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状態異常を振り撒く系の嫌らしい魔王のダンジョン造り  作者: 鈴亜サクサク
異界の知識を持つ魔王のダンジョン造り
101/121

95:凶刃は正義の為に

 予兆なく始まった襲撃。

 村に残り粛清者に立ち向かったのはごくわずか。

 大半の人間は状況を把握しきれないまま村から逃げ出そうとしていた。


 「こいつの狙いは猫娘達だ! 庇いながら逃げろ!」

 

 力ずくで巻き付く木の根を外したテドおじさんは何物にもかき消されない声で皆に指示を出し、自分も逃げるチビネコレディの集団の殿に立って、身を挺して飛んできたナイフを受け止める。

 指示を聞いた者も武器や魔法を駆使し飛ぶナイフや蠢く木の根を壊しつつ、村から離れていく。

 しかし、皆が皆庇いながら逃げるなんて都合よくはいかず、中には命が取られるかもしれないという恐怖で顔を歪めながら一目散に逃げる者も。

 

 「全く、臆病者が多いわねえ」


 村に残った者の一人、セセッカがその光景を見て呟いた。

 女口調の男性、村人達からはオカマと呼ばれているその男は蛇腹剣を用いて粛清者の足止めを行っている。

 

 「戦闘中に余所見にお喋りとは。随分と余裕ですね」

 「だってぇ、あなた反撃が一切ないんですもの」


 リーチの長さを活かした鋭い突きによる一撃と、鞭のように曲がりくねって左右から飛んでくる奇っ怪な一撃。

 二つが組合わさったオカマみたいに不思議な剣の舞。

 粛清者はそれを一本のナイフでいなしていた。


 「逃げる魔物の援護はしなくていいのですか?」

 「大丈夫、貴方を止めるのが私の仕事だから。援護は他の子の仕事よ」


 戦っている最中も新たなナイフが粛清者から放たれる。

 これまでに放たれたナイフは百はとうに超していた。

 それだけの数のナイフが手や服に仕込んであるわけではない。

 体内の魔力を使い、その場で無からの生成を行っているのだ。

 魔力もまだまだ有り余っており、ナイフの雨は止むことはない。

 

 ナイフの一本一本がチビネコレディを機械のような正確さで狙って飛んでいく。

 それを防ぎ続けるのは盾持ちのガドロンド、魔術師のユライ、地理学者のメキラの三人。

 勢いよく飛んでくるナイフを盾と魔法で撃ち落とし、自分の後ろを逃げる者達にナイフが届かないようにしている。


 「これ俺必要か?」

 「いらないかもね。僕とメキラさんでどうにかなってる」


 ユライとメキラの二人が放つ魔法で村の全方位をカバーしきれている。

 自分が対して役に立っていないと感じたガドロンドは守りは二人に任せ、粛清者に向かって突撃した。

 粛清者はそれに気付いたが、一目見ただけで、あとはガドロンドに見向きはせず、セセッカの剣撃を捌くことに意識を割いた。

 

 「この野郎、舐めやがって」

 

 ガドロンドは武器と呼べる物は持っていない。

 あるのはたった一つの盾のみで、粛清者の中では彼を相手する優先度が低いのだろう。

 それもそのはず、


 「そこ、気を付けてください。罠を仕掛けさせてもらったので」


 ガドロンドが地面に違和感を感じた瞬間、隠されていた魔方陣が現れ、火柱が渦巻いて立ち上った。

 

 「うわっつ!」

 「ガドロンドちゃん! 大丈夫!?」


 咄嗟に後ろに下がったので火傷は負わずにすんだ。

 しかし、いきなりの出来事にガドロンドが心配になったセセッカが粛清者から一瞬目を離してしまった。


 「あなた、絆されましたね」


 その隙をついて、粛清者は地面を踏みつけ木の根を召喚した。

 セセッカは焦りが見える手付きで乱雑に蛇腹剣を振り回し、その内の数本を切り落としたものの、増え続ける木の根に手数で負けて手足を絡め取られていく。

 

 「……やられたわ」

 

 セセッカにはテドおじさんのような木の根を引き裂くような怪力はない。

 なのでせめてもの抵抗として、粛清者を睨んだ。


 「仲間が心配になって意識が分散したのでしょう。それを悔いることはありません。思いやる心も人の強さなのですから」


 粛清者はセセッカの方を向いており、相も変わらずこちらに意識は向いてない。

 ガドロンドは今度はこっちが隙を見逃すまいと、盾で殴り掛かった。

 脳天をかち割るような勢いの盾殴り(シールドバッシュ)

 盾には小細工は施されていないが、鉄で作られており重く硬い。

 使い方によっては並の武器よりも手痛い一撃を出せるだろう。


 「勇敢なのはいいですが、もう少し頭を使った方がいいと思いますよ」


 粛清者が取り出したのは一丁の銃。

 歯車や宝石等が散りばめられており、一般的な物とは形が大きく異なるが、ガドロンドはその武器の正体に気付いた。

 そして銃という武器の恐ろしさも知っていた。


 「うおおおっ!」


 それでも恐れずに突っ込んだ。

 勇敢と無謀を履き違えたとも言える突撃からの盾殴り(シールドバッシュ)を粛清者は後ろに少し身を退いて回避する。

 その後、銃を構えて狙いを定めた。

 ガドロンドにではなく後ろから迫ってきていた何者かに。

 

 「あばっ! 熱っちい!」


 火柱をものともせず突っ込んで来たのは太い丸太を担いだテドおじさん。

 燃え始めた丸太を持って走る姿は怪物のごとし。

 銃の引き金が引かれ、弾丸が飛ぶのと同時に丸太が粛清者の体にぶち当てられた。


 「どうだ! わしの一人破城鎚は!」


 テドおじさんの肩に弾丸が当たったのと引き換えに、粛清者に会心の一撃をお見舞いした。

 少女の軽い体からはバキッと骨が折れる音が鳴り、地面をバウンドしながら遠くまで転がっていく。

 相当な激痛が走るはずだが、粛清者は顔色一つ変えなかった。

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