59:オーエンのおすすめメニュー
チリンチリンと鳴る鈴のついた扉を開け、店の中へと入る。
店の中はカウンター席とテーブル席があるといういかにも喫茶店な雰囲気があった。
こういう落ち着けそうな雰囲気は結構好きだ。
「あ、オーエンさん、いらっしゃいませ!」
額から小さな二本角が生えている俺と年齢が近そうな少女が出迎えてくれた。
「よお、久しぶりだな嬢ちゃん。いつものを四つ頼もうか」
「分かりました。今日も空いてますし、お好きな席へどうぞ!」
「だったら私、あそこがいい!」
デモンは窓際の席がいいらしい。
ダメだという理由もないのでそこに座ることにした。
椅子は木製で背もたれの形が一つ一つ、若干だが異なっている。
別に座り心地には関係なさそうなので気にはしなかった。
椅子に座って店内をよく見てみるとカウンター席に一人、テーブル席に三人と客が非常に少ない。
店がこれ以上客が入れないほど狭いというわけでもない。
「オーエンさん、ここはいつも空いてるのか?」
「まぁ、そうだな。店の者の種族があまり良く思われてなくて、人が寄り付かんそうだ」
「店の者の種族って?」
「オーガ族だ。さっきの嬢ちゃんにも角があっただろ?」
そう言って別のテーブル席の客の注文をとっている少女を見る。
色々理由もありそうだが、異世界の事情、ましてや魔王である俺が口を挟むのも野暮なので、頑張れと心の中で思っておくだけにした。
それとあの客達、俺のダンジョンに来てたような……。
誰だっけか。
それを思い出そうと思考を巡らせていると、入口の方から鈴の音が聞こえた。
誰が来たのか見てみたら驚きのあまり咄嗟に顔を伏せてしまった。
「クーリじゃねぇか……」
さっき出会いたくないと願ったばかりだぞ。
会いたくないとはいえ、クーリの様子も見たいので、ちょっとだけ顔をあげてみる。
クーリはこちらの様子も気にする事もなく、普通の客のように角の少女に出迎えられ、カウンター席に案内された。
特に変わった様子はなかった。
「おい、魔王。いきなりこそこそし出してどうしたんだ」
「会いたくない奴が来やがった」
「あのキザな性格してそうな男か」
キザな性格……。
確かにしてそうだが、だからどうしたって話だ。
しかしこの状況どうしようかな。
大人しく頼んだ物を食べて普通に店を出る。つまりは普段通りにしてるのが得策な気がする。
いや、絶対その方がいい。
「ということでデモン、アイツと関わろうとすんなよ?」
「えぇー!? けちだなぁー!」
やっぱ何かしでかそうとしてたな。
油断ならないので、隙は見せないようにする。
あと声が大きい。
クーリにバレるとかじゃなく、他の客の迷惑だからやめてね。
時々クーリをチラ見しつつ、十分位待っていると、ようやく頼んだ物が来た。
「お待たせしました! こちら、ガニュルプスのステーキと麦パンです!」
「え? 何のステーキ?」
「ガニュルプスです!」
いや、何だその得体の知れない生物は。全く想像がつかん。
しかし、見た目はでかくて美味しそうで食欲をそそるステーキだ。
オーエンがおすすめしていたし、不味いなんて事は有り得ないだろう。
覚悟を決め、ステーキをナイフで切り分け、フォークで肉を口に運ぶ。
一噛みで、肉が柔らかい事が分かる。
肝心の味は……やはり旨い。
塩でシンプルに味付けされてあるので、肉本来の旨みを感じれる。
んで、結局何の肉なのこれ。
少なくとも牛とか豚とかではない。食べたことのない味をしている。
「魔王よ。どうだここの肉は?」
「あ、旨いっす。けどガニュルプスって何だ?」
「知らねぇのか? 蜥蜴みたいな魔物だ」
まさかの蜥蜴肉。
一瞬このまま食べ進めようか迷ったが、美味しそうにステーキを食べているデモン達を見て、細かい事は気にするのを止めにした。
そして美味しいステーキを堪能することにした。
食べきれるか若干不安だったが、脂身が少なくてさっぱりとしていた事もあってなんとか完食することができた。




