表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シキのある世界  作者: 蓮井シバ
7/9

新人戦・インド戦開始!!

 外にはグリーンリング隊、新撰隊が既に準備を終えて待機している。シン達も出て隊列を組んでる途中で退海と、ブルートーチ、さらに五分ほど遅れて雑木団が経ってくる。隊長達は全員前に並び、他の団員たちの視線を一挙に集めている。


 シンはその中で、中心に立ち、全員が静かにこちらを見ていることを確認すると一歩前に出る。持っていた楯を地面に叩きつけ威圧するように音を出すと、そのままシキを併用して大声で口上を始める。


「私は今回、総隊長を務めることになった白狼軍・二条シン少尉である! 新人戦という事で今回が最初で最後であろう合同軍だが、それでもやることは変わらない! ただ勝利すること! それだけだ!!」


 大地が震えるほどの声が彼らを震わせる。反抗的な目をしていた者たちもその振動に驚き、シンの口上に耳を傾けてしまう。


 さっきの会議とは全く違う口調、威圧に隊長たちは全くついていけずに面食らっている。


「力を込めろ! 覚悟を決めろ! お前らはイザナを代表する者たちだ! 敗北は許されない! 引き分けも許されない! 勝利! それこそがわれらが求める者である! 分かったな!」


「「お、おお!」」


「声が小さい!分かったな!!」


「「「「「おおーー!!!」」」」」


「よし!お前ら!作戦は聞いたな!」


「「「「「おおーー!!!」」」」」


「やり遂げられるな?」


「「「「「おおーー!!!」」」」」


「イザナを代表する軍の者たちよ!! 勝利をわれらでつかみ取るぞ!!」


「「「「「おおーー!!!」」」」」


 いつの間にか軍の垣根を越えて声をそろえて叫ぶ者たちを、歩とシンを除く隊長たちは呆然と見ている。衝撃で動けない隊長たちをしり目に歩はシンに話しかける。


「やっぱり本性隠していやがったな。楽しみが増えたのう。なあ、シン少尉や。今度わしと勝負してみんか?」


「これは統括するための口調であって本性とは程遠い。そして、戦場では俺は総隊長だ。統一しろ。あと、戦争中はお前と戦ってる暇なんてない。仕事をしろ」


「は、ははは! おもろいなぁ総隊長! じゃったらこんな戦争とっとと終わらせちまうとしよう」


 「終わったら相手をしてやる」ともとれる返答に心を沸かせる歩はこれ以上にないくらいボルテージが上がっている。シンは歩と戦う気なんてないのだが、士気を高めるのにちょうどいいと、どちらともとれる発言をしたのだ。


「き、貴様。騙しておったのか?」


「今いったはずだ。戦争中は命令を通しやすくするためにこの口調に変えてると。そしてこれも言ったが、ここでは総隊長で統一しろ。これは命令だ」


「ちっ。後で覚えておれよ」


 ジェラは歯噛みしながら自分の部隊の方へと消えていく。他の人も我に返ったようで自分の隊に最終確認をしに向かう。

(やっぱりあいつは本性を隠していた。あれは本物だ!大人しく従うしかない。それに、彼なら任せても、問題ないはずだ。大丈夫、大丈夫…)


 柿本は案の定シンの策に溺れ、シキの実力は全く見ていないのにも関わらず、シンへの考えを改める。

 柿本健治、隊長を任されているが彼の肝はとても小さくとても心配性であった……



 戦争まであと五分。



 無事に全員配置が終わり、それぞれの通信機を繋げる。通信機は自分の部隊と本部、そして総隊長とつながっていて、総隊長と本部は、全ての通信を聞くことができる。


「さて、今回の相手はあのアスラ軍がいるとされているインドだ。新人戦では絶対ではないが、来るとしたら戦うのは俺たちという事になる。相手の情報が分かってるというのはありがたいことだが、それでもアスラが出てきたら、俺らは防戦となるだろう」


 シンは走りながら通信機で自分の隊に話しかける。そこには作戦通り各隊長達の姿もある。


「なあ、総隊長。そのアスラ軍ってなんじゃ?」


 能天気な口調で歩が聞いてくる。公式戦などの記録が残ってるはずなのでアスラぐらいは知っててもいいはずだが、歩は馬鹿ので見ていなかったのだろう。


「アスラ軍。インドで一番強い部隊で、全員が【鬼人】という特殊なシキを使う。【鬼人】は人によって差があるらしいが、簡単に言うと、強化シキの上位版+腕が増える、らしい」


