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71:樹の悪夢

 大樹の砦。

 サイルマードに隣接する森林の中にあるダンジョンだ。

 トレントやウッドスネーク等の木の魔物が生息しており、王国から徒歩で行ける距離なのもあって、それなりに冒険者が訪れていた。

 

 ある日、ダンジョンの主ゴーロンゾが勇者の手によって殺害される。

 残された魔物達は主が居なくなった事を悲しみつつも、眷属の【エルダートレント】と【樹蛇(じゅだ)】を新たなリーダーに、以前の暮らしを取り戻していた。

 ……紅い月が昇るまでは。


 月の光に当てられた魔物は入口の扉を破って外へと飛び出した。その数はざっと数えて二百。

 魔物の大軍が向かう先はサイルマード王国。

 王国は巨大な城壁に囲まれ陸路からの侵入は困難だが、この魔物達には侵入を可能にする術があった。

 

 

 森を抜け、野を走り、城壁の前にたどり着いた所で、業炎が魔物達を包んだ。

 木でできた体を焼き尽くすのは一瞬だった。

 エルダートレントは身を焦がしながらも魔力の壁を張って業炎を凌ぎ、城壁の前に立ちふさがる勇者を視認した。

 その腕からは煙が上がっており、彼が業炎を放ったのだと判断する。

 主の仇なのだが、それを知るよしは無かった。


 「誰だ、貴様は」

 

 返答はない。

 ならば攻撃を仕掛けようかと一歩進もうとしたら、喉元に大鎌の刃が突きつけられた。


 「動くな。その首をはねるぞ」


 少女の声。

 暗闇に紛れ、触れる程に接近するまで存在を感知させなかった。

 エルダートレントはその事実に心の中で称賛を送る。

 しかし、全く焦ってはいなかった。


 「少女よ、油断しすぎではないか?」


 エルダートレントの体に擬態していた樹蛇が少女の両腕に巻き付き、動きを縛る。

 ちゃっかり魔力の壁に隠れて業炎を回避していたのだ。

 

 「では、止め……」

 「それは無理だ」

 

 勇者が剣を抜き、飛び込んで、エルダートレントの腹に突き刺す。

 この一連の動作は一瞬だった。

 剣はエルダートレントの体を貫き、樹蛇、更には少女までにも届く。

 木の魔物の体からは血の代わりに体内を巡る水が飛沫となって溢れ出す。


 「仲間ごと我らを斬るか。己がしたことを分かってるだろうな?」

 「その心配は要らないぜ。後ろ見てみな」


 エルダートレントは促されるままに首を後ろに向ける。

 そしてすぐに納得した。

 見えたのは剣に貫かれピクピクと苦しむ樹蛇だけで、さっきまでいたはずの少女は跡形もなく消え去っていたのだ。

 樹蛇の拘束をほどいて逃げたか、最初から幻術だったのか。

 ともかく仲間殺しが無くて安心していた。

 その感情のまま勇者の右手から放たれる業炎によって焼かれていった。

 

 「ねぇ、私ら必要なかったよね?」


 虚空から姿を現した長めの黒髪の少女、カルツィ。

 大鎌を持っていた少女だ。

 彼女は幻術を使えて、勇者の剣に貫かれていたのも幻術によって生み出された偽物だ。


 「カルツィさんはまだいいですよ。私何もしてないですからね」


 カルツィより少し遅れて虚空から現れた水色に何本か緑色の髪の毛を混ぜたボブカットの少女、マリア。アリアの実の妹だ。

 僧侶で回復魔法や補助魔法を得意としている。

 だが、攻撃手段を持っておらず勇者に魔物を倒すまでは待機しているように命じられていた。 

 

 「そう妬むなマリア。すぐに出番があるから」

 

 勇者は城壁を見上げながら告げた。

 空を飛べる魔物は難なく街へと入っていくが、陸路からは城壁に阻まれて侵入は不可能に近い。

 門も全て閉じられており、襲撃が終わるまで開くことはない。

 なぜなら門番も魔物の対処に終われているからだ。


 「あー、はいはい。あれをやれと」


 マリアは一つ呼吸をおいて、ぶつぶつと詠唱を始めた。

 勇者の背に鷲の紋章の魔方陣が出現する。

 彼女が唱えているのは対象に翼を与える呪文。

 このバフを受けると、鳥のように空を飛べるようになる。


 「解錠【大鷲】」


 魔方陣から体を包み込めるほど巨大な羽が現れる。

 勇者は二人を抱えた状態で跳躍。

 そして翼を羽ばたかせ、砂埃を上げながらゆっくりと飛翔していく。

 

 「カルツィ、幻影で俺達を隠せ」

 「分かってる」


 カルツィは大鎌を振るう。

 何もない空間に一筋の傷が入り、直後にじわじわと傷が広がっていって裂け目ができる。

 勇者はその裂け目に入り、闇に消えた。

 街中にいる強者の気配を感じながら。

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