いざ、出発!
早朝の王宮の庭にはふつう人の気配はない。兵士たちの鍛錬場は別の場所にあるため、朝露と鳥の鳴き声だけで、穏やかに1日が始まる。普通は。
朝露の庭をリリアナは急ぎ足で東屋へ向かった。おそらくいるだろう、という予測があった。東屋には一人の男性がいた。タタラニア王国の使者だ。
リリアナと目があったら男性が立ち上がり、リリアナの足元に跪いた。
「リリアナ姫とお見受けします。お初にお目にかかります。タタラニア王国 第一王子側近ラクレス・クラウドにございます」
「クラウド様。お話は伺っております。初めまして。リリアナと申します。このたびはようこそおいでくださいました」
リリアナが丁寧に淑女の礼をとると、クラウドは驚いたように目を見開いた。
リリアナはニヤリと笑う。
「まあ。どうやら私のことは『釣りが好きな変わり者』としか聞いていらっしゃらないようですわね」
クラウドが口ごもる。
「いくら変わり者でも最低限のマナーは身に着けておりますわ。ナルセフ殿下に恥をかかせるような振る舞いはいたしません。ご安心くださいな」
クラウドは跪いたまま居住まいを正した。
「大変失礼いたしました。確かにナルセフ殿下より色々伺ってはおりましたが、セルフィ殿下より心して相対せ、とも言われております」
クラウドは改めて頭を下げた。
「此度の婚姻の申し出、お受けくださいましてありがとうございます。本来であれば、第一王子セルフィ殿下の正室とお迎えするのが最善なのでしょうが、我が国の内部が落ち着かず、第一王子の正室を異国より迎えることに対し反対勢力を押さえることができませんでした。セルフィ殿下の側室で、という話も出たのですが、ナルセフ殿下たっての希望で、ナルセフ第二王子正室、というお申し出になりました」
「頭をお上げくださいな。黙っていればわかりませんのに、正直ですこと。殿下から事情を説明するよう言われていらっしゃるのかしら?タタラニア王国が誠実であってくださろうとすることを大変うれしく思います。確かに婚姻によって両国の結びつきを強固にしたいと私も思っておりましたが、正直、第二王子の方が私の身動きがとりやすく返ってありがたいのです。隣国がきな臭い以上、あまり猶予もありません。早々に決断してくださって、ようございました」
お立ちになって、クラウド様。
リリアナはにっこり笑って、クラウドを見た。
「そんなわけで、帰国の際には私をご一緒に連れて行ってくださいませ」
この日朝からクラウドは2度も固まる羽目になった。
どこの世界に、求婚の使者に連れられて嫁入りする姫がいるというのだ。




