1.俺、転生に成功する
ぷるぷる。
ポヨン。ポヨン。
うん、確かに俺、スライムになってるな。
会社帰りに背中に衝撃と熱を感じた俺は、咄嗟に小説の真似をしてみた。
そう、主人公が刺されて、気が付いたらスライムに転生してたやつ。
誰かを庇ったわけじゃないし、魔法使いになれない身体だったけど、とにかく転生はできた。
それじゃ、能力を確認しておこう。
まずは五感からだ。
目は…見えるな。っていうか、見えすぎるな。自分が草原にいて、辺りには何もいなくて、空に鳥が飛んでるのが見える。
うん。前後左右上下、全方向見えてるんだ。コレ、便利すぎじゃね?
音と匂いも同じだ。
草の青臭い味が分かる。触れてることも、当然わかる。
プルプルしながら転がってみたら、全身くまなく五感が揃ってた。ついでに、目が回らないこともわかった。
そしてもう一つ。
草のサイズが地球と同じなら、俺は直径50センチぐらいのようだ。
次は運動能力だな。
準備運動のラジオ体操第一から。
両腕を上げて、背伸びの運動ー。
にょいーーーーん。
いやいや、ちょっと伸びすぎじゃね?
腕のつもりで上げた俺の身体、ゴム人間とかモチ人間と同じぐらい伸びてるんですけど…。
ついでに、自分は青いスライムだってわかった。うん、俺、雑魚っぽいです。
ラジオ体操は終わったけど、身体があったまった様子はない。
俺の身体、準備運動は要らないみたいだ。
それじゃ、とりあえず走ってみよう。
遠くに森が見えたから、そこまでダーッシュ!
ひゅん!
おわっ!?
俺の身体は適度に硬くなり、風を切って転がった!
す、ストップーーーッ!
あっという間に森に着いた。
ナニコレ、めっちゃ速くね?
しかも、全然バテてない。
スライムって、実は結構すごい…?
……。
…いや、違うな。
スライムは雑魚モンスターの代名詞。
全方向警戒できて、逃げ足が速くなきゃ、生き残れないだろJK。
次は、力を知っておこう。
俺は力を込めて、手ごろな木を殴ってみた。
「必殺! 正拳突き!」
バキィッ!!
え゛!?
自分が喋れたことに驚いた。言葉さえ通じれば、俺は会話できる模様。
そして、木が砕け散ったのにはもっと驚いた。
今殴った木、俺が隠れられるほど太かったんですけど…。
まさか…、スライムって、マジすごい…?
試しに木に巻き付き、締めてみる。
ミシミシ、バキッ!
…切れたよ。
じゃ、自分の5倍ぐらいの岩を持ち上げて…。
ひょい。
…上がったよ。
ブンッ!
バキバキバキ…。
…投げたら遠くまで飛んだよ。どこまで行ったかわかんないよ…。
うはっ! スライム、マジTUEEEE!
ズンッ! ズンッ!
ひゃっほいしてたら、地面から振動が…。
発生源は、岩を投げた方向。しかも、だんだん近づいてるぞ。
うーーーーむ。嫌な予感しかしない…。
…バキバキバキッ!
げっ! あ、あれは…。
森の奥から、赤銅色の超巨大熊!!
四つん這いな状態で高さ5メートル!!
大木をへし折りながら、こっちにやってくる!!
もしかして…俺が投げた岩が当たったとか…?
「GAWOOOOOOOO!」
やべっ! めっちゃ怒ってる!
逃げようと思ったが、時すでに遅し。
熊は目の前まで来ていた!
熊が前足を振る!
風を切って俺に迫る!
反射で目を閉じた!
…俺、終わったな。
短いスライム生だったな。
二度目の転生は…無理だろうなぁ。
これだけ考えてるってことは、思考が加速してるんだな…。
ビュン。
ぽよん。
衝撃を感じた。
あれ?
なんともない…。
そーーーっと目を開けた。
熊は不思議そうに右前足を見てる。
もしかして、俺の身体、攻撃を跳ね返した?
熊が左前足を振る。
今度はしっかり見届けてやる!
ビュン。
ぽよん。
俺の身体は少しだけたわみ、熊の一撃をはじいてた。
…当たってもどうということはないなら、戦えるんじゃね?
俺は戦うことにした。
落ち着いて熊を観察する。
攻撃は大振り。小回りは苦手。巨体を生かしたパワーファイターだ。
攻撃を避けながら考える。
さて、どうやって攻撃したものか…。
まずは、ダッシュの要領で体当たり。イメージはボクシングのアッパーだ。
速さを生かして潜り込み、喉元に一撃をくらわせた。
熊はよろけたけど倒れない。デカいだけに丈夫だ。
体当たりでダメなら、打撃じゃ倒せないってことだな。
「GUWOOOOOOOO!」
熊は俺から離れ、口を少し開いて睨んできた。
ん? 口の中に…炎!?
ゴウッ!
マジかよ!? この世界って、熊が火球を吐くのかよ!!
足が止まった俺を、火球が直撃!
……。
…したけどなんともないな。
青いスライムは水系で、炎無効なのかな?
それを考えるのは後でいい。
それよりも、だ。
熊は無声で火球を吐いた。魔法なら、無詠唱ってことだ。てことは、念じたら魔法的なことができる?
よし、ダメ元でやってみよう。声が出せるから、普通に詠唱して…。
「黄昏よりも昏きもの、血の流れより(以下略)」
…なんか、魔力っぽいものが集まってきたんですけど…。
これ、マジでできちゃうんじゃね?
おーーーし、行ったれーーーーっ!
「熊破斬!」
どごーーーーーーーーーーん!!
……。
…出たよ。
出ちゃったよ。
でっかい熊、跡形もなく消し飛んだよ。
しかも、でっかいクレーターまで作っちゃったよ。
これ、誰かに見られてたら、絶対面倒なことになるよな…。
俺は体を伸ばし、あたりを見た。うん、誰もいないな。
それじゃ、誰か来る前に移動しよう。
厄介ごとはゴメンだぜ。