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とーどーさん、ご飯食べましょう。  作者: 藍染 伽藍
道東
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2「とーどーさん、お腹減りましたぁ」

「とーどーさん、お腹減りましたぁ」

「くいしんぼか。まだ八時だぞ」

「二時間も走ってますもん」


 朝ごはんだって食べてないし、と口をちょっと尖らせてぶーぶー言うこいつは不覚にも少し、ホントに少しだけ可愛い。ホントに少しだけな。


 休憩も入れながら走り続けて二時間。当たり前だが網走まではまだまだだ。まぁでも確かに腹は減ってきた。何かつまむか。


「じゃああと一時間半ぐらいで女満別に着くから、それまでに何か食うべ」

「やった!」


 あと少しで峠も越えられるし、頑張るか。

 北見から網走に行くのには、その道のりの半分ら辺に女満別がある。そしてその女満別のちょっと前には峠。北見は盆地だから他の町とかに行くときは必ず山を越えなきゃならん。おかげで夏も暑いし。

 少し進んでスペースがあるところに自転車を止める。まぁトイレがある場所だけど。


「車全然走ってないですね~」

「だな」


 作ってきました、とお握りを手渡される。あの短い時間で準備してそしてお握りを作ってくるアスカイ。なんだこいつ。ホント自分の好きなことはやるの早いよな。お握りうめぇ。


「…………美味い」

「愛がこもってますから」

「そうかい」


 自慢気に腰に手を当てて笑うアスカイ。

 何でだろうな、自分が作ったお握りより他の人のお握りの方が美味く感じるのは。ホントに愛がこもってるのか?


「ごっそさん」

「お粗末様っした!」

「なんだその言い方」

「とーどーさんの真似した」

「違和感あるな」


 水筒の麦茶を飲んで少し時間をおいたらまた自転車に跨がる。お握りを食べたからかちょっと元気になった、気がする。


「さっきよ、網走の有名なもの調べた」

「ホントですか!?何でしたかー?」

「流氷ビールとか、あんかけ焼きそばとか、鮭の親子丼とか……網走監獄とか」

「流氷ビール!」

「水色とか赤とか、そんな色のビールらしいぜ」

「美味しいんでしょうかねそれ」


 流氷ビールに食いついたアスカイ。色を聞いた瞬間に少し声のテンションが下がったように聞こえた。


「色は綺麗だったぞ」

「地元の人って飲むんでしょうか……」

「聞かねぇとわかんねぇわな」


 シャーッとゆっくり坂を下っていく。そのあとも話ながら女満別に向かうことにした。

 女満別で有名なものと言ったら丘だな。女満別の丘は綺麗だ。何回かドライブで行ったことはあるがいつ見ても。いそれこそゆ夕日を丘から見たときは少し感動したぐらいだからな。


  ◇


「つ…着いたー!」

「やっとこさ着いたな」


 やっと女満別に着いた。網走までの道のりは長い。このまま走ればあと一時間半ぐらいで着くんだろうがとにかく今は休みたかった。だって足しんどいし。

 アスカイがごそごそとバッグを漁っている。出てきたのはデジタルカメラ。お前一眼レフ持ってなかったっけ?


「とーどーさん、丘行きましょ!」

「ん?丘に行って何するんだ?」

「ふっふっ~、着くまで教えません」


 はしゃいでいるアスカイを追って走る。少し走って着いた場所は……


「……メルヘンの丘、だな」

「そうですよ~。ほら、とーどーさん、こっち来て!」

「あー?何するんだよ……」


 「めまんべつ メルヘンの丘」と書かれた低い看板の横に立たされてアスカイはその反対側に立つ。ピピ、と音が鳴ったと思うとアスカイが喋り出す。どうやらカメラで録画しているようだ。


「はいやってきました女満別!」

「やってきたな」

「今私達がいるのは?」

「メルヘンの丘だな」

「はいそうですねー!」


 そんな調子でアスカイは録画を楽しんでいた。俺これ立ってるだけじゃね?時たまアスカイからとんでくる質問に答える。


「――それでは次回は網走で!シーユーネクストタァイム」


 そこでアスカイの録画は終わった。最後無駄に発音が良くて腹立つ。てかこれ網走でもやるのかよ。恥ずかしいわ。めっちゃ周りの人チラチラ見てたわ。


「お?とーどーさん、目ぇ死んでますよ」

「あ?あー……大丈夫だ」


 お前のせいだよ、と言うのを抑えて自転車に跨ごうとすると、アスカイが「まだダメですよ」と手を引いてきた。

どこからか出してきた三脚に一眼レフをセットして「そこに立ってください」と指示されまた看板の横に立つ。

とてて、と三脚から離れてアスカイも看板の横に立った。


「とーどーさん、笑ってください」

「へ?」

「いーですから」


 言われるがまわ笑いを作った。目線の先のカメラがパシャ、と小さく鳴ってアスカイが確認する。


「お!とーどーさんちゃんと笑ってる~。良かった」

「撮り直しとかしねぇの?」

「しませんよ」


 「だって」と続けるアスカイ。


「とーどーさんが笑ってる写真が撮れたら充分なんですから」


 ただ、そうやって無邪気に俺に笑って言う彼女にじーんときて、つい手を伸ばして小さい彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。「わー!何するんですか!」と笑う彼女にいつも俺は振り回され続けていたいなんて、考えてたり。

お前ら幸せかよって自分で突っ込みました。

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