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シキのある世界  作者: 蓮井シバ
8/9

新人戦・歩の本気



「強化シキ【獣化】またせたなぁ。これが全力、だ!」



 瞬間、歩の姿が消える様に加速する。自分の体であるはずの歩だったが、その速度はシンがさっき全力で放ったクナイにも見劣りしない。ソーマも辛うじて反応したが、さっきと同様、否、さっきよりも質量が増えた分勢いよく吹き飛ぶ。


『なるほど。ここまでとは、な!』


 ソーマが立ち上がり少し喋るが、そこに歩が再び飛び込み言葉が途切れる。歩の乱撃をソーマは六本の腕で綺麗にさばいている。歩の攻撃は防御すれば反動で手が大きくのけぞるほどだが、ソーマはその隙を埋める手が余分にある。


「ったく。さっさと突っ込みやがって。【IMAP】」


 シンは愚痴を吐きながらも、固有シキを発動させて戦場を見る。シンの能力は視界を共有したり望遠にしたりするもで、直接的な攻撃力はないが……


 シンは俯瞰するように周りを見渡すと、ソーマに向かって、二本のクナイを放つ。歩の体で隠れるようにして飛来してきたクナイは、狙い通りソーマの心臓と顔へと飛ぶが、ギリギリでソーマが切り飛ばしクナイは明後日の方向に飛んでいく。


 しかし……


「ぐあっ!」


 運悪く、切り飛ばした方向にはアスラ軍の兵が背を向けていて、碌な反応もできずにクナイをもらってしまう。


『ちっ!』


 事故とはいえ味方を攻撃してしまいソーマは軽く舌打ちをするが、味方を気に掛ける余裕もないため意識はいまだ歩に向いている。



『……うっとおしい!』



 近接戦の歩はすさまじく、ソーマに反撃の余地を与えない。そして、時々やってくるクナイも十分致命傷になりかねない場所ばかりを狙ってくるため、無視することができず、徐々にソーマを押していった。


 しかし戦闘狂のソーマは、その性格からか自分を押すほどの実力を持つものとの対峙は望んでいることだった。それなのに彼らの攻撃をうっとおしく思っているのはもっと別の原因があるからだ。その原因とは……


『ああ!何で俺がはじいたクナイが味方を攻撃してんだよ!』


 シンのクナイによる二次被害である。


 シンが放つクナイは確かな威力を持ってソーマへ飛んでいく。流石のソーマでも歩の攻撃をしのぎながらでは、はじく方向を定めることもでず、自分に当たらないようにするのに必死である。すると、はじいたクナイの先には絶対自分の味方がいて、回避もできずに突き刺さる。それが幾度となく続き、試しにはじかないで避けてみても、後ろにいた味方にあたってしまう。


『シン!お前は!お前のシキは!』


「……教えるわけがないだろう」


 ソーマは味方を傷つけることが分かっていながらも、クナイをはじかなければ自分がやられてしまうため、結局ははじいてしまう。


「はっ!まさかそんなことをするとはな!わしも分からんかったわ!」


 歩は雄たけびのように叫びながら気合を入れなおすと、さらに攻撃の回数を増やしていく。


『くっそおーー!!俺だって負ける訳には、いかないんだよ!』

 ソーマも共鳴するように声を上げると、半分怒りのようなやる気も上乗せして、力を高めていく。


「……そら!」


 二人の共鳴に波長を合わせようともせず、シンは最初の場所から、淡々とクナイを操っていく。放たれたクナイはやはり全てはじかれるが、はじいた先では他のアスラ軍を襲う。


「……まあ、上々だな」


 シンは誰にも聞こえないようにそういうと、クナイをすべて回収し、アイテムボックスへと戻す。シンは再び楯を手に取ると、発動していた【IMAP】をさらに強めて……技として放つ。


「視界共有」


『うわ!』


 視界共有は【IMAP】の効果の一つである。最終試験の時にリョウとミラが活用していたもので、慣れたものが使うと死角がなくなるとても有用な力である。しかし、慣れていない物が使った場合、その力はただの足かせとなる。


