93:ローレは居るか
ローレのダンジョンは【植物を操る緑の魔女】の名にふさわしく、通路中に草花が生い茂っている。
私の身長よりも高い草花もいくつかあり、中には邪魔になる物は掻き分けて進んでかないといけない。
「あー、チクチクする」
「我慢しろ。文句言っても何も変わらんからな」
これでも裏口は植物の量は控えめだ。
一度、正規の入口からダンジョンに入ってきたこともあるのだが、視界すら奪う程の草花に加えて植物型の魔物もいたので、植物地獄と言っても過言ではなかったのは記憶に残っている。
ここに挑む冒険者は苦労も多そうだ。
「そういやあんた、名前は何だい?」
「カプリゴートだ。魔王だとだけ言っておこう」
「へぇ、魔王だったのかい」
何となく予想は付いていたので驚きはしない。
しかし、魔王ともある者があそこまで恐怖を覚えていた粛清者とやらには少し気になる事があった。
恐らく今もそう遠くない所にいる筈だ。
これは根拠のない予想だが、粛清者の正体は以前魔神王が言っていた人間の味方をする魔王だと考えている。
仮に粛清者が村に来た時は間違いなく戦争が始まってしまうだろう。
最悪なのはカイト達が戻ってくる前に粛清者が来てしまう事か。
そんな考えを頭によぎらせながら植物まみれの通路を進んでいくと色とりどりの花に囲まれた空間に出た。
花畑の最奥には木製の扉。
普段はこの先にローレがいる。
ただ、ローレはちょくちょく村に遊びにきてるそうなので今いるかどうかは運次第ってところだ。
「まぁ、あんたも祈っときな」
残念ながら私も共に来ているチビネコレディも薬草については何も分からない。
それでも素人が適当に治療を施して良いものではないのは分かってるので、もしローレがいなければ待ってるか探すかをしなければいけない。
カプリゴートの怪我がすぐさま治療しなければ死ぬような物ではないので特に心配はいらないけど。
なるべく花を踏まないように扉へと近付いていき、まずは扉をノック。
返事はない。
ローレはどこかへ出払ってるのだろう。
一応、扉を開けて中に入ってみる。
「残念、留守だ。治療はお預けだな」
「そいつは残念だ」
とりあえず部屋にある葉っぱで出来た椅子にカプリゴートを降ろし、私達も空いている椅子に座る。
「さて、先に話を聞かせてもらおうか」
「良いだろう。後輩に色々教えてやるのも先輩の役目ってやつだ」
さっきまであんな怯えてたのに安全な所に来た途端に先輩面を始めた。
都合のいい奴め。
「じゃあまずは………カハッ……!」
「おい! どうした!」
話を始めようとしたカプリゴートは唐突に血を吐いた。
それを皮切りに顔は蒼くなり、脂汗を流し出す。
「あぁ……ウアアアアッ!」
「チッ、離れるよ! 斧も捨ててっていい!」
カプリゴートの体から黒い煙が吹き出し、どんどんと部屋を埋め尽くしていく。
チビネコレディを庇いながら部屋を脱出した直後に聞こえたのは一瞬の悲鳴と、響く破裂音。
「あんた達、大丈夫!?」
「私達よりも……エリー様! 腕が!」
「腕?」
チビネコレディに指摘されてようやく気付く。
私の右腕が腐ったかのように黒ずんでいる。
この広がり方は背中にまで黒ずみが広がっていそうだ。
正体は分からないが決して体に良いものではないだろう。
「エ、エリー様。後ろ……」
ひた、ひた、と出てきた部屋から不気味な足音が鳴る。
後ろを振り向けば、そこには私の背丈程もある大きな赤い蛙が薄気味悪く舌を出してこちらを睨んでいた。




