54:初陣は不戦勝
いくらもがこうとも下へと沈んでいく。
何も見えない何も聞こえない。上下左右も曖昧だ。
俺は暗所恐怖症ではないが、この空間に閉じ込められてたらいつかは気が狂いそうだ。
しかし、動けないのでどうすることも出来ない。
『モミジ様、モミジ様!』
何処からか俺を呼ぶ声がする。
助けか? 助けが来たのか?
耳を澄まし何処から聞こえてくるのか探ろうとしたら、急に右腕を掴まれ、そのまま引っ張られる。
「おぉ、いました! お待たせいたしましたモミジ様!」
俺に呼び掛けて腕を引っ張ってくれた人物の正体はどうやらこのサキュバスようだ。
最初の魔王集会の時のサキュバスが着ていたのと同じエロティックな格好をしている。
そしてここは何処か聞こうと思ったが、部屋を見渡したら見覚えのある部屋だということに気付いた。
「ここは……俺のダンジョンか」
「左様です。他の魔王様達も各自のダンジョンにてモミジ様と同じ状況下に立っておりますわ。それとモミジ様の眷属達も間も無くここに来ますので」
サキュバスはこれを言い終わると上をちらっとだけ見る。
何かあるのかと思い、俺も上を見てみる。
「モミジー! おかえり!」
なるほど、デモンか。
デモンが上から来るのかと思い、両手を上に上げ、いつでも受け止められる体勢をとる。
上から来るぞ、気を付けろ!
次の瞬間、背中に強烈な頭突きを食らった。
上から来ないなら、気を付けることも出来ない。
つまり回避も不可能って事だ。
「デモン、そーゆうのは痛いからもっと優しくやってくれ」
「えへへ、分かったー!」
多分……いや、この笑顔は絶対分かってない。
「あら、デモンさん。今日もモミジさんにべったりですね」
少し遅れてアラクネもこの部屋にやって来た。
「あ、そういやにんげ……レッシェ達はどうしてる?」
「彼等には今回の魔王戦争は中止という事は伝えました。今は別の部屋で休ませていますよ」
「そうなの? じゃあそろそろ解放しちゃおっかな」
「あ、あのぉ。モミジ様? そろそろ今回の件についての説明を始めてもよろしいでしょうか?」
サキュバスのお姉さんは申し訳なさそうに聞いてきた。
デモン達に気をとられて放ったらかしにしてしまった。
「ご、ごめん。説明は聞くから心配しないで?」
サキュバスは一つ咳払いをして、説明を始める。
「まず勇者と呼ばれる人物が今回の件の発端ということはご存じですよね」
「いや、敵が何者かに襲われたって聞いただけなんだけど」
「はぁ!? マジかよ!? あのお気楽おじさんめ……」
いきなり口が悪くなったぞ、このサキュバスさん。
しかも最後に主のはずの魔神王への愚痴をぼそっとだが言いおった。
……まぁ聞かなかった事にしてあげよう。
「あぁ、すみません取り乱しました。えぇと、その襲った奴が勇者です。まずここまでいいですか?」
「おk、大丈夫」
「では次に。この襲撃で【木の下の大王】ゴーロンゾが死亡しました。そして彼が死亡した時に抽出された魔力がこれです」
サキュバスは蜜柑サイズの翡翠色をした透き通った球体を見せて来た。
「くれるの?」
「察しがいいですね。そうです。今回の魔王戦争の勝者はあなた達なので何か報酬を与えなければいけません」
その報酬がこれと。
綺麗だけど何に使うんだろ。
「モミジー! その綺麗なの欲しい!」
後ろに控えていたデモンが目を輝かせて背中の羽をぱたぱたさせている。
可愛い。
「それデモンにあげちゃってもいい?」
「それらを決めるのは魔王様自身です。私は口出ししませんよ」
自己責任って訳か。
そうなるとあげたのを後悔するのが怖いな。
あげるのはちょっと待つか。
「デモン、悪いけどあげるかどうかははもうちょい考えさせて?」
「えぇー? ケチー!」
文句は言うものの、無理矢理取りには来ないし、駄々もこねない。
良い子だ。




