止められたときのなかで
初めまして、作者のYuです。
練習も含めての作品ですので、感想や評価などをたくさんいただけると嬉しいです。
文章なども多々至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。
二次元とはいったい、なんなのだろうか?
すべてが固まっていた。
凛堂春也の目に映る世界は、色が褪せ、時間という概念が消えていた。
近くにあった時計台の秒針は時を刻むことを忘れ、道行く人たちは皆ある一点を凝視したまま一歩たりともその場を動こうとはしない。
そんな奇想天外な景色を、ただひとり、春也だけが認識することができた。
「……どう、なっているんだ、これ?」
茫然と立ち尽くし、直面した現実を受け止めきれない春也。
自分はファンタジー世界にでも迷い込んでしまったのだろうか?
「凛堂春也さん」
ふいに、背後から声がした。
ほとんど反射的に振りかえると、そこには——
「……っ!」
時が止まった空間にひとり、長い銀色の髪をなびかせた美少女が佇んでいた。
呼気がとまるかというのではないかという衝撃。
なぜ、時間が止まっているなか、少女は動けるのか。
どうして自分以外の時間が止まっているのか。
そもそもここは、現実の世界なのか。
自分と同じ境遇にいる少女を見た瞬間、この事態に対する様々な疑問が浮上してくる。
少女は——薄く微笑みながら、そっと春也のまえに一冊の分厚い本を差しだした。
辞書の数倍の厚さはある、それはだれに引っ張られるわけでもなく、自らふわふわと浮遊して春也の手におさまる。
「な、なんだよこれ?」
警戒しながら、目の前の銀髪少女へと問いかける。
だけど、彼女はなにも答えず黙って佇むだけで春也の問かけに応じない。
春也がそんな彼女に恐怖を抱きはじめた、その瞬間だった。
パラパラパラ、とひとりでに彼が握っていた分厚い本のページがめまぐるしい速度で捲れていく。
「なっ、どうなっているんだよ!」
怪奇現象に近いそれを体験した春也は、驚き自動でページが捲れる本を落としてしまう。
支えを失った本だが、パラパラとページを捲りながら彼の目線の高さまで浮遊してくる。
「凛堂春也さん」
ここにきて無視していた少女が口をひらく。
可憐な唇から、ゆっくりとつむがれる言葉を春也は、一冊の本と対面しながら聞く。
「あなたにはこれから、自分といっしょに世界を救ってもらいます」
「はっ、世界を救う!?」
銀色少女からの荒唐無稽な話に春也は驚愕する。
突然の事態で混乱しているのにもかかわらず、彼女の言葉にはきっちりと反応してしまう。
「そうです。自分はハクア。あなたが住むこの〝三次元〟の人々が創造した世界、〝二次元〟を管理する者です」
「はっ? 二次元? ちょっと待てよ。いきなりあらわれてなに意味不明なことを言っているんだおまえ!?」
戸惑う春也。
だけど、そんな彼をハクアと名乗る銀髪美少女は、冷たく一蹴する。
「意味不明もなにも、あなたはただ自分に与えれた役目をこなせばいいんですよ」
横暴な。
そう毒づこうとした、そのとき。
ドクン——と心臓の鼓動が加速した。
(なんだ、この感覚?)
胸の奥底から、じわりじわりと熱くなっていき、なにかが強い衝動となって春也自身の支配していく。
春也は俊足でページが捲れていく本に目をよせる。
なにか文字が書かれていることだけはなんとか読み取れるが、内容までは頭に入ってこない、はずなのに。
(どういうことだ? 理解できる。この本に書かれた内容を頭で理解できる!?)
文字など読まなくても、流れていくページを見ただけで、本の内容がスラスラと頭にインプットされてくる。
「……どうやら、覚醒したようですね」
ふっ、とハクアが笑う。
まるでこの事態を想定していたかのように。
「……」
いつの間にか、彼は彼でなくなっていた。
無意識に、溢れる強大な力を、触れた本へと使う。
「〝インディニット・プロジェクション〟!!」
そう叫んだ瞬間、まばゆい光が色の褪せた世界を満たし、春也とその傍にいたハクアを呑みこんだ。
その数秒後。
時は再び、動きだし。人々は行動を再開する。
だが、その風景に凛堂春也の姿は、なかった……。