最終試験・3
「うまくいったみたいだな。お疲れシン、こちらの被害は1番隊の佐々木だけだ」
「ありがとう。さすがに無傷とはいかなかったか。――佐々木ありがとう。後は俺らで上手くやるから見ててくれよ」
シンはフカシキとなってしまった佐々木に声をかける。フカシキとなった者は結晶の様なシキに囲われ、外界一切を感じることができなくなる。したがってシンのその呟きに意味などはないが、そこは人の心情というものだろう。
「――よし。じゃあこれからの作戦を説明する。今外では二、三番隊が合流して大型シキの構築をしているはずだ。俺たちはそれが完成するまでにここを出てそのまま本陣に攻撃を仕掛ける。本陣の防御フィールドはあっちに任せるにして、まず俺らはこの目の前のを破壊しなくちゃいけないんだが……」
「さすがに骨が折れそうだな、さっきのフィールドより半分は小さくなってるからな。二つ作ってるから倍とまではいかないが、それでもかなり強くなってるのは確かだろう」
「私達も結構消費しちゃったからね~この後の戦闘の事も考えるとどうするのが最適かね」
零番隊の二人からもっともな意見が飛ぶ。何せこの後に控えているのはあちらのもう一人のエースと隊長だ。攻めのこちらのエースも隊長も生き残っているし、他の部隊もほぼ無傷であるが、残ったシキの力を考えると万全とは言い難い。
「あの、隊長」
「ん?どうした木の葉」
「私なら破壊できるかもしれません」
全員が首を捻り考えている中、その沈黙を振り払った少女、青橋 木の葉は提案する。彼女は攻めの副隊長であり、シンガ戦いに参加する際は実質隊長として動いている。背は小さいが実力は申し分なく、身体強化系のシキを得意として自分よりはるかに巨大な得物を扱う。
「お前なら破壊できるだろうがその後の戦闘復帰は怪しいんじゃないか?できればこの人数のまま行きたいんだが」
シンは少し気乗りしない。彼女が提案したのはいわゆる最後の一撃というやつである。そうすれば確かにこの障壁は破壊できるだろう。ただそれは、この場合は木の葉が戦闘不能になるという事で仲間を捨て駒にする作戦、という事になる。
「隊長が優しいことはみんな知っています。でも戦争では時に仲間を捨ててでも進まなくちゃいけないんです……」
「それは分かってる。本当にそれしかないんなら俺は迷わずにその方法をとるよ。ただこれだけ生き残ってるなら他の方法もあると思ってな。考えていただけだ。でも…ないみたいだな」
そこでシンは木の葉を正面に捉え真剣な顔で命令する。
「命令だ青橋 木の葉副隊長。お前の全力のシキを持ってこの邪魔な幕を下ろせ!」
「――っ。了解!」
ある意味の自爆命令。だが木の葉は嫌がりもせず、むしろ嬉しそうに応答する。
「すまない。救護隊はもう呼んであるから心配はしなくて――なんだ!」
凄まじい勢いで膨れ上がる圧力。シンは思わず周りを見渡して何が源となっているのか調べる、が調べるまでもなくそれは判明した。
「まさか自爆をする気だったとはな。おいお前ら固まれ!全員のシールドで覆うぞ!」
言葉通りこの反応は、さっきまで戦っていた濠炎達が自爆を始める予兆であった。自爆には専用の武器が必要となる。さっきのシキの反応は、その武器がシキを吸収し始めた為に濠炎の体から溢れだしたシキだった。
「発動まで二十秒もないぞ集まれ!」
シンは怒鳴って指示を出すが集まったのは零番隊とシン、そして木の葉だけだった。他の二人はその四人を囲うように立っている。
「おい、お前らはや…」
「防御陣!」
二人は指示を聞かずにそのまま防御陣を張る。しかし彼、彼女らの体は外にあり、防御陣は四人を囲っている。
「隊長!あの爆発は全員を覆うシールドでは突破してしまいます。だから俺らが壁となるんで貴方たちは生き残ってください!」
「隊長は早く内側からもシキ入れてくださいよ。温存したい気持ちは分かりますけど隊長も入れてくれないと突破されちまいますよ」
