最終試験・1
『最終試験、始め』
合図と同時に本部の扉が開き、攻撃隊が敵陣に向け進軍する。人数は一七名、四〇人クラスの為、他のクラスに比べると防御よりの編成に見えるが実際はエース二人を攻撃隊に入れた攻撃型の編成である。
「二番隊は右翼、三番隊は左翼に回れ!零番隊は中央を駆け抜けろ。一番隊はその後ろを維持しながら指示を出す。もし接敵したら零番隊以外は散会してまくんだ!」
「了解!」
一番隊から指示が飛ぶ。三隊は決まっていたかのようにその指示をノータイムで実行段階に移す。
地形は森林。所々に少し開けた場所があるが、基本的には身を隠しやすく奇襲や待ち伏せなどに向いている。なのでこの地形で有利に戦うためには、待ち伏せなどを巧みに使うか、相手が準備を完了させる前に進軍を完了させるしかない。
「零番隊、接敵。人数は一五名」
「了解。一五秒で追いつく。それまでは無理をしないでヒット&アウェイでしのげ」
「了解」
本陣から約六五〇地点で接敵、お互いの本軍は一〇〇〇離れているのを加味すれば、概ね予定通りといったところか。
「…目標視認しました!敵隊一二名。既に三名はフカシキとなってます」
「分かった。…零番隊合流した。IMAPを使うから準備しろ」
「了解」「了解」「おっけー」
『IMAP』。俺の固有シキで自分と他人の視覚を共有することや、暗視、望遠効果、簡易的な透視効果などができる。今回はIMAPの代名詞である視覚共有を使う。
俺は一帯が俯瞰出来る位置に陣取り、遠距離攻撃でサポートしながら見る。
「っとぉ。サンキューシン。おかげでだいぶ楽になったわ」
「ありがとうシン。IMAPもそうだけど的確な援護射撃も感謝してるよ」
零番隊の二人は戦闘中にもかかわらず深に向かってお礼を言う。深は小言の一つも言ってやりたかったが、その前に敵が深たちに対しても攻めてきたため、中断する。
「こちらに来た六名は対処する。零番隊の二人は援護なしで残りをやってほしい。できるか?」
「あいもかわらず俺達遣いが荒いね。まあ、了解。感触的に相手のエースはここにはいないから問題ない」
涼の愚痴交じりの了解に深は返事をすることなく、意識の外に外し戦闘を開始した――
敵は俺達零番隊の二人を囲むようにしながら、まるで詰将棋のように距離をじりじりと詰めてくる。人数は六、単純計算で一人あたり三人を相手にしなければならず、他の奴らなら絶望的だ。
俺の意識が少し他へと向いたことがばれたのか、左右の敵が攻めてくる。味方に背を預けって戦っているため、俺達は左右からの同時攻撃が比較的苦手である。しかし、苦手なものをそのままにしておくほど馬鹿ではない。
俺達は練習通りに動き、自分の右側の相手を対処する。
お互いが刀を持っていた為、そのまま鍔迫り合いとなる。しかし、鍔迫り合いは人数が多いあちらが圧倒的に有利であるのは当たり前で、今度は残りの4人が左右から切りかかってくる。
俺は目の前の敵の剣を押し込み体勢を崩すと、頭を掴んで右にいる敵に向かって投げつける。そのまま投げた勢いを使用して俺は左からくる敵の剣を防ぐ。相手の力を下に逃げるように刀を動かし敵の剣先を下へと下げる。俺はそのまま顔だけをわずかに横に動かす。
すると俺の顔の真横を銃弾が通り過ぎ、敵の額を打ち抜き敵はフカシキとなってしまう。
もう一人のエース、羊屋 ミラの射撃だ。
ミラは自分の敵を相手にしながらも、器用に間を縫ってリョウに援護射撃をしたのだ。
しかし、敵もその隙を見逃すほど馬鹿ではないようで、徐々にミラが押され始める。リョウは自らも銃を抜くと、迫ってきた敵を刀で受け背中越しに銃を放つ。
そうして飛んでいった弾丸は、今まさに切りかかろうとしていた敵にヒットし、敵はその場に倒れる。
ミラはリョウの弾丸の意図に気づき、大きく跳躍してリョウのもとへと飛んできた。
「さっきはありがとう。実力も知れたし、そろそろ蹴りを付けよう。」
「了解。ねえ、リュウ。あれで行こうよ!」
「ああ、あれか。分かった!」
リョウは言いながら、自分が持っていた刀をお互いの中心地店辺りに突き刺す。ミラは左手に持っていた拳銃を空中へと放り投げその刀を手に取る。
空中の拳銃をキャッチしたリョウは二丁の拳銃を構え、そのまま発砲した。起き上がろうとした敵は、それにより再び地面に伏すことになる。しゃがんでいたおかげで急所は外れているが、追加で二発打ち込まれ、フカシキとなった。