「許可をとってない相手だと一瞬しか共有することはできないが……今回はそれで十分だろ?歩」


 シンは聞こえてないはずの歩に向かってそんなことを呟く。歩はいきなり体制を崩したソーマを抑え込み、校則札で拘束しようとしている。


 シンも近付き一緒に拘束する。拘束札で拘束されたものはシキを使う事を禁止され、使えば強制的に除外されるため、大人しく従うしかない。


「さて、これで大将は抑えた。歩、後衛の場所までこいつを運んでいくからお前は援護してくれ」


「了解じゃ」


 シンはそういって拘束している紐に自分のシキを通すと、紐を浮かす副次効果として強制的にソーマを立たせ自分の背中に括り付けると、そのまま後衛に向かって走り始める。


「ほほー。これがニンのシキか。便利じゃな。わしはハクのシキかしか使えないからの。羨ましい限りじゃ」


「そうか。で、敵はどうだ?」


「大丈夫じゃ、味方さん達と必死に戦って追って、他を見る余裕はなさそうじゃな。大分混戦しとるようじゃの」


 二人は少し大きく回るようにして敵の視界に入らないように後衛へと走る。大分拮抗しているのか、敵がこちらに来る素振りさえ見せない。


『うちの部下も優秀だ。そんな簡単に負けないと思うがな』


「それでもお前よりも強い奴はいないだろ}


『まあな。ただお前達だってそれは一緒だろ?』


「さあ、少なくとも俺より強い奴はあと二人いるけどな」


『そうか。だったら……』


 ソーマはそういうと深く深呼吸をして、もう一度大きく息を吸う。その直後。


『撤退しろ! われは敗れた!! 本軍へ戻れー!』


 シンの背中からシキも使わずに大声で叫ぶ。その声は無事アスラ軍に届いたようで、混戦した場所からたくさんの煙が見える。


「くそ、煙幕か!」


 後方部隊が風を作り煙幕を振り払う頃にはアスラ軍の姿はなくなっている。深手を追っていた者もいたはずなのだが、すさまじい早さである。


「まさか、あそこまで大声が出るとはのう。シキは使えないはずじゃろ?」


『あの程度はシキを使うまでもない』


 ソーマは背中でにやりと笑った。




 結局アスラ軍に逃げられたシン達は、一度集まって、報告会を行う。


「過ぎたことはしょうがない。それより、戦ってみてどうだった?隊長たちから教えてくれ」


「わしは正真正銘全力を出し切ってやっとじゃったのう。今日はもうまともに戦えん」


「私達味は方の援護として防御しながら動き回っていましたが、一人一人の攻撃がとても重く楯が二度ほど破壊されました。まあ、シキで作っているのですぐに治りますがその分シキの消費が激しいです」


「私も同じ意見だ。奥の手まで使わされて最悪だな」


「ジェラ、その前にその姿について報告しろ。何が起きた?」


 常に生意気だった偉そうなデブ、ジェラ=パルールは、なぜか小柄なショタに様変わりしていた。体の全てのラインが細くなり、パツパツだった隊服はだぼだぼとしたルーズファッションの様になっている。顔も非常に整っていて、少し釣り目気味の目はその気の強さが顕著に表れている。


「何が起きたも何も、これが私の元々の姿だ。少しやせはしたけどな」


「少しじゃないだろう!完璧に五十キロは落ちている、なにがあればそうなるんだ」


 シンが単純に驚いていることに気分を良くしたのか、ジェラは胸を張って答える。


「はは。あれは私の固有シキ【貯シキ】の影響である。私は自分の体内限定で自らのシキをためることができるのだ!溜める前にどのようなシキとして使うかイメージしておけば、一瞬で実行できるし、何より他の者が長い溜めを必要とするシキも一瞬で発動できる!これが私と貴様らの違いだ!分かったか」


 ジェラは自信満々にそう言ってシンを指さすが、シンは気にした様子もなく「なるほどな」と一言述べただけで、報告会を再開させる。


「貴さ…総隊長、また私を無視するのか!」


「返答しただろ。確かに驚きはしたし有用だとも思ったが、それよりも時間がない。報告の邪魔をするな」


 ジェラを軽く一蹴すると、割り込まれたせいで話を止められた報告を、再開するよう指示を出す。ジェラは不満そうに唸るが重要性を理解してしまっているため、自分の椅子にとぼとぼと戻っていく。


「我々は、白狼の二番隊と協力強いて五名と戦っていました。基本はヒット&アウェイで戦っていましたが、途中で敵が動きを変え、怪我人が二名ほど出ました。今は白狼の六番隊のもとにいます」