二人がそれぞれ勝手なことを言い始める。確かに濠炎の自爆は全員が入るシールドでは突破されてしまうだろう。緊急事態のせいで冷静な判断力がかけていたシンは短く深呼吸をして心拍を整える。
(ちっ。周りの防御フィールド。俺たちの方まで囲うのは妙だと思ったがここまでが作戦のうちかよ。自爆の被害を広めずに範囲を狭めることで威力を上げるとは、いやらしい真似してくれるじゃねーか)
「くそ!悪い!まともな判断ができてなかった。絶対に勝ってくる!だから……ここは頼む」
いくら死なないとはいえ痛覚が消えるわけではない。彼らは強がっているだけで怖くないはずがなかった。それがわかっているからシンは……仲間を犠牲にすることが嫌なんだ。
「絶対勝ってくださいよ」
「隊長たちなら勝てますよ」
それでも二人は気丈に振舞う。シールドは更に輝きを増し、どんどん強固になっていく事が分かる。
「それじゃあ、隊長。後はよろしくお願いします」
「…ああ。任せろ」
凄まじい音と振動がシールド越しでも伝わってくる。爆発は覆われたフィールドにも跳ね返り全方位から余すことなくとてつもない衝撃がくる。シールドを隔てた反対側の世界は紅色に染まり生えていた草や木々を燃やす。
爆発は十秒もすると威力を落としていくが残った炎は消える素振りがない。
「炎までまき散らすとはな。確かにこんなのを何も覆ってないところでやれば森林全体がただじゃすまないな。ミラ」
「りょーかい」
名前を呼ぶだけでミラがシキを発動する。シールドの外にはポツリポツリと水が落ちているが、火を消すには圧倒的に量が足らない。にも拘わらず火は少しずつ衰退していき遂には全て消えてしまった。それに合わせ今度はリョウがシキを発動する。やはり変化はない。
「あの、今のは?」
木の葉も何が起きたか分かっていないようでシンに問いかけた。
「ああ。今のシキは空気に関与してたんだよ。さすがにこの量を消すための水を生み出すのは骨が折れるからな。空気中の酸素をミラのシキで水に変えたんだ」
「ちょっとそれ私のセリフじゃない?まあいいけどさ。あ、でね。その後にリョウがやったのは逆に空気中の二酸化炭素から酸素を作り出すシキなんだよ」
「それは俺のセリフだろ。ったく何張り合ってるんだか。シン調整終ったぞ、シールドを解いても問題ない」
「了解」
シールドを維持するシキを解き外へ一歩踏み出す。わずかばかり地面の砂まで燃えていたようで足元が少し熱い。
「……空気に干渉するなんて、流石です」
「あいつらは天才だしな。出来て当然だろ。それにしてもやられたな、完璧な計算ミスだった。侮っていたつもりはないんだがな」
「相手もそれだけ本気なんだ、仕方ないだろ。それに自爆なんて死なないと分かっていても中々できることじゃないしな。ここは素直に相手の作戦と覚悟を称賛しとけばいい」
「まあ、そうだよね。さっきの爆発を一番近くで受けることになっちゃうんだもん嫌だよね。私達以外はみんなフカシキになっちゃったし」
「ああ、そうだな。そしてそのおかげで俺たちは生き残った。多分相手は生きてるとは思ってないだろうし…」
「どうした?シン」
「いや、作戦を変更しようと思ってな。――二、三番隊に次ぐ。敵本陣の人数を教えてくれ。防御隊、3名ほど索敵させてくれないか」
「二番隊、了解」
「三番隊、了解」
「防御隊指令夢維咲。既に四名索敵にあたらせてる。敵隊反応なし。全滅したと思われます」
「夢維咲どうして既に索敵隊を放ってるんだ?」
「ごめん、ただ敵が来ないので不自然に思ったのと貴方たちの報告を噛んば見た結果それ以上攻撃隊はいないと思ったから」
「そうか、助かる。早く行動するに越したことはないからな」
「どういたしまして。それと治療班既にその防御フィールド外に到着」
「分かった。そのまま待機するよう言ってくれ。こっちはまだすることがある」
「了解」
夢維咲は平坦な口調で答えると通信を切る。それを確認し今度は目の前のメンバーと話す。
