83:悪夢が終わり、混沌が始まる
「カイト。調子はどう?」
黒い羽を持った一人のハーピィが心配そうな表情をしながら、俺が寝ている部屋に訪れてくる。
彼女は二人目の眷属、【レイヴンハーピィ】のチェー。
昔飼ってたインコと同じ名前を付けておいた。
「最悪だな。何もする気が起きない」
「それは残念。それよりもテドおじさんから桃貰ってきたんだ。食え」
「拒否権は無しか」
チェーは部屋のドアを開けっぱなしにしたまま部屋を出ていって、間もなくして桃が盛り付けられた皿を羽を器用につかって持ってくる。
「残すなよー」
そう忠告をしながら入り口近くにある机に皿を置き、また部屋を出ていった。
それを見送ってから渋々ベッドから起き上がり、桃の皿を取りに行く。
桃はどちらかと言えば好きな方なのだが、皿に盛られた新鮮そうな桃を見てもあまり喜べず、むしろほんのわずかな距離を歩く労力を使うことが億劫という気持ちが強かった。
一言で言えば、俺は疲れていた。
理由は言わずもがな、先日の紅い月のせいだ。
狂暴化した魔物達によって多数の村や街が襲われたそうだが、この出来て一ヶ月も経っていない村も野良魔物の襲撃に遭ったが、それは滞在していた冒険者達の手も借りて苦労せず鎮圧出来た。
問題は村はずれにあるローレのダンジョンから溢れる魔物達だった。
【植物を操る緑の魔女】ローレとは最初の魔王集会が終わった後に、新たな魔王同盟員同士のよしみとして、協力関係を結んでいた。
俺は街(今は村だが)を造って冒険者を集める。ローレは村から近い狩場ダンジョンを造って冒険者を呼び寄せる。
この協力関係は両者が満足出来る程には上手く回っていた。
話を戻そう。
ローレのダンジョンから溢れる魔物は、野良魔物と同じように討伐していいものではなかった。
無駄な出費を抑えたいのもそうだが、協力相手とはなるべく良い関係を築いていきたい。
そうして選んだ手段がドラミクの眷属相手にも使ったバリケードでのダンジョン封鎖だった。
時間にして約八時間。造ったバリケードの合計五百六。
ローレや俺の魔物達の協力もあって、ローレの魔物を生き残った状態での鎮圧に成功した。
代償として俺が魔力切れを起こして動けなくなったが。
魔力自体は今日中には戻りそうなのは幸いか。
試しにフォークを造ってみたらやや時間は掛かったものの、きちんとした物が出来上がった。
造ったフォークを使い一切れの桃を口に。
「甘いな……」
恐らく今までに食べた桃の中でも上位の美味しさ。
適度な冷たさは今の暑い時期でも食べる手を加速させる。
量にして丸々一個分はあった桃も、気付いたときには無くなっていた。
◇
やることもなく微睡んでいると、部屋の扉が開かれる音で目が覚める。
扉の前にはエリーが立っていた。
「カイト宛の手紙だってさ」
「誰からの?」
「魔神王の使いのサキュバスから」
エリーは雑に手紙の封を開けてから、俺に手渡してくる。
「じゃっ、お大事にな」
用が済むとそそくさと部屋を去った。
あ、空いた皿を持ってってもらおうと思ったが頼みそこねた。
「それより手紙の内容だな。何書いてあるんだろ」
手紙には近日、魔王集会が始まる。この手紙は招待状代わりなので無くさないように。的なことが書いてある。
前回から一ヶ月も経っていない。こんなにすぐ魔王集会は開催されるのかと疑問はある。
が、紅い月の夜を経て新たな魔王同盟メンバーは無事かだったりと会って話をするには好都合だ。
首を長くしてその日を待っていよう。