「それは聞いた。戦ってみてどうだ?」


「確かに強いというのもそうですが、あの複数ある腕が戦い慣れなくて翻弄されているという表現の方があってると思います。二本であ戦った場合の実力差はあまりないかと」


「そうか。で、なんでお前はそんなびくびく敬語を使っているんだ?別に怪我は付き物だ。誰も責めたりしねーよ」


「は、はい」


 柿本は、最初の自信があった頃の面影はなく、シンの隊の中でもあまりいないほどの畏まった敬語を使いまくっている。自分がいた場所でシンの部下が怪我をしたこともそうだが、それよりも相手の隊長を拘束して連れてきたことに、恐れをなしているようだ。脅した自覚があるのでシンも少々やりすぎたと思っているが、どうせ今回だけなので気にしないことにして割り切る。


「は~い。じゃあ、つぎは僕ですね。僕も柿本さんと同じ場所で戦ってたんで基本は同じ印象でしたけど、六本手がついてる人と四本手がついている人は、実力も全然違いましたぁ。六本の人はシキの腕も身のこなしも四本の人より高かったです。けど、四本の人の方が剣技だけは高かったです」


「そうか。ありがとう、参考になる。じゃあ、次にリョウ、ミラ、メリッサ、どうだった」


「前衛から漏れた敵たちはみんな四本とかだった。多分さっき砕方さんが言ったように、六本の方が実力がある。だから前衛の相手に六本の人が集中してたんだと思う。四本の方は俺とミラの連携で何とかなるレベルだった」


「私はリョウと同じ」


「では、わたくしが。途中で彼らの一人を封じ込めたのですけど、私の防御を突破するのに一分ほどかかってましたわ。パワー確かに強いですけど彼らのパワーは筋力だけですわ」


「なるほど。やっぱりあのシキは身体能力を上げるだけで、シキの力自体が上がる訳じゃないんだな」


「どういう事だ?そいつのシキにそんな事を判断する力ああるというのか?」


 はたからは何でその回答になるのか理解ができない(あたりまえだが)の様で思わずジェラは口を挟む。


「うるさいですわよちび。私は今総隊長様にご報告しておりますの。黙っていてください」


 敵意むき出しのメリッサは虫けらを見るような目でジェラを見る。元々長身なメリッサは小柄なジェラを物理的にも見下している。


「ただの兵士のくせに私にたてつく気か貴様は!」


「うるさいジェラ。話が進まない。メリッサも」


「ぐっっ」


「すいません総隊長様」


「はあ。一応今は味方同士なんだ。仲良くとまではいかなくても争うなよ」


 シンはため息交じりにぼやく。あからさまに適当な扱いをしているシンに、ジェラは青筋を浮かべるが、逆らうことができず戻っていく。


(何度も同じようなやり取りをしているのに学習しない奴だな。)


「ジェラ、メリッサのシキで作られる範囲型防御シキは、通常の攻撃には高い防御力を誇るが、シキによる攻撃には弱いんだ。だから自分で定めた強度に対して壊された時間で大体の強さを予測できる」


「ふんっ」


 ジェラはシンの言葉にすねるようにそっぽを向く。シンは無視して続ける。


「さっき他の隊の報告も来たが敵はアスラ隊以外は全員本陣を守護しているらしい。遊撃と攻撃隊がすべて敵の本陣近くで戦闘してるから俺たちは二手に分かれてその援護へと向かう」


「「了解!!」」


「隊長たちもそれでいいな?」


「「了解」」


 全員が納得すると、シンは二手に分かれる部隊の編成を始める。基本はさっき別れた前衛と後衛だが、

隊長たちをそこに適当に振り分ける。更に……


「そして、俺と歩、ジェラとキキと広人はソーマを連れて本陣に戻る」


 その言葉にジェラの顔は怒りに染まる。そのセリフは戦線離脱をつげられているに他ならないからだ。


「……怪我人や、捕虜を本陣に移すのは常識だから理解ができる。だが、万が一のために護衛が必要なのも。ただ、なぜ私なのだ。私は先の戦いでも十分活躍したし、まだ戦えるのだが?」


 ジェラは今にも噛みつきそうな目でシンを睨む


「十分活躍した。ねえ」


「なんだ!あれではたらんと言うのか!」


 声をあれげ武器を手に取りシンを睨む。最初にあったときとは態度が逆転し、まさに一触即発とした雰囲気だ。


「違ぇ。最後まで聞け。俺は自分でもわかってんじゃねーかって言おうとしたんだよ。話を遮りやがって。ともかく、頑張ったんだろ?それは俺も分かってる。お前はさっき言った【貯シキ】で溜めたほとんどのシキを使ってまで戦い抜いた。それで十分だろ。実は通信機で聞いてみたんだが、うちの部下がお前に助けられたって口々に言ってた。これでも感謝してるんだ、大人しく一旦下がれ。そして、復活したらまた存分に活躍するといい。違うか?」


