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状態異常を振り撒く系の嫌らしい魔王のダンジョン造り  作者: 鈴亜サクサク
異界の知識を持つ魔王のダンジョン造り
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97:人間を守る戦い

 魔物の防壁から逃げ帰った集団の最初の一団が村に戻ってきた頃。

 その時には粛清者との決着は付こうとしていた。


 「ガッハッハ! わしはまだまだくたばらんぞ!」

 「人の身でありながら、ここまで動くとは……」


 テドおじさんと粛清者の一騎討ち。

 他に戦っていた者は皆、地に倒れて眠ったように動かなくなっている。

 殺された……訳ではなく粛清者の力によって体の自由を奪われているだけだった。

 それを知るために戻ってきた村人達が近くで倒れていたユライの元へと駆け寄ったが、その行動は戦っている両者に勘付かれる。


 「おやおや、私の手の元まで戻ってきましたか」

 「お前ら何で戻ってきたぁ!」

 

 粛清者はテドおじさんの拳を避けつつ受け流しつつ新たなナイフをチビネコレディに向けて放つ。

 村人はそれを捌きつつ、戻ってきた理由の問いに叫びにも近い声で答える。


 「外は魔物に囲まれてて逃げられないんだ!」

 「そうか! そいつは仕方ねぇな!」


 村の中までは入ってきてないが、一団また一団と次々に村人とチビネコレディの集団が戻ってきて近くの木の陰に身を潜めている。

 嫌でも聞こえる大声から何となくの状況を把握して、一騎討ちの行く末を見守っていた。


 「だったら! こいつを倒すまで待ってろ!」


 テドおじさんは握り拳を作り、粛清者の顔に殴りかかる。


 「あなたのような強者なら多少強くやったとしても大丈夫ですね」


 粛清者は飛んでくる拳を両手で掴み、爪を立てた。

 しかし、その程度では丸太を軽々担ぐような怪力を止めることは出来ず、そのまま色白の顔面へと拳が直撃。

 一連の流れの後、先に膝を付いたのはテドおじさん。

 体中から脂汗を流し、口からは泡を吹く。


 「一体……何をした……」

 「神経毒を入れさせてもらいました。他の方より強めのものですので半日は動けないことでしょう」

 

 かなり強力な神経毒が体の中に入った筈だが、膝を付いたまま目から戦意は失われていない。

 粛清者もこれには思わずたじろぐ。


 ……私は恐れている? 庇護する筈の対象に?


 テドおじさんは止めるべき敵と目を合わせしばらくの沈黙の後、これ以上動くことはなかった。

 既に気を失っていたのだ。

 つまりは最後の戦士の敗北。

 この場の誰もが粛清者には敵わないと悟る。


 「粛清を再開しましょう」


 邪魔者を無力化し、意識を他に割く必要がなくなった分、ナイフをより多くより速く飛ばす。

 粛清者か魔物の軍団か。どちらがチビネコレディを守りきれるかの判断を一瞬で下せる者もおらず、あちこちで村人達が逃げ惑う。

 だが、ナイフのほとんどが村から飛び出すことはなく、地面から急速に伸びた蔦の壁の前に刺さって止まる。

 蔦はぐんぐんと成長を続け、ドーム状に村を覆うまで伸びていく。

 

 「いけませんわ。そんな凶器はしまってくださいな」


 蔦を出現させた犯人は魔王ローレ。

 彼女も地面から這い出て、粛清者の首元へ花の茎を突き刺しにかかる。

 喉を切って殺す為の一撃は体を少しずらすという最低限の動きでかわされた。


 「おやおや、こんなにも早く来るとは思っていませんでした」

 「それは誉め言葉として受け取っていいかしら?」


 銀のナイフと花の刃。

 命を奪う武器を握った二人の少女は互いに武器を向け合う。


 「このまま刺してやりたいのは山々ですけど、その前に。人間さんを退かしません?」

 「何を企んでます?」

 「巻き添えにしたくないのですよ」


 ローレに企みはあるが、この言葉には嘘は含まれていない。

 この村の人間は糧にはしているが、それとは別に共に飯を食った仲間でもある。

 ローレは村人を好いていたし、村人も彼女を変わり者の女性と思って受け入れていた。

 

 粛清者も人間を巻き添えにしたくないのは同じ考えで、蔦の一部分が開き、村人がテドおじさん達を回収している間は手出ししなかった。


 「ローレさん、あなたが魔王なのは本当なのか?」


 一人の青年が不安気に聞いた。

 今まで人間、もしくは亜人だと思って関わっていた者が魔王だと告げられて動揺しているのだ。


 「そうよ」


 ローレはこう答え、手の仕草で早く去るように促した。

 中央で倒れていたテドおじさん、セセッカ、ガドロンド。外周付近で倒れていたユライ、メキラの合計五人を連れて、村から人間が居なくなったら開いていた蔦が再び成長し、出口を塞ぐ。


 「さて、そろそろ始めましょうか」

 「その前に一つ。私のダンジョンを荒らしたのはあなたの仕業ですか?」

 「答える義理はないです」


 どちらも守るべき対象はか弱き人間。

 言動も含め、どこか似通った二人は敵を討つために刃を交えた。

 

 

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