119.俺、四つ葉の魔導書なんて持ってませんよ?
『おう、ダールか? あたいだ。今から行くから待っててくれ』
「?」
プチ満足感に浸ってたところに、知らない相手から念話。
一人称からして女性なんだろうけど、少年っぽさが残る男性の声にも聞こえる。
いったい誰?
「えーっと、どちら様でしょう?」
『あたいだよ、あ・た・い』
…ナニコレ、念話でオレオレ詐欺ですか?
しかも、今からくるって、犯罪に使われた恐れがあるからカードを預かりますとか?
「すみません、あたいと仰られても、心当たりはないのですが」
『そっちになくてもこっちにはあるんだよ』
むう。
声の主、どこからか入手したリストに片っ端から接触を図ってるわけじゃない…のか?
だとしたら…、ストーカー…?
いや、予告してから家に押し掛けるストーカーは、いないよな。
『もうすぐ着くから待ってろ、いいな』
念話は一方的に切れた。
しかも、もうすぐ着く…だと?
なにそれこわい。
などと思っていたら、ハーピーたちが全員ホールに集まってきた。
これは俺を出迎えたときに見たきりの光景。しかも、全員少し緊張気味だ。
いったい何が始まるんです?
「おいマリュー、いったい何の騒ぎだ?」
マリューが答えようとしたとき、ホールに一陣の風が吹いた!
ハーピーたちの緊張が高まる!
風がホールの中央で渦を巻く!
マジで何事?
「!?」
渦の中に、背の高いお姉さんが立ってる!
体つきは格闘系。でも、出るところは出てて、くびれるところはくびれてる。
例えるなら、太正時代の歌劇団の男役だな。肌は透き通るように白くて髪は緑だけど。
風が治まると、ハーピーたちが跪いた。
お姉さん、貴女、何者なんですか?
「シルフ様、ご無沙汰しております」
「ああ。まあ、そういう堅っ苦しい挨拶はいいぜ」
マリューの言葉にお姉さんが答えた。
な、なんですとぉーーーー!?
こ、このお姉さんが、シ、シ、シルフだとぉーーーー!?
俺は改めてお姉さん――もといシルフを見た。
琉球空手の継承者っぽい外見(肌や髪の色を除く)、背中にはスズメバチっぽい翅がある。
シルフってさ、ソフビ人形ぐらいのサイズの少女か幼女で、スレンダーで、トンボっぽい翅をもってるんじゃなかったっけ…?
Wikiにも「ほっそりした少女」って書いてあった記憶があるんですけど?
俺の頭の中に、よその世界で使い魔が生息する森の泉に棲んでいるマッチョなウンディーネが浮かんだ。
ああ。ここはそーゆー世界だったな。
ウンディーネが許容範囲だったから完っ全に油断してたよ…。
「ん!? おいダール、お前、今、あたいに失礼なこと考えてなかったか?」
シルフがジト目で俺を見た。背後には○王色の覇○がにじみ出てる!
なぜシルフが○気、しかも覇○色を? などと考えている場合じゃない!
俺、全力で否定する。
うん。こーゆーのは姿勢が大事なんだ。
俺、少し前にも同じようなことをやらかしたよね…。