21:三人の冒険者
やはりダンジョンってのはよく分からない。
今俺達が入ったこの屋敷だって、昨日は無かったはずだ。
だが、綺麗という訳でもなく、年季が入ったような古い建物だ。
さて、そんなダンジョンの中。
一目で迷路だと分かり、上には蛾が飛び回っているのが見える。
「あれも魔物なのか?」
「そうだとしても放置で良くないか? 襲ってくる気配も無さそうだし」
蛾は上を飛んでるだけで何もしてこない。
それなら確かに無視でいいだろう。
「で、どうする? 攻略するか?」
「……行ってみようぜ? もしダンジョンクリスタルを砕けたら一攫千金が狙えるぜ」
「だな。折角見つけたんだ。俺達の力でこの迷路を攻略してやろう」
進む事になった。
確かダンジョンというのは年月が経つことに階層が深く、魔物が強力になる傾向がある。
それに当てはめるなら、ここは恐らく新しいダンジョンなので階層が浅く敵も弱い。
あの蛾がいい例だ。
警戒さえ怠らなければ新米冒険者の俺達でも攻略は可能だろう。
「よし、アンヘル。盾を壁にしながら進んでいくぞ」
「あぁ。二人は援護を頼むぞ」
大盾を持つアンヘルが盾を前に持ち、前からの奇襲を防げるようにする。
そしてその後ろをハンターのイギー、魔術師のウイードと続く。
これが俺達のフォーメーションだ。
アンヘルが先に迷路の中へ入っていく。
その瞬間、足元の地面が崩れ、アンヘルは穴に落ちていった。
「おい、アンヘル! 大丈夫か?」
「心配はいらん。落ちただけだ」
落とし穴を覗き込んでみたが、二メートル位のちょっと深い穴にアンヘルが尻餅をついているだけの様だった。
針山とか毒沼が無くて安心した。
「ちょっと待ってろ。ロープを下ろす」
「ん? なんかカサカサ聞こえるぞ」
そしてアンヘルは足に何か付いてるような感覚がした。
手でそれを払った。
どうやら蜘蛛のようだ。
しかしそれで安心は出来ない。
落とし穴にあったさらに小さな穴から蜘蛛がワラワラと湧いてきた。
「うわっ! 気持ち悪ぃ! 早くロープを下ろしてくれ!」
「おい、二人共! 上を見ろ!」
ウイードが上を指差しながら叫ぶ。
上を見上げるとさっきまで飛んでいただけの蛾の群れが落とし穴に向かって飛んで来ている。
「うわぁぁぁ!」
「アンヘル! ロープを下ろしたぞ!」
「蛾の方は俺が対処する!」
ウイードは杖を蛾の群れに向けて素早く呪文を唱える。
「詠唱:風術!」
杖の先端の魔石から強風が吹き、蛾の群れを片っ端から吹き飛ばしていく。
イギーは下ろしたロープにアンヘルが掴まったのを確認したら力一杯に引き上げた。
アンヘルのジョブはパラディンで都合上、装備が重くなる。
そのせいでイギーは肩を痛めたが、何とか引き上げる事に成功した。
「ハァハァ……。助かった……」
「おい、アンヘル。顔腫れてないか?」
アンヘルはそう言われてみればと思い、頬を触る。
それでぷっくらと大きく腫れているのが分かった。
「さっきの蜘蛛に噛まれたか? アンヘル、他に体に異変があったりするか?」
「目がくっそ痒い」
アンヘルの目は誰が見ても分かるほど充血していた。
恐らく蛾の鱗粉にやられたのだろう。
アンヘルの状態を見て、この決断が下されるのに時間はかからなかった。
「帰るか。今のアンヘルの状態だとまともに動くのも難しいだろ」