「俺たちはここで少し待機だ。最初のアタックは残りの隊に任せる。俺たちがここを動くのはその後だ」
「何でだ?合流して一気に叩いた方がよくないか?」
「いや、それよりも俺たちがこうなってる状況を有利に扱うんだ。相手はこっちを見てる。さっきの爆発で大分疲弊していることも知ってるだろうしな。それでだ、リョウ。ここの壁を全力に見えるようにかつ壊さないようにぶっ叩いてくれるか?」
「……なるほどそういう事か」
シンとリョウは口元を歪めピエロの様に笑う。作戦として悪くはないがその顔では完璧に悪役だった。
「俺たちに余力はないと考えさせた後の隙をつく。まあ一種の奇襲だな。上手くいくかどうかは五分だが少しくらいは動揺を与えられるだろ」
シンの言葉に対してミラは何とも言えない顔をする。それから少し目線をずらすと誰にも聞こえないような小さな声で「子供なんだから」とつぶやいていた。
……意表を突かれたからこちらも意表を突いた作戦を。確かに子供と言われても仕方のない場面ではあった…
「敵、目測では二十名います」
「やっぱり全員か。了解だ。これから少しの間。お前ら二つの部隊に戦闘を任せる。お前らはこちらの合図に合わせてさっきの大型シキを用いて相手の幕をぶっ壊せ!」
「紹介!」
「よし、準備完了だ。リョウ頼む」
「了解」
リョウは中腰に構え拳にシキを溜めていく。そのシキはどんどん膨れ上がり神々しく光り始めるが、どこかシキを上手く纏えずに霧消していく。さっきの戦闘のせいでシキを上手く扱えなくなっている…そういう風に見せているのだろう。
「ふうううう。はっ!」
リョウはその拳で思いっきり殴るが防御フィールドを少しきしませた程度で壊れなかった。リョウは大げさに座り込むとそのまま倒れてしまった。シン達はそのそばに詰め寄り全員で話し合っているようだ。
「ふふふ。さすがに壁を破ることはできないですよね。あの爆発から耐えたのは素晴らしかったですがそのせいで壁を破れない。この二重の無力化。ありがとう濠炎君」
そう呟いたのは敵軍エース。ダイヤ=フローリア。シン達を阻んでいる防御フィールドを作った張本人だ。平均的な身長の割には童顔で、大きいローブを身に着けていることもあり小さくみられる。ボブ程度で揃えられた髪は綺麗な白髪をしており両目に軽くかかっている。手にはハクのシキを補助するためのロッドが握られており、先端には自分で作成した大きなダイヤモンドが付けられている。
「しかしやっとのことで主力をつぶしたけどここからが本番です。こちらは防御隊しか残ってないのにあちらはまだ余力を残した攻撃隊が十名さてどこから…きゃ!」
大きな爆発音と自分のシキが無力化された独特の感覚から驚いてしまうダイヤ。しかしすぐに平静を取り戻すと爆発の方向に部下と共に向かい、戦闘を開始する。
「さてと、始まったみたいだな」
「俺たちはどこで飛び出すんだ?」
「三番隊でダイヤだけを攻撃しろと命令してる。そこで余裕がなくなるはずだから、それに合わせる。頼むぞ木の葉」
「了解です。でも隊長。彼らだけでもいけると思いますか?二、三番隊は遠距離攻撃が得意な人が多いのに」
「確かにつらいだろうな。だけど、そこは信じるしかない。あいつらなら耐えてくれるってな」
「はい!」
四人はいまだに座り込み何もできない事をアピールしながら普通に会話をしている。木の葉が少し不安な声を漏らすが、シン達はいたって変わらない。まあ、今までの試合でここまで追い詰められた事がないからしょうがないのかもしれない。
「木の葉ちゃん可愛いね~。そんなに畏まらなくてもいいのに敬語まで使っちゃって~」
「ミラ、木の葉が困ってる。それに今は戦争中だ、上官の命令には敬語を使えよ。木の葉が敬語を使うのは不自然じゃないだろ?」
「そういうの苦手~別に普段と一緒でよくない?」
「そっちの方が指揮系統が混乱しなくて済むんだよ馬鹿」
「それぐらいにしとけよお前ら。多分、そろそろだ」
