29:開幕エンカウント
「侵入者ー! 私がやっつけてやるぞ!」
ダンジョンに入った瞬間、デモンと女戦士は遭遇した。
デモンは先手必勝とばかりに飛び掛かった。
女戦士は咄嗟の反応で斧を振り回し、妖精の接近を防ごうとした。
デモンは宙返りをしてこの一撃をひらりと回避。
それと同時に手のひらをこちらに向け、紫色の粉を女戦士に浴びせた。
この一連の動きの後、互いに距離を取った。
「っ!」
女戦士は体に痛みを感じ、ふらっとする。
この妖精に浴びせられた粉は毒だと判断した。
痺れも出てくる。
「デモン、まだ殺さんでよ?」
デモンが飛んで来た方向からアラクネとそれに乗った魔王モミジがちょっと遅れて女戦士と遭遇。
モミジはアラクネから降りて女戦士に近付き、こう提案をした。
「俺達の仲間にならないか?」
「誰があんた達の仲間になんかなるかよ!」
しかし提案は一瞬で断られた。
それどころか女戦士は近付いてきたモミジに足払いを仕掛ける。
モミジはそれに見事なまでに引っ掛けられ、思いっきり転倒する。
引っ掛けた側もまさか成功するとは思わず、少し戸惑いを見せる。
「めっちゃ痛ぇ!」
「お、おい。大丈夫か?」
最早敵にまで心配される始末。
しかし、モミジは笑みを浮かべた。
女戦士の足を掴み、ユニークスキルの一つ毒纏いを発動する。
モミジの手から女戦士の足にまでじわじわと毒が侵食していく。
「アッハッハ!! 苦しめ!」
「うわっ、こいつやり方が汚ぇ!」
女戦士は足を振り払い、モミジを吹き飛ばす。
吹き飛んだモミジはアラクネの糸でキャッチされ、安全に地面に着地した。
「ありがとう、アラクネ。ナイスキャッチだ」
「有り難いお言葉ですわ、魔王様」
「お前っ、魔王なのか!?」
女戦士は衝撃を受けた。
魔王と出会ってしまった恐怖よりも、こんな私よりも小さくて威厳の欠片もないこいつが魔王だって事に。
「魔王、お前それでも魔王か!? こんないたずら好きの子供のやりそうなことやってて恥ずかしくないのか!?」
「うるせぇバーカ! お前の理想を押し付けんなよ! 毒爆弾食らわすぞ!」
モミジは何かを投げるようなジェスチャーをとる。
しかし、女戦士はある種の正論を叩きつけられ、悔しい思いをしていたせいか、それを見ていなかった。
そして、頭に何か液体が降ってきた。
上を見てみると、デモンが女戦士を笑いながら上空を舞っている。
また痛みや痺れを感じた。
「油断したな? 魔王ってのはなぁ、こういう不意討ちも得意なんだよぉ!」
「卑怯過ぎるぞ! そっちがその気なら私も奥の手を使わせてもらう!」
女戦士は懐から立方体の物体を取り出し、地面に叩きつけた。
立方体の物体は液体のように形を変え、人の姿になっていく。
「さぁ、私を怒らせた罰だ。秘宝の力を味わうといい」
三メートルはありそうな巨体が女戦士を守るように立ち塞がった。