「げ! なんじゃよ! 腕が増えるって聞いたことねーぞ」


「それはお前の学習不足だ。公式戦なっどの映像で見れる。奴らはその増えた腕も自在に動かして武器を扱う。一人で二人、もしくはそれ以上の攻撃を浴びせ続けられる厄介な奴らだ」


「ふん。腕が増えたところで大して変わらぬだろうに」


「ジェラ、さっきも言っただろ? それと併用して強化シキの上位版を組み合わせたものが【鬼人】だ。一対一じゃまず勝てない」


 ジェラは怒りに身を任せて怒鳴りそうになるが、すんでのところで思いとどまる。現在の総隊長はシンなのだ。逆らえば軍法会議にかけられる可能性だってある。


「ふっ。ジェラは歩よりも頭が切れるぞ」


「はぁ? あんなデブにわしが負けとるって?」


「貴様、我をデブと!」


「頭が切れるって言ったんだよ。体形は関係ないだろ。それにあの体系でも普通についてきてるんだ。あんまり関係しないだろ?」


「んにゃ。あの体系じゃいざという時俊敏に動けるとは思えん。それじゃ仲間を救えんじゃろ」


「どうせ死なないんだし、無理なときは見捨てるのも手だと思うがな」


「そこは無理してでも仲間を助けるべきじゃろが!」


「貴様らいい加減にしろ! 私をなめすぎだ!」


「それで自分が死んだら元も子もないだろ!」


「なんじゃと!」


 仲間を見捨てられずに怒られていた昔のシンと全く同じ考えを持つ歩。シンは歩を昔の自分と重ねて口調を荒げる。言い争っているシンと歩、そして馬鹿にされたあげく無視されたジェラ。彼らの雰囲気は味方であるはずなのに最悪である。


「……ああ、了解」


「サンキュウケン。お前らはそのまま敵地に回り込んでええぞ」


 無視をされ続けたジェラは、二人が静かになった事をチャンスと考え、再び啖呵を切ろうと思ったら黙っていた二人がそんなことを口にする。どうやらグリーンリング軍からの通信が来たようだ。


「予想通りだ。相手は二十名、こちらの遊撃に気づいているようだが、まっすぐに本陣に向かっている。敵はアスラ隊だ。各自、最低二名以上でお互いを守って戦え。隊長たちは…ジェラとエン、鋼と健治、俺と歩で組め」


「「了解」」


 隊長たちもここで文句を垂れるほど餓鬼ではない。不満はあるだろうが、全員しっかりと返事をする。シンが停止の合図を送り、彼らはフィールドのほぼ中央で停止する。索敵の情報だと、右手の林から、こちらへ向かってくるはずだ。




「……【IMAP】」


 シンは固有シキ、を発動し、望遠機能でその林付近をみる。すると、林の隙間から赤い何かがうごめいているのが分かる。


「固有シキで、索敵をした。林の中にそれらしきものが見える。後二十秒ほどで林を抜ける……いや、立ち止まった! 敵もこちらに気づいたようだ。……ただ、戻る素振りは見えない。遊撃隊はそのまま回り込んで敵を索敵しながら攻撃隊を援護、防御隊、退海の遠距離シキが最も得意なものは本隊の夢維咲と千谷に指示を仰げ。……敵移動開始、後十秒で林を抜ける。総員、強化シキを最大出力で纏え!」


