79:少年少女が見た悪夢
カルツィさんと魔物と関わっていた毒人間のモミジが走って行った後を追うに連れて、紫の霧が濃くなっていっている。
霧の濃度が彼女らの居場所を探る判断材料になるのはありがたいが、体への負担が大きく、早いとこ探して離れないと霧に含まれている毒でやられてしまいそうだ。
「カルツィさーん、どこにいるんですか?」
角を曲がると、より一層霧が濃くなり視界を遮るようになってきた。
その中で朧気ながらも横たわっている二人の姿が見えた。
近づいてみると、両者はどう見ても無事ではないと分かる。
「……何があったんですか」
カルツィは体の所々が赤く腫れていたり、腐りでもしたのか黒く染まっており、触るのも躊躇ってしまうような有り様だった。
回復魔法を掛けてやると少し顔が動いたので、死んではいなかった事にひとまず安心する。
モミジは建物の瓦礫に体を潰されて、自分で流した赤紫色の血溜まりの上で微動だにせず倒れていた。
一応回復を掛けてみたが、何の変化も起こらない。
私は一つ、大きく息をついた。
「これは御愁傷様としか言いようがないですね」
モミジは死んでいた。
別にこの少年に何らかの情があるわけではない。
情報を吐かせたら、後は生きようが死なれようがどちらでもよかった。
ただ、瓦礫が落ちる場所にたまたまいて、運悪く潰されてしまうという呆気ない最後にはさすがに言葉に詰まるものだ。
もし私がこんな最期を迎えたらたら悔しさで化けて出るだろう。
「とりあえず、カルツィさんを連れて帰りますか」
ここにいたら身体的にも精神的にも悪影響を及ぼしそうだ。
カルツィさんと離れた所に放置されている大鎌を持ってレンの元へ戻ろう。
私の素の力では大鎌すら満足に運べないのは分かっているので、バフを掛ける。
「解除【大熊】」
大熊の効果は純粋な筋力の増加。
屈強な者はより強く、私のようなか弱い者でも人間と大鎌なら余裕で持ち上げられる力を手に入れられる。
注意を払いながらカルツィさんを背負い、大鎌を握った。
「あ、そうだ」
モミジがいる方を見る。
可能なら瓦礫の山からこの憐れな人間を助けてあげたいが、潰された上半身を見たくないという恐怖がそうさせてくれない。
あとは瓦礫がこちらの世界からは絶対に動かせないという理由もあってモミジを助けるのは不可能だ。
これはどんな怪力を持っていたとしても、どうにか出来る問題ではない。
せめてもの手向けとして安らかに眠れるように祈ってあげよう。
「けほっ……」
毒が回り始めてきたので、駆け足でこの場を去る。
紫色の霧は薄くなり始めていた。
◇
「なぁ妖精。お前は今楽しいか?」
「うん! とっても! お前は強いからな!」
「そうか。俺もだぜ!」
戻ってきてもいまだにレンとデモンは殺し合いをしていた。
子供のような笑顔を浮かべてとっても楽しそうに。
デモンの方は分からないが、レンが楽しそうな理由はなんとなく想像できる。
彼は今まで敵を能力のお陰でただ命令に従うように倒してきた。
それが今日、能力が効かず、勝つためには常に己の思考を働かせないといけない敵が現れた。
それがとっても嬉しかったんだろう。
こう想像はできるが命懸けの戦いを楽しめる彼の頭を理解はできない。
「食らえっ! フレイムソード!」
レンは剣に炎を纏わせ、デモンに斬りかかろうとする。
しかし、その前に上空から鉄球が雨となって両者に襲い掛かる。
「うわおっ! なんだこれ!」
何の前触れもなく飛んできたが、二人とも後ろに下がって事なきを得た。
落下した鉄球は地面の石畳を割り、いくつもの隆起を作る。
そしてここにいる者達は一体の魔物の姿を視認する。
城に向かって悠々と歩みを進める山のように巨大な亀の姿を。




