進んだら、生き物っぽさが見えてくるはずだ。
脊椎動物なら稚魚をデフォルメしたような姿に、そうじゃなければ孵化時の姿をデフォルメしたような姿に変わるはずなんだ。
でも、俺たちが見てるアレは、少しだけ重力に負けた水風船のような形を維持してる。
ひょっとしたら……、生物じゃない…のか…?




