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74:裂け目の世界の悪夢

 「痛って……」


 俺を掴んでいた腕が離されて地面に体をぶつける。ぶつけた所をさすりながら立ち上がり、辺りを見渡すと、さっきと何の違いもない街並みが見えた。

 デモンと勇者が戦っているのも見える。あれだけ激しくぶつかり合えば何かしら音が立つ筈だが、何も聞こえず静寂があるだけだった。

 近づいてみたが両者ともに俺には気付かず、触れてもすり抜ける。

 透明人間になったみたいでちょっと面白い。


 「大人しくしていろ」


 少女の声に呼び止められる。

 振り返ってみると、大鎌と鍵の様な物を持った二人の少女がいた。

 それを確認できた瞬間に、首元に大鎌が当てられた。

 また命が他人の手に握られたよ。


 「えーと、誰?」

 「貴様ごときが知る必要はない」

 

 これまた辛辣な。

 どうしよう。勇者より弱そうだし俺でも勝てるかな。

 いや待て。ここから出られなくなる可能性もありそうだ。

 ここは様子見が最善だろう。


 「大人しくしてるんで、その大鎌どけてくれない?」

 「無理な願いだな。何か企んでるだろう?」


 命に危険がある物をどけようと提案してみたが、あっさりと却下される。


 「まぁそういう事です。レンさんと妖精さんの戦いでも見守っときましょう」


 今度はもう一人の少女が口を開いた。

 その声はどこか気怠げな雰囲気があった。

 それと勇者の名前はレンって事を知れた。


 「あいつの言う通りだ。レンが勝つ姿を拝んでおけ」

 「いや、あれはデモンが勝つ」

 「戯けた事を抜かすな。根拠はあるのか?」

 「素人目で見てもレンの剣技が大したことないように見えるのは俺だけ?」


 ◇


 デモンは勇者が振り回す剣をヒラヒラと避けて、懐が空いた瞬間を狙って毒の塊を投げつける。

 例え直撃は回避しても拡散する毒全てを避けるのは不可能に近く、じわじわと勇者の体には毒が蓄積していた。

 耐性があるとはいえ、効かないわけではない。

 これが続けば勇者は毒で倒れる事になるだろう。

 

 「まだまだ遊ぶよ!」


 デモンは休むことなく追撃を繰り返して、勇者に反撃の隙を与えない。

 対して、勇者は攻撃が一切当たらない相手に疲れの色が見え始めていた。


 「どうなってんだこいつは」


 勇者は違和感を覚える。

 今日までの戦闘では女神から授かった能力で狙うべき場所が可視化されており、そこに一撃を入れて勝つという戦法をとっていた。

 しかし、デモンやモミジにはそれらしき物が見当たらない。

 戦闘をほぼ能力任せで行い、まともな剣術を習っていない勇者は、デモンを近付けないよう剣を振るだけで精一杯だった。

 

 『大変そうね。助けはいるかしら?』


 苦戦する勇者を見かねてアリアが聞いた。この声はデモンには聞こえていない。

 勇者は辺りを見渡して近くに人がいないか確認した。

 レッシェとボウガンの男は既にこの場を離れており、近くに住む町人もとっくに避難は完了しているだろう。


 「でかいの一発頼んでいいか?」

 『お安いご用よ。妖精が近づいてきた時に撃つわ』

 

 ならば、一芝居打ってみるか。

 

 勇者は毒で苦しみ、倒れそうになるフリをした。

 それをチャンスだと思ったデモンは瘴気と共に飛び掛かってきた。


 「終わりだ!」

 「お前がな!」


 勇者は素早く右手を突き出して、魔力のチャージを始める。

 その間に腹に手痛い一撃もらったが必要経費と割り切り、腹に刺さっているデモンの腕を掴み、逃げられないようにした。


 「じゃあな、妖精。俺を苦戦させたことをあの世で誇っとけ」


 業炎が渦を巻く竜巻となって、道路を通っていった。

 

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