84:嵐の前の静けさ
招待状が届いてから今日で十日目。
まさか本調子に戻るのにこんなに時間が掛かるとは思っていなかった。
魔力は予想通りすぐに回復したのだが、疲労が全然取れず、しばらくは部屋に籠って安静にすると同時に、自分の能力について考察を進めていた。
自分が知っている物を魔力と引き換えに造り出す能力。
貰ってすぐに呼吸をするかのように当たり前に使っていたが、本来は原理ですらよく分かっていない代物なのだ。
今回の件を受けて、それを再認識した。
だからと言って変に能力の使用を控えるつもりはない。
何故なら能力が使えない生活なんてものは退屈極まりないからだ。
この十日間で身に染みるほど感じた。
「散歩でもするか」
鈍りに鈍った体を起こし、大きな伸びをする。
おまけに一つの欠伸。それから部屋を出ようと扉に手を近付ける……前に後ろから眩い光が四方八方に広がった。
「うわっ、眩しっ!」
棚の上に放置していた魔王集会の招待状。
それが光を放っている物の正体だった。
光はどんどんと強まっていき、辺り一面が白に包まれると、俺の意識も段々と遠退いていく。
『これより、魔王集会を開始する』
機械のような無機質な声。
意識が完全になくなる前に聞こえた最後の声だった。
◇
次に目が覚めた時に見えた物は城のように巨大で豪勢な屋敷。
あれを見るのは二度目になる。
前回と違うのは、扉が見当たらなかった裏口ではなく、巨大な扉がある表口にいる事。そして他の魔王の姿があるという事だ。
残念ながら知っている魔王は一人としていない。
というか知ってる魔王が同期の奴らだけという事実に気付いてしまった。
その内他の魔王について知っていかなければならないな。
そんな未来の話を考えながら、他の魔王に付いていくようにして屋敷の中に入った。
屋敷の中を歩いて数分。
魔王集会の会場である大広間に到着した。
そこで待っていたのはご馳走の良い香りと賑やかな声。
だと思っていたが、少し違った。
ご馳走はたんまりとある。
しかし、パーティー会場だというのに広間を包むのはただひたすらの静寂だった。
ピリピリとした空気が張り詰め、油断したら殺られる。そんな想像してもいなかった雰囲気がこの広間にあった。
「何があったんだ……?」
静寂の理由を知る術はない。
とりあえず、腹を満たすために適当に料理を取って、空いた席を探してゆっくり食事をする。
それを邪魔するかのように少女が一人。
「久しぶりね、カイト。あれから強くなったかしら?」
【ドラゴンプリンセス】のドラミク。
彼女が俺の後ろで仁王立ちしていた。
「久しぶり。また戦うのは勘弁してくれ」
「私もそんな気分じゃないわ。代わりに相席してもいいわよね」
何が代わりなのか。それを問く間もなくドラミクは俺の隣の椅子に座ってきた。それだったら何で相席していいか聞いたし。
「それにしても今日はやけに静かね。葬式でも始まるのかしら」
「やるとしても誰のだよ」
「紅い月の夜に死んだ魔王達?」
「あ、やたらとピリピリしてんのって紅い月が原因だったりするのか」
紅い月に当てられた魔王同士でいざこざが起こった。安っぽく言うと喧嘩して気まずくなった。この重い雰囲気の理由としては充分考えられる。
「そうかもね。魔王の数が少ないのも同じ理由だと思うわ」
「言われてみれば……」
まだ広間に入ってくる魔王はいる。
それでも、前回と比べて魔王の数は明らかに少ない。
しばらく経って、来る魔王が途切れた時、魔王が減っているのは確実となった。
「お、いたいた。おーい、ローレ! こっちだ!」
「スパンダさん、待ってください。ここにとっても美味しい料理が……」
やって来たのは【知を持つウェアウルフ】のスパンダ。
少し遅れて、料理の山が形成されている皿を持ったローレが来る。
「あら、スパンダにローレじゃない。生きてたのね」
「そりゃそうだ。魔王同盟を持ち掛けた以上、そう簡単にくたばっちゃあ情けねえからな」
明るく喋っているスパンダだが、どうにも表情には曇りを感じ取れる。
……これは同期が全員無事に紅い月の夜を過ごすことは出来なかったかもしれないな。
「ここには居ないだけで無事に生きている」
そんな希望的観測をしておく。