シンが一喝して目線を戦闘中の奴らにばれないように向ける。いまだにごちゃごちゃしているが、少しづつ三番隊が集まっているように見える。
「木の葉、ばれないように静かに自然に、シキを溜めろ」
「了解」
「俺たちで隠ぺいする。リョウ、ミラ」
「「了解」」
シンが木の葉のシキが漏れないようにニンのシキで木の葉を覆う。さらにリョウとミラは自分たちの目の前に認識疎外を付与させる対シキ兵器を発動させる。
「よし。木の葉、俺のカウントダウンで壁を破壊してくれ。リョウ、ミラ。ラスト3カウントで纏え」
「ああ」
「うん」
「よし……10、9、8、7…3、」
そこで木の葉以外の三人はシキの隠蔽を止める。今まで隠されていたせいでいきなり現れた大きな存在感はすぐに敵に気づかれるが今更だ。
「2、1、零」
「やあああああ!」
木の葉は指示通り全力で戦槌を防御フィールドに向かって打ち付ける。すさまじい音と振動が響き渡り、シキを感知できない一般人でも違和感を覚えるほどの圧力を持ったそのシキは、見事に防御フィールドを破壊した。
「ありがとう木の葉!後は任せてくれ」
「りょ…了解です隊長。ありがとう…ございま、す……」
木の葉は体を扱うためのエネルギーさえシキに回して全力を振り絞った。その為、使用した今では体を動かすこともままならず、その場に倒れこんでしまう。
彼女はその後、救護班に回収されていったがその顔はとても晴れやかだった。
「……まさか、っく!」
自分のシキが破壊されたと感覚が伝えてくる。思わずその方向を向こうとするが、戦っている敵軍が邪魔だ。
「なるほど。エースに人数を集めるのは常識と思っていましたがそういう事でしたか」
1人で一部隊と交戦しながらも、いまだ余裕といった表情で冷静に分析をするダイヤ。自分で確認することはできないが破壊されたことは分かっているのでそこから考えを始める。
(確か生存者は4名。エース2人と隊長。そして小さな体で不釣り合いなほど大きい戦槌を持った女子生徒。まあ、あの爆発を生き残った時点で相当な実力者であることは確かですけど、それよりも他の3人がやばすぎますね。手負いとはいえエースが二人、大してこちらは全員で20名、エースは1人。この後攻めなくてはならないことも考えると絶望的ですね。まあでも!)
「これぐらいでやられるわけにはいきませんね。幸い、私の防壁を壊すのはエースでも大変そうですしね!」
5人を相手にしながら考えをまとめる。気が高ぶったせいか少し口に出してしまっていたがそれを気にする者はいない。否、今まで戦っていた5人さえ今の一拍の間に消えてしまった。
そして後ろには……
「私を動揺させようとしたようですが無駄でしたね、痕跡さん」
「…はあ、まあ動揺すれば儲けもんぐらいにしか考えてなかったが、やっぱり変化なしかダイヤ=フローリア」
「あら?私だって動揺はしましたよ。ですが戦況にまで影響させるわけないじゃないですか」
そういって後ろを振り返る。言葉を交わした為分かってはいたが、ダイヤはシンと目が合う。
「そうかよ。まあ、隊長としてもエースとしてもそれは当たり前か」
「ええ。それよりエースの方たちはどこへ?まさか抜け出してこの戦場に駆け付けたのが貴方だけなんてことはないですよね?」
「さあな?自分で確かめてみればいいだろ」
「そうやって集中したところを襲う気でしょう?」
二人は笑顔を崩さずに話す。例え目が全く笑っていなくても笑顔といえば笑顔なのだ!ただ単にこの二人が笑う事が苦手なだけなのである。
「…まあ、いいですわ。それよりあなたの相手は私ですの?見たところボロボロですし疲労しきっているようですが」
「まあな。確かに俺は満身創痍だけど…負けるとは思ってないぜ?」
「あらあら、なめられたものですね。私はエースですよ?しかもあなた方が手こずっていた防壁は、私のシキですしね」
「ああ、知ってるよ。まあやろうか?」
ダイヤの顔がわずかに歪む。しかしすぐに抑えるために深呼吸をする。その時!
ギイィンッ!