 シンは真剣な目を向けて話しかける。ジェラは恥ずかしいのか顔を背け、拳を握りしめながら大人しく聞いていた。


「貴様は……馬鹿にした私にも平等に扱うのか?私だったら、馬鹿にしたやつはフカシキになるまで使いつぶすぞ?」


「馬鹿にされるのは分かっていたしな。これで俺の部下を囮に使ったりしたら、俺もそうしていた所だが、お前はなんだかんだ言ってても守ってくれたからな」


「そうか……では最後に総隊長、それは命令か?」


「ふっ。……ああ、もちろん」


 納得はしたようだが、自分から撤退すると口にするのが嫌なのか、改めて聞き返す。シンは薄く笑うと、優し気な笑みを浮かべて短く答える。


「じゃあ、従うしかないな。なに、怪我人ぐらいなら守ってみせるさ」


 何かが吹っ切れたような表情を浮かべるジェラは、シンに向かってさっきとは違った意味で胸を張る。「任せたぞ」と軽くこたると、今度は隊長全員をみて話し始める。


「そういえば、一日ごとに総隊長を変えるって話だったが、明日はどうするんだ?明日やるややつがいるんならこっちに一緒に来てもらいたいんだが」


 シンの言葉に何人かの隊長が噴き出す。今更そんなことを言うやつはいないだろといった表情だ。そんな中真っ先に口を開いたのは歩だった。

「わしは、元から参加するなんていっとらんからな。当然関係ない」


「私も同じです」


「僕ももういいかなー。総隊長の指示的確だし実力も確かだしねー」


「私も辞退させていただきます。私なんかじゃあなたのようには務まりませんから」


「ほー。だってよジェラ。お前、明日やるか?」


 さっきまでの見下すような言い方ではない、普通に友人を呼ぶように名前を呼びかける。ジェラは軽く笑うと首を振って答える。


「それを私に言わせようとする時点で総隊長もだいぶねじ曲がった性格してるよ。辞退するに決まってるだろ。こんなにしっかりと実力を示された後じゃやる気もおきんわ」


「はは。じゃあ正式に認めてもらえるって事でいいのかな?」


「ああ、お前は総隊長にふさわしいやつだよ。色々あったが、宜しく頼む。二条シン総隊長」


「よろしく、ジェラ=パルール中尉」


 こうしてシンは、無事に隊長達から総隊長として認められることができた。


(とりあえずこれで正式に指揮ができるな。八割方計画通りにいってよかったが、唯一の誤算といえば歩だな。あいつは俺の演技が通用しない。まあ、目的が分かりやすいし馬鹿だから扱いやすいが、他の奴とは違って信用を勝ち取るのは難しそうだ。でもまあ、勝てたのはあいつのおかげだし、高望みは禁物か……)

 


