まぶしい朝日
「もぞもぞせずにお休み、リリー」
ナルセフに抱きしめられたままではとても眠れないリリアナが、動いて腕の囲いから出ようともがいたら、目を閉じたままのナルセフに耳元でそう言われた。
む、むきゃー!!!もう頭は噴火寸前である。
余計ジタバタしたリリアナに今度は薄明りの中で目を開けたナルセフがリリアナの目をじっと見つめながら言った。
「10代の男の欲望なめんなよ。襲われたくなかったらじっと動かず眠るんだ」
ピンと空気が緊張するのがわかった。これは警告だ。
リリアナがうなずくことすらできないながらも理解したことが目でわかったナルセフはリリアナの頭をポンポンと軽くたたき再び目を閉じた。
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきた。
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「ふぁぁぁぁ」
リリアナは朝もやの中で、淑女にあるまじき大あくびをした。
まだ城も目覚めてない。本当に一睡もできなかった。一瞬うつらうつらしそうになったが、ナルセフが寝たまま抱きしめなおし、胸に抱えられてしまったら、もうどうにもならなかった。薄明りの中でみるナルセフは目を閉じても絵画のように美しかった。綺麗な子だな、とは前から思っていたが、こんな綺麗な「男」の子だったんだと改めて知ったら、血が沸き立つようで、バクバクいう心臓にまったく眠りに落ちることができなかった。
ナルセフは穏やかに寝てたな。
そう思ったら、途端に悔しくなった。なんで私ばっかり意識してるんだ。
「なによ。ナルセフのバカ!!」
だれもいない草原に向かってリリアナはつぶやいた。
「ごあいさつだな」
いきなり返事をされ、リリアナはぎょっとして振り向いた。
ナルセフがすぐ近くまで来ていた。
「あんなに紳士的な婚約者だったってのに、バカ扱いかよ」
腕を組みながら片眉を上げる。少し怒っているのがわかる。
「だ、だって。あんなに慣れているなんて、ずるいわよ。私なんて、全然眠れなかったのに。何よぐーすか気持ちよさそうに寝て。そりゃ私は容姿だって10人並みで、魅力なんてないからナルセフは平気なのかもしれないけど」
最初はナルセフを見て言っていたリリアナは言いながらだんだんうつむいてきた。容姿が10人並みだからこそ他でカバーしようと頑張ってきたはずなのに、なんだろうナルセフの前に出ると上手くいかない。
なんでこんなにできない子みたいになっちゃうのよ、私。
つま先を見つめていたら、鼻がツンと痛くなった。泣くほどの何かがあったわけじゃないのに、感情のコントロールがうまくいかない。
男の前でやたら泣く女なんて嫌いだったはずなのに、自分がその嫌いな女に成り下がるなんて・・・。
「そりゃあ、慣れてるに決まってるだろ」
ナルセフのセリフに思わずリリアナは顔を上げた。やっぱり昨夜みたいなことは慣れてるんだ。自分で言い出しておいて傷ついてしまう自分がやりきれない。
「言っとくけど、慣れてるのは寝室でのことじゃないぞ」ナルセフが軽くため息をついて言った。
「俺はお前とちがって、戦場に出てるんだ。どこでもどんな状態でも寝れるように訓練してるんだよ」
ここまで言って、ナルセフはフイッとふて腐れて横を向いて続けた。
「昨日も言ったけど、俺だってあんなことは慣れてない。リリーの夜着姿見てすげー緊張した。正直何カ月も我慢できるか自信ない」
ものすごく、不機嫌そうに言うナルセフにリリアナはドンと抱きついた。あふれていた涙が零れ落ちる。
「な、なんだよいきなり」ナルセフはあわてながらもリリアナを受け止めた。
まだナルセフの方が若干背が低いが、体はがっしりとし始めていてリリアナとは全く違った。
昨夜もそう思った。
「わ、私、昨夜ナルセフに抱きしめられて改めて男の子だったんだって気付いて、ナルセフは昨夜も落ち着いてて私ばっかり気持ちがついていけなくて、近いのに、すごく、遠く感じたの。ナルセフばかり大人で、私はあわててばかりで・・」
言っていて子供の愚痴みたいでいやになる。
ナルセフがリリアナの髪をやさしく撫でた。
「ばかだな。変わんないよ、俺も同じ。別にこんなところで大人ぶらなくてもいいじゃん。2人で一緒に成長すればいいだろ」
リリアナが涙にぬれた瞳で顔を上げると少し低い位置にナルセフの綺麗な瞳があった。
まぶしいのは出たばかりの朝日なのか、ナルセフの綺麗な瞳なのかリリアナには分からなかった。