 索敵の様子を報告し続けながら他の隊にも指示をだす。シン達もその中で二人組となり敵を迎え撃つために、シキを使い始める。


 シンは強化シキを纏うと楯を構え、クナイを二本だけ浮遊させる。歩の方は鉤爪の様な武器を両手にはめ、シンの倍はありそうなほどの強化シキを放つ。


「その様子じゃと、わしが前じゃな」


「お前のその武器を見る限り後ろなんてできないだろ」


「はは、そうじゃな。そういえば総隊長、わしのこのシキを見ればわかると思うが、どうやら敵とわしのシキは似通ったものがある。じゃから、戦闘では」


「分かった。お前の指示通りにしよう。まあ大方サポートに徹しろとかそんな感じだろ」


「話が早くて助かるのう。じゃあ、そういう事で」


 歩は笑いながら軽く屈伸すると、四つん這いになりながらより一層強化シキを増加しすると――



「よろしく頼むぞ。今回限りの相棒」



 落ち着いた声音でそう言った。





 アスラ。敵は、まさにそう形容するのが妥当な姿をしていた。全員が腕を四本、ないし六本あり、その手にはすべて何かしらの武器を持っている。先ほどシンが捉えた赤色はどうやら彼らの隊服だったようだ。隠密性など全くないその隊服は、燃えるような赤に幾本かの黒いラインが入っただけで、とてもシンプルであった。


「遠距離隊! 撃てー!」


 途端に鳴り響く轟音、シン達がアスラ隊に向けて放った遠距離シキだ。属性は水で統一されている。

 だが、その攻撃はアスラ隊にかすることもなくむなしく地面を濡らしていく。


「前衛、突撃!」


 掛け声とともに前衛部隊が飛び出す。今回前衛は隊長達と、一、二、五番隊が務める。零番隊のエース二人は三、四、六番隊の守備をしている。


 前衛部隊が進撃すると、アスラ隊は散らばり広がる。やはり彼らは各個撃破を作戦としているようだ。


「相手の作戦に乗る!死なないように立ちまわりながら相手をいなせ!援護隊!しくんなよ」


「「了解!」」


 そういいながらシンと歩は、中央にいた敵に肉薄し、振り下ろされた剣を受け止める。


『おお? 中々の力。俺はアスラ軍リーダー・ソーマ=ヤクト! お前らは?』


「二条シン」


「虎口歩」


『OK、シン、アユム。勝負!』


 フィールド特殊シキ【言語理解】


 このフィールドを覆ってるシキが有する能力の一つ。そのシキのおかげで、シン達は他国とも会話をすることができる。昔の戦争ではありえない事だが、今の戦争では死ぬことがないため、お互いが名乗ったり、休戦中の夜は普通に話せるようにこのシキが存在している。



 ソーマはシン達が剣を弾き、少し間をとったことを確認すると、【鬼人】を発動して体をさらに強化する。六本ある手には赤黒い刺青の様なものが走り、体からは炎のようにシキが湧き出ている。


 ソーマがシン達に飛び込もうとした直前、歩が一歩先にソーマに迫り、その鉤爪で喉元を狙う。

 

 歩は戦闘が始まる直前から急に静かになり、纏う雰囲気も落ち着いた冷静なものへと変貌してきた。どうやら実力だけは言っていた通り本物らしい。

 

 ソーマは手甲を付けてる腕で受け止めると、覆いかぶさるようにその上部に生えた手から剣を逆手に構え突き刺す、が寸前のところでシンが飛ばした楯が防ぎ、歩は地べたを這うようにしてソーマの後ろへ回り込む。

 シンはそれに合わせて楯を押し込みわずかにソーマの体の軸を後ろにずらすと、二本のクナイで左右から同時に攻撃する。ソーマは後ろにいった軸に逆らわず、あえてさらに加速させて大道芸のようにバク転をすると、歩さえ飛び越えて着地する。

 歩は着地した足に回し蹴りを叩きこみ転ばせようとするが、当たった足はびくともしない。驚いた歩はとっさに大きく跳躍すると、シンの隣まで戻る。

 

 ここまでの攻防にかかった時間は五秒にも満たないが、その一瞬でお互いが、その力量を理解する。


「固いし強いし早い。俺の強化シキでも突破ができないほどにな。変換してるシキの量は同じくらいだと思うんだが」


「上位版と言っただろう?おそらく同じシキの量でもあっちの方が強化できるんだ」


「ずりぃ。」


 ソーマを見ながら冷静に分析をする。ソーマの顔はへらへらと笑っており、敵意など微塵にも感じない。


「とりあえず手数を増やす。絶対に前を抜かれるなよ」


「了解、だ!」


 シンは浮遊するクナイを二本から六本に増やし楯を手に持つ。歩はそれを確認するとクナイと一緒にソーマに駆け込む。


 一本目を右手の上腕で叩き落とし、体を回転させるようにして裏拳で二本目のクナイを吹き飛ばす。今度はそのまま跳躍して、迫ってきた三本目のクナイの横を蹴り無効化する。そこで歩が到達し、四つん這いの姿勢のまま鉤爪で足を突き刺そうとする。両足を空中に放り出した直後だった為、下から迫りくる攻撃に対処できないと思われたが、空中で器用に一回転して中腕の二刀で鉤爪を受け止める。