ミラはリョウに視線が集まっているうちに、わきをすり抜け敵4人と再び対峙する。しかし持ってる武器が違うため今回はまるで舞の様だ。敵の攻撃を軽やかによけ、時に刀で受け流し、時に自分から切り込み、相手を翻弄していく。
……だがこの舞には、不可視の悪魔が潜んでいる…
ミラが派手に立ち振る舞っている理由はリョウにある。リョウはミラの背中を陣取り、敵四人を視界に入れ続けている。この二人は今、IMAPの効力によりお互いの視界を共有している。なれないと視覚共有はデメリットの方が大きいが、この二人の実力と、生来合わせることが得意なリョウからすればこの能力はとても使い勝手が良かった。
リョウはミラの後ろで二丁の拳銃を構え、そのまま発砲する。銃弾は全てギリギリのところでミラには当たらず、敵に向かって吸い込まれるように飛んでいく。
「ナイスリョウ!」
目の前の敵が倒れたことにより余裕ができたミラから激励が来る。ミラは残った三人のうち、両端の二人に向かって、今まで使っていた二本の刀を投げるようにして突き刺す。片方は心臓を突き刺され、致命傷なのは明らかだったが、もう片方は辛うじて致命傷を裂けている。
深く突き刺さった刀はただでさえ抜き辛いのに、刺された二人が最後の足掻きとばかりに刀を掴み、抜かせようとしない。中央の敵は武器を失ったミラに向かって上段から剣を振り下ろした……が、
「シナリオ通り」
リョウは敵に向かって発砲しながらそんなセリフを漏らす。どの言葉が聞こえたのか、こめかみを撃ち抜かれた敵は妙に悔しそうな顔で、フカシキへと変わっていった。
「……まったく、乱戦の時にあんなあほな事普通しないよな、ミラ」
「もちろん。あんなの釣りに決まってるのにね~。やっぱりまだまだ歯ごたえのあるやつはいないね」
確かにこの二人からしたら歯ごたえはないだろうが、それでも最終選抜にまで生き残れている実力者が集まるクラスであるはずだ。
「よお。そっちも終わったみたいだな」
「ああ、そっちはどうだ?」
「フカシキには誰もなってない。一人少し怪我をしたから見てくれないかミラ?……それにしても歯ごたえがなさ過ぎたな」
「はーい。了解」
……実力者が集まっているクラスであるはずだ。
「ああ、エースがいないとはいえ、ここまですぐ溶けるのはいまいち納得がいかないな」
「お前らが強すぎるんだよ、自覚しろよ、天上十二家なんだぞお前たちは」
休んでいるクラスメイトからそんな横槍が入った。天上十二家とは、簡単に言うとシキの名家である。
「まあ、確かにリョウたちは強いんだけど何かが腑に落ちないんだよなー」
「お前もだよシン。俺らはお前の采配で勝ててるところが大きいしな。ほんっと頼れる奴らが多いクラスだよ」
治療を受けているクラスメイトも会話に参戦しそんな言葉をかけてくる。しかし、そういう事ではないような気がして、シンは納得ができていなかった。
「多分シンは相手のエースの存在を気にしているんでしょ?出来れば潰しておきたったとかかな?でも心配いらないよ。私達の本陣にはメリッサちゃんがいるんだし」
ミラはみんなが考えすぎだと言っている中で、1人だけシンの悩みの種を見抜いていた。
「まあ、そうなんだがな。……いや、そうだな。ここで余計なこと考えて時間をかけていたらそれこそ悪手だ。治療と準備が終わったら予定通り進軍しよう」
シンは自分の中の気持ちに整理がついたようでみんなに声をかけた。ちょうど、そのタイミングで通信機から定期報告がなされる。
「こちら二番隊、異常ありません。引き続き監視します」
「ああ。」
「こちら三番隊、異常なし」
「分かった。二番隊はそのまま監視を続けてくれ。三番隊は敵の防御フィールドの詳細を」
「「了解」」
シンは準備もあらかた終わり一か所に集まっている一番、零番隊に向けて話す。
「これから敵本陣を落とす!作戦は始まる前に立てておいたものをそのまま使用する。攻撃隊との対峙は無事にフカシキを出すことなく勝てたが、あちらのエースは二人とも防御に優れた本陣待機組だ。今も相手の陣の周りには大きな防御フィールドが設置されている。ここからが本番だと思え!」
「了解!」
シンに続いて他の者も大きな声をだし、存分に士気を高めた……