旅支度
事の始まりは
「とーどーさん、旅しましょう」
の、彼女の一言だった。
***
「…………は?」
「だから旅ですってば」
「いやそれは今聞いた」
唐突な彼女の一言に間の抜けた声を出してしまう東堂 シュン。
彼女――飛鳥井 アサヒはいつも唐突だ。そして東堂は大体彼女に振り回される。
特に付き合っているとかの関係はなく、いつも、気がつけば二人は隣にいた。
「とりあえず地元の県は全各地巡りましょう」
「県っつーか道な」
そして、振り回されると分かっていながらも断らずに付き合ってしまうのは恐らく彼が彼女に甘いからだろう。
「しかたねぇな……おら、早く支度しろ」
「おっ?行きます?とーどーさんも行きます?」
「行くって。分かったって。はよ支度しろアスカイ」
「やったー!」
東堂の言葉を聞き、早速支度に取りかかる飛鳥井。東堂も重い腰を上げて自分の荷物を必要なものだけまとめる。
ここ、北海道と言ったら色んな地域がある。全て回るとなると荷物の量も多くなるわけで。
気分が上がっている飛鳥井はものの三十分で支度を終わらせ、大きいバッグを肩にかけていた。
「とーどーさん、私終わったよ」
「はえーよ。ちゃんと準備したかもう一回確認しろよバカ」
「バカじゃないよ。これでもここ一番の高校卒業してるんだよ私」
「田舎の高校卒業ぐらいで自慢するんじゃねえよバカ」
準備しながら自分の確認用にと作ったリストを彼女に渡し、また準備に取りかかる。
彼も何だかんだですぐ終わりに荷物の確認をする。
「服はいいだろ?財布、スマホ、充電器、風呂セット、時計、地図、メモ帳と手帳に…」
「カメラは私が持ってるよ」
「アスカイが持つとなんか壊しそうだな」
「壊さないよ。何年使ってると思ってるの」
「へいへい」
そのあとも水筒、救急セットなど持ち物を確認したあと彼は鍵を手に持ち飛鳥井に声をかけた。
「終わったぞ。今何時だ……」
「朝の六時だよ」
「んじゃ出るか」
バッグ持ち我が家をを出る二人。意外と殺風景な部屋にも別れを告げ、自転車に乗る。
「バイバイ北見!」
「まだ出る前だけどな。つか北見っつっても誰もわかんねぇよ」
「…………行ってきます北見!!」
「元気ちゃんかよ。一瞬心配して損したわ」
***
「つかお前仕事は?」
「やめました」
「…………は?」
彼は本日二度目の間抜けな声を出すことになった。
別小説の息抜き程度にやってきます。
これから私も地図を見る機会が増えそうです。