 最終的に三手に別れたシン達は、それぞれのグループを書く隊長たちに任せて行動する。シン達の班は来た道を行きの半分くらいの速度で進む。


「本陣についたらとりあえずジェラと歩はシキを回復してもらえよ。まあ、多分今日の戦争に復活するのは無理だろうけど、明日のために全快にしてもらっておけ」


「「了解」」


「で、キキと広人も回復してもらえ、退海にできるやつがいるらしいから。まあ、そんな傷で済んでよかったな」


「ですね」


「まったくだな」


 シン達の会話に歩とジェラは目を見開く。背負っているので顔は見えないがソーマも驚いたのか一瞬体が動く。


「な、なあシン。わしはどう見ても腕が取れてるように見えるんじゃが」


「もう一人の方も体に巨大な刃傷がある様にしか見えないんだが……」


 その言葉に白狼の三人は少しとぼけた顔になり、吹き出してしまう。


「そうだね。普通なら重症だ」


「ああーだめだ。完璧に感覚くるってたね」


「俺も一瞬反応できなかった。そうだよなこれは普通じゃないよな」


「仲間内だけで解決するでない! こちらはいまだに意味が分からないんだ!」


 ジェラは若干イラついて問い詰める。シンは軽く謝りながら、この一週間の事を説明する。


「俺たち、今から八日前に卒業したのは知ってるよな?」


「もちろん」


「ほぇー、知らんかったわ」


 歩(と書いて馬鹿)は放っておいて話を進める。


「その次の日から一週間弱、俺たちは現役の白狼と強化合宿やってたんだよ。しかも手加減抜きの戦争を永遠と……」


「「うわあ……」」


 白狼のすさまじさは流石に歩も知っているようで、ジェラと口を合わせて嫌がる。


「まあ、実際ためになったしアドバイスもくれるんだけど、戦争自体は容赦なくて……」


「あの時はもう四肢の一本ぐらいじゃどうってことなかったよね。大体皆なくなってるし」


「そうだったな。俺なんてフカシキになってないのが不思議なほど切り刻まれたしな」


「あったあった。もう何だろうね。仲間の死んでいく様とか血とかとれた四肢とか、眼〇の裏側とか……見慣れちゃったよね」


「分かった!聞いたのが悪かった!だからそれ以上はもう言わないでくれ!」


 目のハイライトを消してどんどん下を向きながら話す彼らを見て、思わずジェラは止めに入る。一瞬「白狼との強化合宿なんて羨ましい!」と思ったジェラだが、そんな気持ちはすぐどこかへ飛んでいった。


「まあ、そんなことがあったからこそ、逆にこれくらいの怪我じゃ戦意喪失しなくなったし、こうなっても戦えるように訓練したしな」


「ああ……けどまあ、この話はもうやめよう。本部が見えてきた」


 シンがそう言いくるめ強制的に話を終わらせると、六人は零番隊に連れられて本部の中へと入っていった。






「総隊長、お帰りなさい。……これからはここで指揮を執るの?」


「ああ、夢維咲。伝達ありがとうな。ここからはいつもと同じ体制でやる。零番隊と遊撃隊、後は固定砲台を頼めるか?」


「了解」


 怪我人と捕虜を運んだあと、一直線で指令室へ向かうと、アリサと今後の役割を決める。まだ戦っている者が大勢いるのだ。総隊長に休みなどはない。


 イザナ軍の本部は崖の後ろ手にあり、指令室のみが崖の上に点在している。理由は零番隊の千谷と、シンの能力をフルに使うようにするためだ。


「そうだ。千谷と退海の調子はどうだった?」


「問題なかったようです。切り札としていつでも発動できます。ですが……」


「ああ、千谷をそこに常備したおかげで他が見れなくなっちまったか。悪かったな。まあ、俺もついたし大丈夫だろ」


 シンはそういうと指令室のパネルを操作して天上を壁を取り払う。そのせいで晴天の下、テーブルや機材が野ざらしになるが、シンのシキを使うためには必要な措置だ。


「夢維咲、こっちに」


「はい」


 アリサがシンの視界に入ると、シンは【IMAP】を発動して視界を共有する。


「夢維咲、交戦地の位置はあそこだよな」


「はい。相手は薄く阻害のシキをかけていますが総隊長のシキなら透視できます」


「了解」


 二人は話し合いながら【IMAP】を交戦地へ向ける。いまだに何もないように見えるがシンはアリサを信じて、そのままズームと透視を発動させると、無事に敵本陣より一〇〇メートル離れたところで交戦している姿を発見する。


「よし!こちら総隊長。今攻撃隊を補足した。ここからは随時指揮する。聞き漏らすなよ!」


『『了解』』


 通信機越しに返事が聞こえる。その中には聞き覚えのある声も混じっている。


「無事合流できたようだな!ではまず白狼後衛部隊!お前らはブルートーチの後衛に混ざって遠距離攻撃と味方の援護をしろ。ミラとリョウだけはブルートーチの前衛に合流して戦え!ただ今回はあくまであちらが主体だ。お前たちなら合わせられるだろ?」


『『了解!』』


「白狼近接部隊!お前らは遊撃に合流しろ!そちらの指揮は夢維咲に任せてある」


『『了解』』


「よし!いくぞお前ら!イザナの意地を見せてやれ!」


『『おおーーー!!』』


 てきぱきと指示の内容を纏めていく。元々シンのシキは遠距離からの指示にこそ真価が発揮される。白狼部隊とひたすられんしゅうした八日間。その成果を発揮する日が、ようやくやって来た。



誤字脱字指摘なんでもお願いします

良ければ感想をくれると励みになりますペコリ(o_ _)o))

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