甲高い音がダイヤのすぐそばでなり足元にクナイが落ちる。
「……あらあら随分と焦っておりますね?どうしたんですか」
「…どういう動作で発動するかと思ったが、まさかのノーモーションとはな。うちのクラスでもそこまでの化物はいなかったぞ」
それはダイヤを攻撃した音だった。完全な不意打ちで顔を狙ったにもかかわらず、ダイヤの小さな防壁に阻まれ、ダイヤ自身も特に怯んだ様子はない。
「人を化物なんて酷いですよっと」
ダイヤはおどけて言いながら今度は自分の番とでもいったようロッドを振る。慌てて大きく跳躍すると今までいた場所に防壁が出来ている。
「なるほどある程度の距離はそのロッドで攻撃するのか。まあ厄介な事には変わりないが」
「あら?別にこれは無くてもいけますよ?」
そういって今度はロッドも振らないどころか最初と同じように動いていない。それなのにさっきの防壁、それを覆うようにしてさらに一回り大きい防壁ができている。いつできたか全く予想できないその防壁は、とてつもない脅威であった。
そこからは防戦一方でひたすらに動いて防壁に捕まらないようにしている。すでに三桁近く防壁を生み出しているダイヤはまだ余裕そうに攻撃を続ける。
「逃げてばかりではいつまで経っても勝てないと思うますよ」
「うるせえ。どんだけ化物みたなシキしてんだよお前。さっきからまったく消耗したように見えないが」
「あらあら、私のシキ切れを狙っていたんですか?なら諦めた方がいいですよ。私の固有シキの力で私は炭素を使用する際のシキ消費量は99.9%カット。つまり0.1%になりますから。ちなみに今回の戦闘ではまだ普通に作る際の半個分ぐらいしか消費していませんね」
「…チートめ。なんて都合のいいシキしてやがる」
「ありがとうございます」
「うぜえ…」
戦いながらもそんなお喋りをしているシンは随分無理をしているのか息は上がっており相当辛そうだ。
「私は貴方も随分なものだと思いますがね。エースと二戦してなお動けるその体力。未だ消えない強化シキ。何者なんでしょうかね?」
「ぎりぎりんだけだ。俺に余裕があるならお前に攻撃の一つもしてるよ」
ギィン!
「あらあらまた不意打ちですか。ですが消耗しているのは確かなようですね。最初に比べてっ随分とクナイの速度が落ちていますよ?」
飛ばしたクナイをいとも簡単に止められ、思わず舌打ちをしてしまう。続けて投げるがそのすべてが防壁に防がれてしまう。
「あらあら、動くのは限界ですが?」
「っ!」
攻撃に集中してわずかに減った逃げの意識、そこを突かれ目の前に防壁が出現する。思わず身をよじって避けるが避けた先にも同じようにあった防壁に捕まってしまう。
「チェックですね。ああ、仲間は来ませんよ。私たちの周りに防壁を出現させたので……さて」
ダイヤは念のため三重に防壁をかけると目を閉じて周りのシキを感じ取る。
「こちらは…半数近くやられていますね。この力強いシキ。おそらくエースですか。反応が一つしかないという事は1人は戦闘不能。いえ、私の防壁を破るために全力を出して動けなくなった…でしょうか?どちらにせよ私の相手は俺で十分という事ではなく、俺しかいなかってことですか?痕跡さん」
「さあな。それよりいいのかよこんなところでお喋りしてて、仲間を助けに行かないのか?」
「もちろんちゃんととどめを刺したら行きますよ」
ダイヤはそういうとロッドを剣の様に構えて、抜刀する。ロッドは仕込み刀だったようで気の中からはレイピアの様に先端の尖った剣が出てくる。
「では痕跡さん。勝たせていただきますね」
ダイヤは剣を構え呟く。敵は自分の能力でほとんど身動きが取れずこちらへの攻撃もできない。強化シキが弱まってきている処も見るとシキで楯やシールドを作ることもままならないだろう。大してこちらはまだまだ余力があり剣は唯一、防壁を無視して攻撃できる特別なもの。誰がどう見ても圧勝だ。
「くそ……後は頼んだぞミラ……」
無念に呟いている声を無視してダイヤは構えた剣を心臓めがけ突く――
「……シン、なんてな」
「えっ?」
驚愕の声を出すダイヤ。なぜ?なぜお前がいるんだ、と。
「残念だったなダイヤ=フローリア。お前は俺たちを侮りすぎた」
ダイヤの同様の原因。それは、目の前にいたはずの男が消え、違う男が現れたからである。
「なぜ…私は痕跡、二条シンと戦っていたのよ!」
「残念、お前が戦っていたのは内のクラスのエース。双葉リョウだよ」
今度は後ろから声をかけられ余計にダイヤは混乱する。なぜならそこにいたのはさっきまで戦っていたシン、その男だったからだ。
「一体どうやって、いつから…」
「戦っていたのは最初から俺だよ」
そういって防壁を叩き切りながらリョウは答える。
「対峙してたのは最初っから俺だ。シンはずっと隠れてた。手を出したのは最初のクナイだけ。それからは俺だ」
「そんな……」
誤字脱字指摘、何でもお願いします!
面白かったら……ぜひポイントをお恵み下さい……めっちゃ励みになります