 パワーはソーマが上でさらに体重も乗っているので、歩は押され負けて吹き飛んでしまう。しかし、吹き飛んだ歩と入れ替わるように残った二本と、最初に吹き飛ばされたクナイがソーマの前方と後方から襲う。

 前方から迫る二本はシンがシキをためて放った超速度のクナイで、ソーマは避けられないと判断したのか、手甲をしている下腕二本でガードする。後方のクナイは注意を引くための囮だった為、ソーマに無視されノーガードでぶつかったが、わずかな衝撃を与えただけで、ダメ―ジは入らなかった。しかし前方の二本が当たった衝撃は確かなもので、ソーマを二メートルほど押し込む。

 シンは歩が復活したことを確認し、一度クナイを全て戻すと、今度は楯を飛ばす。ソーマの攻撃は下腕を除いた四本で行われており、歩は飛んだり受け止めたりして必死にさばいている。だが、それでもソーマの手数に圧倒され、途中途中で当たりそうになるが、シンが必死にサポートして、その攻撃を受け止めている。


『強いね君達。全力で戦ってるのに全然勝てないよ』


「ま、だ喋る余裕あるじゃねーかよ!」


 歩は必死にさばきながら返答する。その声はとても余裕があるようには感じられない。


『まあね。でもすごいよ。このままだと君たちの本陣を叩く前にシキがきれちゃう』


 そういいながらソーマの下腕にゆっくりとシキが収束していく。歩は対処に必死で気付いていない。


「させるか!」


 シンはクナイを飛ばし、集まっていたシキの中に入り込む。シキで何かを作る場合、その中に意図しない何かが混ざりこむと、そのシキは霧散してしまうのだ。


『んん~さすが。そううまくはいかないか』


 ソーマはそういうと大きく後退し、歩との距離をとる。


「悪い。全然気づかなかった」


「相手が意識を上に向けるよう誘導してたからな。まあ、今後気を付けろ。っっ! 来るぞ!」


 ソーマは持っていた剣を強化された腕力で投げつけてくる。一本はシンの楯が、もう一本は歩の鉤爪が受け止める。


『アユム、君も全力を出してよ。ここでの戦いを楽しもうじゃないか』


 ソーマは投げつけた分の剣を、ハクシキで作りながら問いかける。その言葉にわずかに顔をゆがめた歩はシンの方を見る。


「……別に気づいてはいたが、そこまでは俺が口だすことじゃないと思っただけだ。お前が作戦を作る日に取っておくと思ってたしな」


「……すまんのう。わしもそのつもりだった。ただ、もうどうでも良くもなった。総隊長、あんたは強い奴じゃ。わしはあんたを認めてる。だから、本気を出す。その代わりといっちゃなんだが、あんたも無理してくれよ?」


 歩は真剣な顔でシンを見る。シンは少しソーマを警戒してみるが、ソーマは待つ事を示すかのように六本の腕を組んでいる。


 正直、こんなに早く信用されるのは予想外だったが、別に悪いことではないのでシンは承諾する。


「はあぁ。了解だ」


「よっしゃ!待たせたなソーマ」


『いいよ。全力で戦ってくれるんなら安いもんさ』


 ソーマはそういって、いつの間にか作り終えていた武器をすべての腕に持っている。四本はさっきと同じ型の剣だが、上腕に持っているのは、新たに作ったであろう真紅の槍だった。


「怖そうな槍を持ってるが、その判断はどうじゃろうな?」


 歩はそういって鉤爪を取り外すと、靴も脱ぎ素足となる。



 再び四つん這いとなった歩は、さっきよりも格段に多いシキを纏い始め、体自体が、若干変化を始める。彼の手と足の爪はどんどん伸びていき、シキが集中して赤黒く変色し始め、犬歯も長くなっている。シキの奔流が耳としっぽのように形作られる。



「強化シキ【獣化】またせたなぁ。これが全力、だ!」


誤字脱字なんでもどうぞ。

 できれば感想などくれると嬉しい限りです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