68:悪夢始まり
目を覚ますと俺は見知らぬ部屋のベッドの上で寝転がっていた。
誰かが運んでくれたのだろう。
それにしても気分が悪い。
頭の中が回っているような感じだ。
やはり未成年の俺に酒は早かったようだ。
今後酒は控えたほうがいいな。
重い体を起こして、部屋を見渡す。
フカフカしたソファとか大きなクローゼットなどがあり、高級なホテルの一室にありそうな部屋だ。
俺が使っていたのとは別のベッドに大の字になって寝ているデモンがいた。
寝顔も可愛い。
その可愛さについ魔が差してデモンの頬を指でつついてしまった。
めっちゃぷにぷにしてる。
もう一度触ろうかとも思ったが、起こしてしまうかもしれないのでほどほどに止めておいた。
てかアラクネの姿が見当たらない。
まだ余っているベッドもあるし、俺達とは別の部屋に通された訳でも無さそうだ。
探しに行く……いや、迷子になるのが目に見えてるな。
大人しく帰ってくるのを待っていよう。
じゃあもうやること無いね。
もう一度寝てしまおうか。
「そういやここって何階なんだろ」
何の拍子も無しにふと気になった。
もしこの部屋が高層階であれば灯りで輝く街を一望できるのではなかろうか。
そんな期待をしながら、ふらつく体を壁で支えつつ動かして窓に近付く。
さぁて、どんな景色が見えるのだろうか。
窓を開けて身を乗り出す。
涼しい夜風が俺の体を通り抜けて心地がよい。
「ん、何だあれ」
窓の外には俺の興味を引き付けるものがあった。
眼下に広がる街並みではない。
空に浮かぶ真っ赤な満月だ。
これを見てすぐにオーエン団長が言ってた紅い月だと確信した。
まさか見てみたいという願いが一日も経たずに叶うとは。
しかしあの月を眺めていると、不思議な感じがする。
心が軽くなって、意識がゆっくり溶けていくような。
何かデジャブを感じるな。
『キェェェェェェ!』
どこかで上がった甲高い鳴き声でハッとする。
油断しているとまた意識を持っていかれそうだ。
一旦、カーテンを閉じて月が見えないようにする。
月から目を離すと元の感覚を取り戻してきた。
どうやら紅い月は魔王である俺にも効果がありそうだ。
ところでさっきの雄叫びは何だったんだろ。
雰囲気は鳥っぽいが。
『キェェェ!!』
考える暇もなく何かが奇声を上げて弾丸のように窓から入って来る。
蝙蝠だ。
妙にでかくて濃い紫色をしている。
その蝙蝠は部屋のあちこちに体をぶつけて、暴れながら飛び回る。
なるほど。これはオーエンの言った通り、凶暴化してるな。
「ちょっ、待て!」
なんとか蝙蝠の片足を掴んだ。
だが、蝙蝠も離せと言わんばかりに噛みついてくる。
その痛みに思わず手を離してしまい、逃がしてしまった。
「モミジ~、これ何の音?」
この騒動でデモンが目覚めた。
寝ぼけ眼をこすりながら飛ぶ鳥を見つめている。
「デモン! そいつ捕まえれるか?」
「ううん」
曖昧な返事を返してから、デモンは身を屈めた。
蝙蝠が頭上に来た瞬間にジャンプして、右手を振り下ろす。
それが蝙蝠の胴体に当たり、勢いよく床に叩き付けた。
今の一瞬で毒も入れたようで、蝙蝠は落ちたまま動かなくなっている。
「凄いな。ありがとう」
「へへーん、これくらい余裕だよ! でもこれで終わりじゃないよね」
デモンは外を隠していたカーテンを思いっきり開けた。
そこには街の方へ向かって飛ぶ鳥の群れが。
コイツらも紅い月で凶暴化した魔物だろう。
「どうする? デモン」
「そんなの決まってるよ! 全部倒して救世主になる!」
さっきまで眠そうだったのに、楽しそうな物を見つけてすっかり元気になっている。
デモンが早速出発するのかと思い、見守っているとこっちに飛んできて、俺の服を掴んだ。
「モミジも救世主になるんだぞ!」
「……え?」
俺を掴んだまま、旋回して外へと飛び出そうとする。
どうしようも出来なかったので、目をつむって、安全飛行をしてくれる事を願った。




