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成すべきことを成す!

「リリアナ。とりあえず、当面お前は俺の侍女な」

ナルセフが前髪を掻きあげながら言った。

「まあまあ。なんとひどいお言葉。一国の王女にしもべになれとおっしゃるのかしら」

言い返しながらもリリアナは面白そうに笑った。

輿入れは「輿」と一緒にせねばまずい。

「輿より先に嫁入りする一国の王女が何言ってんだか。まったく」

ナルセフが苦笑する。


まだ国内にもスマリ王国との婚姻自体に反対しているものがいる。根回しにしばらく要するはずだ。

それより前にリリアナの存在を明かせば危害を加えようとする者が出るかもしれない。用心に越したことはない。

「スマリ王国よりの輿入れの為に事前準備に来た侍女ってことにすりゃいいだろう。普通の姫なら侍女なんてどうして振る舞っていいのかわからないだろうけど、どうせお前のことだから侍女に変装したり、町へ降りて市井見学したりしてんだろ。誰にも侍女として疑われないだろうよ」

「あらあら。我が国にスパイでも入れてるのでしょうか。よくご存知ですこと。ナルセフ殿下」

リリアナは、タタラニア王国の公用語に切り替え、侍女用の敬語で話出した。


クラウドが驚きに目を見張る。それを見てナルセフが言った。

「なんだ、クラウドは知らなかったのか。リリアナは5か国語はいけるぞ」

諸国にはそれぞれの自国言語があり、国際公用語のような共通言語がある。基本的には他国の人間と話す時には国際公用語、自国の人間と話す時は自国語を使う。ただ、国をまたいで商売する商人たちは行った先々の言語を操るようになる。郷に入らば郷に従え。それこそが商売の必需品だからだ。

が、普通は市井の言葉づかいを覚える。

どうやってリリアナはタタラニアの一部の階層でしか使われない言語を習得したのやら。


侍女用の言葉づかいを覚えさせる為しばらくは自分の部屋から出さないようにしようと内心思っていたナルセフだったが、リリアナの綺麗な侍女言葉にその必要ななさそうだと考えを改めた。



リリアナはまだ輿入れ前。

と、言うことになっている。

ので、リリアナは公式にセルフィに会うことはできない。公式には。

が、リリアナ改め侍女リリーはナルセフについてリリアナを迎え入れる為の準備を行っている。

ナルセフはもともと城内の一室で生活していたが「姫を迎えいれる為の準備」と称して、もともと与えられていた城敷地内の別の宮へ移った。通称春の宮と言われるこの建物はもともと先の王太后が住んでいらっしゃったが亡くなられた折、ナルセフが譲りうけ居宮としていた。

厩も鍛錬場も近くナルセフにとっては便利な荷物置き場、と化しているだけだったが。

ナルセフは腹心の部下しか出入りしないこの宮にリリーを住まわせることにしたのだ。


「初めてご挨拶いたします。スマリ王国第3王女侍女リリーにございます」

リリアナは非公式に弟の宮を訪れたセルフィに侍女の礼をとって挨拶した。

「正式なご挨拶はまた改めて」顔を起こしにっこりとほほ笑む。

セルフィもにこやかにあいさつした。

「なかなかお互いに正式にあいさつできませんね。前回はお忍びと釣り人、今回はお忍びと侍女。貴方はいくつも顔があるらしい」

セルフィが優雅な物腰でリリアナに席を薦める。リリアナがためらうとセルフィが改めて声をかけた。

「ナルセフのこの春の宮の中でも、この部屋とナルセフの寝室は外から全く見えないように設計されています。宮に出入りする者はナルセフの息のかかった者のみ。ここではいつものリリアナ姫でいていただいてかまいませんよ」


中庭に面していて明るいが完全に外部からは遮断されている。鳥でもなければ部屋をのぞきこむことは不可能な作りになっている。

それでは。と、リリアナはナルセフの横に腰掛けた。

「第一王子としての挨拶は改めてさせていただきますが。今はナルセフの兄として。リリアナ姫。今回の輿入れ、まことにありがとうございます。貴方の恐ろしく迅速な行動は私たちに貴重な時間をもたらした」

セルフィは真摯な眼差しでリリアナを見た。

「もうご存知のようですが。近隣諸国のきな臭さに加え、わが父の容態は思わしくなく、わがタタラニア王国は非常に不安定な状態にあります。貴族の中には私にあからさまに楯突く者もいますし、静観している者もいます。これを機にナルセフを担ごうという者もいれば、他国と通じようとしている者もいます」


いったん、口をつぐみセルフィはナルセフを見た。そしてリリアナとナルセフの双方に向かって話した。

「私は自分が王にならねばならないとは思っていません」

「兄上!」驚いて口を挟もうとするナルセフをセルフィは眼差しで黙らせた。

「国が平穏で、民が平和であるなら、王は誰でも良いのです。王の為に国があるのではなく、民の為に王がいるのですから。私は生まれながらにして特権を持っています。王の第一子に生まれた、というだけで。私はこの権利と同等の義務を国に、民に返さねばならないのです」


だから、今、この第一王子の権利を返上はしない。少なくとも国の安寧と民の幸せを見届けるまでは義務を果たす。

そこまで言ってナルセフは改めてリリアナに頭を下げた。「タタラニア王国とスマリ王国の架け橋になってください」


「お話は分かりました。私も王族の身。自分が果たすべき義務を理解しております。ナルセフ殿下とともにセルフィ殿下をお支えし、タタラニア王国とスマリ王国の結びつきを強固なものにしていきますわ」

リリアナは居住まいを正してセルフィに答えた。





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